質問者:
会社員
すぎ
登録番号5882
登録日:2024-04-27
【質問の背景】みんなのひろば
人工杉の自然繁殖について
人工スギによる花粉の飛散がニュースとして取り上げられており、人間目線で花粉症による日常生活への弊害が言及されております。しかし、本来花粉は植物の繁殖手段であるため、飛散量が増えているのであればその植物の子孫は増え続けているのではないかと仮定したことが発端です。
【お聞きしたいこと】
人工スギは自然繁殖により年々増えているのですか。
以上
よろしくお願い申し上げます。
すぎ様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。この度のご質問に対しては、東京大学大学院農学生命科学研究科特任研究員の久保山京子博士のご紹介で、森林植物学の研究をされている同研究科の教授福田健二先生にお願いして、下記のような回答を書いていただきました。
【福田先生の回答】
「人工スギ」というのは、いわゆる「天然杉」(スギ天然林)ではない、人が植えたスギ(スギ人工林)という意味かと思います。人によって植えられたスギの人工林から大量の花粉が飛散して、花粉症の原因となっていることは周知の通りですし、花粉は子孫を作るためのものだというのもおっしゃる通りです。
もし、大量に飛散しているスギ花粉が子孫(自然の芽生え)を増やすことに貢献しているとすると、スギの個体数やスギ林の面積がどんどん増えていくことになるのではないか?という意味のご質問ですね。
お答えします。人間がスギをたくさん植えて、それらが花粉や種子を大量に生産しているのは事実ですが、それでスギの個体数がどんどん増えたり、スギ林の面積が年々増えるという結果にはなっていません。なぜそうならないのかを以下にご説明します。
ご存知と思いますが、植物の花粉は繁殖のために作られるものですが、花粉それ自体が次世代の植物に成長するわけではありません。スギの花粉が、風に乗って雌花(「球花」)にある「胚珠」に運ばれ(受粉)、雌花が発達してできた「球果」(マツでいう松ぼっくり)の中で種子になります。その種子が地面に落ちて発芽してはじめて次世代のスギとなります。つまり、花粉が広範囲に大量に飛散しても、そこに雌花をつけたスギが生えていなければ、種子は作られません。スギのように風で花粉が飛散する風媒花をもつ植物では、虫媒花のようにチョウやハチが同じ樹種の花のめしべに花粉を運んでくれるわけではないので、大量の花粉を生産しますが、そのほとんどは雌花に到達することなく死んでしまいます。
スギの1個の雄花(雄性球花)には、十万〜数十万粒の花粉が作られます(https://www.jstage.jst.go.jp/article/fgtb/11/2/11_97/_pdf/-char/ja)。環境省の調査結果(https://www.env.go.jp/content/000184013.pdf)によると、雄花は、スギ林1m2あたり数千〜1万数千個です(スギ1本あたりにすると1〜数万個程度)。したがって、スギの木1本あたりの花粉の個数は数十〜数百億個にもなる計算です。
そして、花粉は1個の重さが1億分の1グラム程度(https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/pdf/111227-03.pdf)と非常に軽く、気嚢(浮き袋)がついているので、空気中を地長時間漂い、遠くまで飛んでいきます。そのため、スギ林のない都会の人々にも花粉症を引き起こしています。
一方、スギ人工林では多数の種子ができますが、多数といっても種子の数は花粉の数に比べれば何桁も少ない数です。具体的には、スギ1個体に作られる球果は数百個程度、1個の球果につく種子の数は数十個(https://www.ffpri.affrc.go.jp/snap/2017/8-sugi.html)
ですので、スギ1本あたりの種子数は数千〜1万個程度です。そして、種子は花粉のように軽くないので(500分の1g 程度)、両側に小さな翼がついていて風で散布されるとはいえ、それほど遠くまで飛んでいくことはできません。スギの人工林の地面や、スギ林に面した道路端などを見ていると、スギの芽生えが生えているのはよく観察されますが、近くに親木(母樹)となるスギがない都会の空き地や田畑の中に、スギの芽生えが自然に生えてくることはありません。また、近くにスギの親木があって空き地にスギの種子が飛んできたとしても、日当たりの良い空き地を好むセイタカアワダチソウやススキなどの草本植物や、ヤナギやアカメガシワ、ヤマグワなどの成長の速い広葉樹(先駆樹種)に比べるとスギの成長は遅いので、競争に負けてしまい大きくなることができずに枯れてしまうことも多いでしょう。
第二次戦後、1970年代までは、薪や炭としての利用がなされなくなった広葉樹林や草原にスギを植えて木材を増産しようとした「拡大造林」政策が推進され、全国各地でスギが植えられましたが、スギの苗を植えても土壌や気候の条件が合わなかったり、広葉樹やササとの競争に負けてしまったりしてスギ林にならなかった場所もたくさんあります(「不成績造林地」といいます)。日本のスギ林のほとんどが人工林であるということは、人が適地に植えて手間をかけて育てないと、スギ林にはならないということの裏返しでもあるのです。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。この度のご質問に対しては、東京大学大学院農学生命科学研究科特任研究員の久保山京子博士のご紹介で、森林植物学の研究をされている同研究科の教授福田健二先生にお願いして、下記のような回答を書いていただきました。
【福田先生の回答】
「人工スギ」というのは、いわゆる「天然杉」(スギ天然林)ではない、人が植えたスギ(スギ人工林)という意味かと思います。人によって植えられたスギの人工林から大量の花粉が飛散して、花粉症の原因となっていることは周知の通りですし、花粉は子孫を作るためのものだというのもおっしゃる通りです。
もし、大量に飛散しているスギ花粉が子孫(自然の芽生え)を増やすことに貢献しているとすると、スギの個体数やスギ林の面積がどんどん増えていくことになるのではないか?という意味のご質問ですね。
お答えします。人間がスギをたくさん植えて、それらが花粉や種子を大量に生産しているのは事実ですが、それでスギの個体数がどんどん増えたり、スギ林の面積が年々増えるという結果にはなっていません。なぜそうならないのかを以下にご説明します。
ご存知と思いますが、植物の花粉は繁殖のために作られるものですが、花粉それ自体が次世代の植物に成長するわけではありません。スギの花粉が、風に乗って雌花(「球花」)にある「胚珠」に運ばれ(受粉)、雌花が発達してできた「球果」(マツでいう松ぼっくり)の中で種子になります。その種子が地面に落ちて発芽してはじめて次世代のスギとなります。つまり、花粉が広範囲に大量に飛散しても、そこに雌花をつけたスギが生えていなければ、種子は作られません。スギのように風で花粉が飛散する風媒花をもつ植物では、虫媒花のようにチョウやハチが同じ樹種の花のめしべに花粉を運んでくれるわけではないので、大量の花粉を生産しますが、そのほとんどは雌花に到達することなく死んでしまいます。
スギの1個の雄花(雄性球花)には、十万〜数十万粒の花粉が作られます(https://www.jstage.jst.go.jp/article/fgtb/11/2/11_97/_pdf/-char/ja)。環境省の調査結果(https://www.env.go.jp/content/000184013.pdf)によると、雄花は、スギ林1m2あたり数千〜1万数千個です(スギ1本あたりにすると1〜数万個程度)。したがって、スギの木1本あたりの花粉の個数は数十〜数百億個にもなる計算です。
そして、花粉は1個の重さが1億分の1グラム程度(https://www.rinya.maff.go.jp/j/press/hozen/pdf/111227-03.pdf)と非常に軽く、気嚢(浮き袋)がついているので、空気中を地長時間漂い、遠くまで飛んでいきます。そのため、スギ林のない都会の人々にも花粉症を引き起こしています。
一方、スギ人工林では多数の種子ができますが、多数といっても種子の数は花粉の数に比べれば何桁も少ない数です。具体的には、スギ1個体に作られる球果は数百個程度、1個の球果につく種子の数は数十個(https://www.ffpri.affrc.go.jp/snap/2017/8-sugi.html)
ですので、スギ1本あたりの種子数は数千〜1万個程度です。そして、種子は花粉のように軽くないので(500分の1g 程度)、両側に小さな翼がついていて風で散布されるとはいえ、それほど遠くまで飛んでいくことはできません。スギの人工林の地面や、スギ林に面した道路端などを見ていると、スギの芽生えが生えているのはよく観察されますが、近くに親木(母樹)となるスギがない都会の空き地や田畑の中に、スギの芽生えが自然に生えてくることはありません。また、近くにスギの親木があって空き地にスギの種子が飛んできたとしても、日当たりの良い空き地を好むセイタカアワダチソウやススキなどの草本植物や、ヤナギやアカメガシワ、ヤマグワなどの成長の速い広葉樹(先駆樹種)に比べるとスギの成長は遅いので、競争に負けてしまい大きくなることができずに枯れてしまうことも多いでしょう。
第二次戦後、1970年代までは、薪や炭としての利用がなされなくなった広葉樹林や草原にスギを植えて木材を増産しようとした「拡大造林」政策が推進され、全国各地でスギが植えられましたが、スギの苗を植えても土壌や気候の条件が合わなかったり、広葉樹やササとの競争に負けてしまったりしてスギ林にならなかった場所もたくさんあります(「不成績造林地」といいます)。日本のスギ林のほとんどが人工林であるということは、人が適地に植えて手間をかけて育てないと、スギ林にはならないということの裏返しでもあるのです。
福田 健二(東京大学大学院農学生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2024-05-14
勝見 允行
回答日:2024-05-14