一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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鋸歯の有無と年平均気温の関係について

質問者:   一般   柴犬
登録番号5873   登録日:2024-04-20
はじめてご質問させていただきます。
先日、たまたま植物Q&Aの「鋸歯の役割」(登録番号3320)を拝見しました。非常に興味深く、有益な情報でした。特に、鋸歯の有無と年平均気温との間には関係があり、年平均気温が高いほどその地域に生える植物の中で、鋸歯が目立つものの比率が低くなる傾向があることには驚きました。
そこで、質問があります。色々と調べてみると、この法則は主に被子植物の広葉樹に基づいていることがわかりました。鋸歯を持つ植物は他にもたくさんあると思いますが、他の植物(草本も含めて)にはこの法則は当てはまらないのでしょうか?
柴犬 様

日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、植物の発生や形作りの仕組みやこれらの進化を詳細にご研究されている東京大学大学院理学系研究科 教授 塚谷裕一先生にお願いいたしました。

【塚谷先生の回答】

ご質問をありがとうございます。

鋸歯をもつ種類の頻度と年平均気温との相関は、葉の形態を研究する者にとって大きな謎の一つですが、化石記録から当時の気象を推定する手法として古くから重宝されてきた事実です。ご指摘のように、木本の植物の葉の化石を使って推定するのが定石で、草本の種類は扱わないのが普通のようです。それは1916年の報告で、草本の葉の特徴は気候要素との相関が弱いとされたからです。しかし最近、世界各地の現生の植物について葉の形態データを集めて、年平均気温などの気象要素との相関を調べた報告によると、木本の葉の形態データと、草本(ただし真正双子葉類)の葉の形態データとは、気候要素との相関において、基本的に同じような数値が得られたようです。

 ただし、もともとこの相関性に興味が持たれたのは、この相関性を使って過去の化石の出土した時代の気象を推定しようというのがその目的ですから、化石に残りにくい柔らかい草本の葉のデータは活用がしづらいかもしれません。

 一方で、なぜそうした相関が得られるのかは、最初に述べたように発生や形態形成を研究する立場からすると大きな謎ですので、研究しやすい草本でも相関が見られたのは、朗報と言えると思います。実は相関性は周りに水環境があるか、常緑樹が多いか、などいくつかの要因でブレることがわかっています。そうしたブレのために、過去の気象を正しく推定できているかどうかは、必ずしも明らかではないのが実情ですが、なぜそうした相関が生まれるのかのメカニズムが、発生学的に解明できれば、今後、過去の気象の推定に活用する上でも大きな進展が得られると思います。

 今後の若い世代の研究成果に期待するところです。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科生物科学科)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-05-02
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