質問者:
会社員
キビタキ
登録番号5877
登録日:2024-04-22
白亜紀に花が誕生し、昆虫と共進化してきたと学びました。みんなのひろば
モクレンとユリノキの進化の時期について
インターネットに、モクレンが誕生した頃はまだ花の蜜を利用する昆虫はいなかったから蜜を出さないという記述が出てきます。
疑問なのは、なぜモクレン属の姉妹のユリノキ属の方は蜜をたっぷり出すのかです。
ということは、
1、姉妹とはいえモクレンとユリノキは誕生した時代が少し違う。
2、モクレンが誕生した頃にも、すでに花の蜜を吸う昆虫はいて、たまたまモクレンは香りだけで誘引した。
もしモクレンが蜜を報酬に考えたなら白亜紀の後に蜜を出す進化をしたのではないか。
素人なりに2つ考えてみましたが調べても分かりませんでした。
教えていただけたら幸いです。
キビタキ 様
この度は日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへ、とても興味深いご質問をいただきありがとうございました。またご質問への回答が遅くなり申し訳ありません。
回答は、花と昆虫の共進化などをご研究されている東京大学大学院理学研究科教授であり附属植物園(小石川植物園)園長もお務めの川北篤先生よりいただくことができました。
【川北先生からの回答】
現在の被子植物の花の蜜を吸う主な動物であるハナバチやチョウ、鳥などは、被子植物の急速な多様化が始まった白亜紀中期以降に多様化したものですから、モクレン類が起源した時期にはほとんどいなかったと考えられます。実際、被子植物の中でもモクレン類のように比較的初期に誕生した植物(基部被子植物と呼ばれ、アンボレラ目、スイレン目、マツブサ目、モクレン目、クスノキ目、コショウ目などが含まれます)は蜜を出さないものがほとんどです。しかし、基部被子植物がすべて蜜を出さないかというとそうでもなく、クスノキ科やロウバイ科には、ユリノキのように花から蜜を出し、ハナバチやハエなどの昆虫に受粉される植物があります。これらの植物は起源は古くても、現在までに至る進化のどこかの時点で蜜を吸う昆虫や鳥に受粉を託すように花を変化させたのだと考えられます。ユリノキは花からたくさんの蜜を出し、ヒヨドリなどの鳥がこれを食べて受粉を助けますので、鳥が多様化した新生代第三紀以降に現在のような花を発達させたのでしょう。
基部被子植物に蜜を出す植物は少ないですが、近年の研究では、被子植物の多様化以前にも蜜を吸う昆虫自体はいたことが分かっています。例えば熱帯に生育するグネツムと呼ばれる裸子植物は、胚珠の先端から分泌される受粉滴(もともとは風に飛ばされた花粉を捉えるために裸子植物の胚珠が分泌する液体)に糖が含まれていて甘く、現在はガがこれを吸って花粉を媒介します。裸子植物には中生代末までに絶滅してしまった群が多くありますが、そのいくつかは、被子植物の多様化以前から、受粉滴を吸うシリアゲムシ目、アミメカゲロウ目、ハエ目などの昆虫によって受粉されていたと考えられることが化石の研究から分かっています。ユリノキの祖先はモクレン属と同じように蜜のない花をつけていて、進化のどこかの時点で鳥に適応するようになったとも考えられますが、誕生した当初はその時点で蜜を利用していた昆虫に受粉を託していて、鳥の出現以降に現在のような鳥に適応した花をつけるようになったのかもしれません。
===
以上、ご参考になりましたでしょうか。タイムマシンでもない限り歴史の現場を直接辿ることはできませんがこうした過程が考察されているのですね。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
この度は日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへ、とても興味深いご質問をいただきありがとうございました。またご質問への回答が遅くなり申し訳ありません。
回答は、花と昆虫の共進化などをご研究されている東京大学大学院理学研究科教授であり附属植物園(小石川植物園)園長もお務めの川北篤先生よりいただくことができました。
【川北先生からの回答】
現在の被子植物の花の蜜を吸う主な動物であるハナバチやチョウ、鳥などは、被子植物の急速な多様化が始まった白亜紀中期以降に多様化したものですから、モクレン類が起源した時期にはほとんどいなかったと考えられます。実際、被子植物の中でもモクレン類のように比較的初期に誕生した植物(基部被子植物と呼ばれ、アンボレラ目、スイレン目、マツブサ目、モクレン目、クスノキ目、コショウ目などが含まれます)は蜜を出さないものがほとんどです。しかし、基部被子植物がすべて蜜を出さないかというとそうでもなく、クスノキ科やロウバイ科には、ユリノキのように花から蜜を出し、ハナバチやハエなどの昆虫に受粉される植物があります。これらの植物は起源は古くても、現在までに至る進化のどこかの時点で蜜を吸う昆虫や鳥に受粉を託すように花を変化させたのだと考えられます。ユリノキは花からたくさんの蜜を出し、ヒヨドリなどの鳥がこれを食べて受粉を助けますので、鳥が多様化した新生代第三紀以降に現在のような花を発達させたのでしょう。
基部被子植物に蜜を出す植物は少ないですが、近年の研究では、被子植物の多様化以前にも蜜を吸う昆虫自体はいたことが分かっています。例えば熱帯に生育するグネツムと呼ばれる裸子植物は、胚珠の先端から分泌される受粉滴(もともとは風に飛ばされた花粉を捉えるために裸子植物の胚珠が分泌する液体)に糖が含まれていて甘く、現在はガがこれを吸って花粉を媒介します。裸子植物には中生代末までに絶滅してしまった群が多くありますが、そのいくつかは、被子植物の多様化以前から、受粉滴を吸うシリアゲムシ目、アミメカゲロウ目、ハエ目などの昆虫によって受粉されていたと考えられることが化石の研究から分かっています。ユリノキの祖先はモクレン属と同じように蜜のない花をつけていて、進化のどこかの時点で鳥に適応するようになったとも考えられますが、誕生した当初はその時点で蜜を利用していた昆虫に受粉を託していて、鳥の出現以降に現在のような鳥に適応した花をつけるようになったのかもしれません。
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以上、ご参考になりましたでしょうか。タイムマシンでもない限り歴史の現場を直接辿ることはできませんがこうした過程が考察されているのですね。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
川北 篤(東京大学大学院理学研究科・附属植物園(小石川植物園)園長)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-08-18
藤田 知道
回答日:2024-08-18