質問者:
会社員
ちゃい
登録番号5874
登録日:2024-04-21
他の落葉樹は秋から冬に落葉、常緑樹は順繰りに葉が入れ替わりますが、クスノキが春に一斉に落葉するのはなぜでしょうか。みんなのひろば
クスノキが春に落葉する理由
秋の落葉の理屈が当てはまらなくないでしょうか?これから高まっていくエネルギーを新しい葉で作っていくためでしょうか?
ちゃい様
みんなのひろば・植物Q&Aに質問をおよせいただき有難うございます。
「常緑樹」、「落葉樹」の定義は、葉が常に存在するか、存在しない時期があるか、というものです。したがって樹木全体は通年緑色で常緑樹ではあるが、葉の寿命は1年よりも短い場合もあります(登録番号0217)。クスノキは常に葉が存在するので「常緑樹」です。しかし、強い光を受ける場所にある葉の寿命はほぼ1年で、ご指摘のように、春、新しい葉が展開する時期に落葉します。
「落葉」というと、日本で暮らす私たちには、秋に一斉に落葉する「落葉樹」がまず思い浮かびますが、世界的にみると熱帯季節林などに、乾季になると葉を落とす「落葉樹」もあります。これらの落葉樹を、夏に葉をつける「夏緑樹」と雨季に葉をつける「雨緑樹」と呼び分けます。これらの樹木では、光合成生産に不適当な冬季や乾季を前にして落葉が起こります。また、冬季には土壌の凍結や水や無機栄養分を運ぶ木部が凍結することがあります。乾季には、土壌水分が不足します。気孔をぴったりと閉じたとしても、生きている葉からはクチクラ蒸散で水が失われますので、このような状況で生葉を着けておくのは危険でもあります。光合成生産に不適な期間が長く、生葉を持っていても光合成生産が起こりにくいが維持コストはかさむ、しかも、樹木全体脱水の危険がある。これらを回避するのが落葉性の意義、「なぜ冬季や乾季に落葉するのか」の答えです。この答えについては登録番号3626や以下の「古典」をご参照ください。
菊沢喜八郎 葉の寿命の生態学ー個葉から生態系へ 共立出版(2005)
落葉を含む器官脱離(Abscission)の古典的解説書には、もう1つの落葉様式である「春落葉(Vernal abscission)」を、亜熱帯や温帯の常緑樹に一般的な現象として取り上げてあります。
Addicott, F.T., Abscission. University of California Press (1982)
1年中緑の葉をつけてはいるので常緑樹だが、落葉はほぼ一斉に起こります。クスノキの少なくとも強い光を受ける葉の落葉は、この様式にあてはまります。では、「なぜクスノキの強い光を受ける葉は春落葉する」のでしょうか。菊沢理論などをもとに考えてみましょう。クスノキの生育する環境は暖温帯で、冬季も光合成が可能な環境です。しかし、明るい場所の枝の成長は著しく、長寿命の葉を着けたとしても、すぐに若い新葉の陰になってしまいます。暗い場所で光合成生産を継続するよりも、冬季に光合成を行った後には、NやPなどの主要な栄養塩を若い葉に渡して落葉するという戦略が成り立つと思われます。常緑性で葉の寿命もより長いカシ類、スダジイ、タブノキなどの立派な葉と比べると、クスノキの葉は落葉樹並の安普請となっているのも、「短寿命」を想定した戦略の一端だと理解できます。これが私の考えも入れたご質問への回答です。チャイさんのお考えは、ほぼ「正解」だと思います。
ヤブニッケイやシロダモのように日本の常緑広葉樹林(照葉樹林)の主要な構成となっているクスノキ科の樹木は、照葉樹林の林床の暗い場所でも見かけます。このような場所では葉の寿命も長くなる傾向があります。クスノキは自然植生ではあまり見かけることはなく、明るい場所に植栽される場合が多いので「春落葉」が目立つ存在となっていると思います。
みんなのひろば・植物Q&Aに質問をおよせいただき有難うございます。
「常緑樹」、「落葉樹」の定義は、葉が常に存在するか、存在しない時期があるか、というものです。したがって樹木全体は通年緑色で常緑樹ではあるが、葉の寿命は1年よりも短い場合もあります(登録番号0217)。クスノキは常に葉が存在するので「常緑樹」です。しかし、強い光を受ける場所にある葉の寿命はほぼ1年で、ご指摘のように、春、新しい葉が展開する時期に落葉します。
「落葉」というと、日本で暮らす私たちには、秋に一斉に落葉する「落葉樹」がまず思い浮かびますが、世界的にみると熱帯季節林などに、乾季になると葉を落とす「落葉樹」もあります。これらの落葉樹を、夏に葉をつける「夏緑樹」と雨季に葉をつける「雨緑樹」と呼び分けます。これらの樹木では、光合成生産に不適当な冬季や乾季を前にして落葉が起こります。また、冬季には土壌の凍結や水や無機栄養分を運ぶ木部が凍結することがあります。乾季には、土壌水分が不足します。気孔をぴったりと閉じたとしても、生きている葉からはクチクラ蒸散で水が失われますので、このような状況で生葉を着けておくのは危険でもあります。光合成生産に不適な期間が長く、生葉を持っていても光合成生産が起こりにくいが維持コストはかさむ、しかも、樹木全体脱水の危険がある。これらを回避するのが落葉性の意義、「なぜ冬季や乾季に落葉するのか」の答えです。この答えについては登録番号3626や以下の「古典」をご参照ください。
菊沢喜八郎 葉の寿命の生態学ー個葉から生態系へ 共立出版(2005)
落葉を含む器官脱離(Abscission)の古典的解説書には、もう1つの落葉様式である「春落葉(Vernal abscission)」を、亜熱帯や温帯の常緑樹に一般的な現象として取り上げてあります。
Addicott, F.T., Abscission. University of California Press (1982)
1年中緑の葉をつけてはいるので常緑樹だが、落葉はほぼ一斉に起こります。クスノキの少なくとも強い光を受ける葉の落葉は、この様式にあてはまります。では、「なぜクスノキの強い光を受ける葉は春落葉する」のでしょうか。菊沢理論などをもとに考えてみましょう。クスノキの生育する環境は暖温帯で、冬季も光合成が可能な環境です。しかし、明るい場所の枝の成長は著しく、長寿命の葉を着けたとしても、すぐに若い新葉の陰になってしまいます。暗い場所で光合成生産を継続するよりも、冬季に光合成を行った後には、NやPなどの主要な栄養塩を若い葉に渡して落葉するという戦略が成り立つと思われます。常緑性で葉の寿命もより長いカシ類、スダジイ、タブノキなどの立派な葉と比べると、クスノキの葉は落葉樹並の安普請となっているのも、「短寿命」を想定した戦略の一端だと理解できます。これが私の考えも入れたご質問への回答です。チャイさんのお考えは、ほぼ「正解」だと思います。
ヤブニッケイやシロダモのように日本の常緑広葉樹林(照葉樹林)の主要な構成となっているクスノキ科の樹木は、照葉樹林の林床の暗い場所でも見かけます。このような場所では葉の寿命も長くなる傾向があります。クスノキは自然植生ではあまり見かけることはなく、明るい場所に植栽される場合が多いので「春落葉」が目立つ存在となっていると思います。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-05-03