質問者:
高校生
きみか
登録番号5869
登録日:2024-04-15
植物は害虫に襲われると揮発物質を出して他の部位や他の植物に防御するよう伝達することを知りました。みんなのひろば
植物の揮発物質と種間競争
またその揮発物質は同じ種類の植物だけでなく他の植物も感知することができるらしいです。
しかしここで疑問が生じます。他の種類の植物には感知させず、同じ種類の植物だけ感知するようにすれば、他の種類の植物が害虫に食われることで淘汰され、種間競争に勝つことができると思います。わざわざ他の植物に感知させてその生存率を上昇させる理由を教えてください。
きみか様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
明確な理由を挙げて説明するにはとても難しい質問です。すでに他の資料で勉強されてご存知のことですが、揮発性物質 (Volatile Organaic Compounds :VOCs、一般にテルペン類)は植物にとって、植物間の優れたコミュニケーション・ネットワークを担う決定的な化合物です。ある植物が昆虫や動物の食害、微生物による病害を受けたりすると、植物体から特定のVOCsを放出し、これが当の病害虫などを抑え込んだり、また、これらの病害虫の天敵を惹きつけて対抗したりして、自分が被るであろう損傷を少なくしようとします(登録番号5556 を読んでください)。さらに、ご質問にもあるように、VOCsは周辺の他の植物への潜在的な危険遭遇の警告信号としての役割を果たしています。勿論その範囲は風向きなどの気象状況にも影響されます。
VOCsは上記の様な一種の防御メカニズムの要因ではありますが、受粉に際し、送粉者(昆虫など)を誘因したりすることなどにも使われています。つまり、VOCsは植物間の相互作用を容易にする仲介をしているだけでなく、生物の共生関係の仲介にも預かっているわけです。
さて、ご質問は、自分の身内でもないのにどうして別種の植物にも恩恵を与えるのかということだと思います。ある植物のVOCsが他の植物にも役立つことを生理的な面だけから想像すると、いくつか理由が挙げられます。VOCsを発信する植物をA、受信する植物をBとします。
1)BはAの近縁であるので、AのVOCsを信号として受容できる機構を持っている。
2)Aの発するVOCsは種特異的ではない。
3)BはたまたまAのVOCsを信号として受容する機構を持っていた。
4)Bが外敵を防御して生き延びることは、Aにとっても何らかのメリットとなる。
!)〜 3)は調べれば分かることですが、4)は生態学的な事柄でもあるので、これを実験的に証明するのは容易ではないでしょう。しかし、個人的にはそうではないかと思います。では、どんなメリットかと問われると、確認されている証拠はありませんので、想像を書いてみます。
自然に生育する植物は、ある生態系の一員として存在しているのが普通です。同じ生態系内のAが最初にある害虫の攻撃を受けてVOCsを発し、それを別種のBが警告信号として受け取って、防御体制を準備できたとします。ということは、Bもまた同じ害虫に攻撃されやすいわけですから、Bが最初に攻撃をうけてVOCsを発したら、今度はAが同じ様に準備体制をとることができます。持ちつ持たれつではないでしょうか。また、両者が害虫への反撃をすれば、害虫の繁殖を抑制することにもつながります。
1つの生態系全体を見た時、植物の間で、また、植物と他の生物との間で行われるVOCsを介しての遣り取りは生態系を健全に維持する一つの手段でもあると思われます。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
明確な理由を挙げて説明するにはとても難しい質問です。すでに他の資料で勉強されてご存知のことですが、揮発性物質 (Volatile Organaic Compounds :VOCs、一般にテルペン類)は植物にとって、植物間の優れたコミュニケーション・ネットワークを担う決定的な化合物です。ある植物が昆虫や動物の食害、微生物による病害を受けたりすると、植物体から特定のVOCsを放出し、これが当の病害虫などを抑え込んだり、また、これらの病害虫の天敵を惹きつけて対抗したりして、自分が被るであろう損傷を少なくしようとします(登録番号5556 を読んでください)。さらに、ご質問にもあるように、VOCsは周辺の他の植物への潜在的な危険遭遇の警告信号としての役割を果たしています。勿論その範囲は風向きなどの気象状況にも影響されます。
VOCsは上記の様な一種の防御メカニズムの要因ではありますが、受粉に際し、送粉者(昆虫など)を誘因したりすることなどにも使われています。つまり、VOCsは植物間の相互作用を容易にする仲介をしているだけでなく、生物の共生関係の仲介にも預かっているわけです。
さて、ご質問は、自分の身内でもないのにどうして別種の植物にも恩恵を与えるのかということだと思います。ある植物のVOCsが他の植物にも役立つことを生理的な面だけから想像すると、いくつか理由が挙げられます。VOCsを発信する植物をA、受信する植物をBとします。
1)BはAの近縁であるので、AのVOCsを信号として受容できる機構を持っている。
2)Aの発するVOCsは種特異的ではない。
3)BはたまたまAのVOCsを信号として受容する機構を持っていた。
4)Bが外敵を防御して生き延びることは、Aにとっても何らかのメリットとなる。
!)〜 3)は調べれば分かることですが、4)は生態学的な事柄でもあるので、これを実験的に証明するのは容易ではないでしょう。しかし、個人的にはそうではないかと思います。では、どんなメリットかと問われると、確認されている証拠はありませんので、想像を書いてみます。
自然に生育する植物は、ある生態系の一員として存在しているのが普通です。同じ生態系内のAが最初にある害虫の攻撃を受けてVOCsを発し、それを別種のBが警告信号として受け取って、防御体制を準備できたとします。ということは、Bもまた同じ害虫に攻撃されやすいわけですから、Bが最初に攻撃をうけてVOCsを発したら、今度はAが同じ様に準備体制をとることができます。持ちつ持たれつではないでしょうか。また、両者が害虫への反撃をすれば、害虫の繁殖を抑制することにもつながります。
1つの生態系全体を見た時、植物の間で、また、植物と他の生物との間で行われるVOCsを介しての遣り取りは生態系を健全に維持する一つの手段でもあると思われます。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-04-22