一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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クルクミンはなぜ合成されるのか

質問者:   会社員   LEDマニア
登録番号5893   登録日:2024-05-14
こんにちは。
ウコン(Curcuma longa)について調べていく中で、クルクミンが無遮光より遮光下で多いという論文をちらほら見ました。私の考えの中では、クルクミンもポリフェノールの一種なので、紫外線により合成が促進されるだろうと思っていましたが、どうやらそういうわけでもなさそうです。
ウコンはクルクミンを何のために合成していると考えられているのでしょうか?

ご回答いただけますと幸いです。
LEDマニア様

ご質問ありがとうございます。回答者の専門は植物の光応答ですが、光と二次代謝の関係にも興味がありますので、少し文献等を調べてみました。

 代表的なポリフェノール類であるフラボノイド類は、紫外線を吸収することで紫外線による障害を防止する働きがあります。また抗酸化作用もあります。光とフラボノイド合成の関係については、これまでに多くの研究例があり、紫外線や強光が合成を誘導することはご指摘の通りです。

 一方、ポリフェノール類には非フラボノイド類に分類される二次代謝物も様々知られており、クルクミンもそこに含まれます。これらの物質には、抗酸化作用に加え、生体防御、機械的サポート、着色による昆虫等の誘因、など多様な生理機能があることが知られています。

 さて、このように多様な機能をもつポリフェノール類ですが、光環境との関係について見ると、確かに一般的な傾向としては、強光、紫外線、青色光などで誘導効果が見られることが多いようです。ポリフェノール類の合成の初期段階が共通していることを考えると、この結果は予想通りと言えるかもしれません。しかしながら、様々な例外も報告されており、個別の事象については調べてみないとわからないと考えた方が良さそうです。

 以上を踏まえた上でクルクミンについて考えてみたいと思います。クルクミンについて注意が必要なのは、蓄積する部位が葉、茎、花などの地上部ではなく、地下にあり光が遮断された根茎だという点です。実際、これまで調べられた光の効果の多くは、光に直接さらされた地上部に関するものです。一方ウコンの場合は、地上部が受容した光刺激が地下部にどのように影響するかを考える必要があります。従って、地上部とは異なる効果が出ても不思議はないとも言えます。

 最後に、クルクミンの植物における機能について述べます。なかなかこれという文献を見つけることができず、二次代謝を専門とする先生にお聞きしたところ、生体防御の可能性が高いが詳しい研究はまだされてないとのことでした。クルクミンの生理作用については、ヒトに対する薬理作用が広く研究されているのに対し、植物生理学の立場からの研究は極端に少ないようです。地下部における二次代謝物の研究はまだこれからの分野のようですが、それに向けた先端的な研究も進められつつあります。今後の成果を期待したいです。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-05-23
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