質問者:
その他
ささやん
登録番号5896
登録日:2024-05-21
八ヶ岳周辺、小海線の西側の天狗山の、トウゴクミツバツツジが多い場所を歩きましたが、今年は、例年の1割以下と、ほとんど花が咲いていない、あるいは蕾がない状態で、葉だけでした。みんなのひろば
トウゴクミツバツツジの花の極端な当り年と外れ年
天狗山では、2023年は満開がすごかったと昨年登った登山者から言われましたが、2024年の今年は1000株ほどを確認しましたが、花や蕾がある株は10株程度でした。八千穂高原でも、自然園の人によると、昨年は大当たり、今年は全くダメと、告げられました。2020年に私自身訪問した天女山に確認に行くと、やはり同様に、ほとんど花がなかったです。
以前、栃木県の井戸湿原を訪れたときに、今年は外れだと教えられて以前の写真を見せられたときに、満開でも花の量は1/3程度だったことを確認していますが、これほど咲かない年があることに、驚いています。
ちなみに、自宅や周辺のコバノミツバツツジは、例年コンスタントに咲いていますし、過去10年ほど、各地のミツバツツジ類を撮りに出かけても、それほど開花量に差は感じられません。
シャクナゲの当り外れは一般的ですが、トウゴクミツバツツジでもこれほど極端な開花の当たり外れがあるのでしょうか。また、当たり外れの原因は何かを、お教えください。
ささやん様
みんなの広場に興味深い質問を投稿してくださり有難うございます。
私が担当することになりましたが、手に負えない質問でしたので専門家の元東大小石川植物園長の邑田仁氏と、日本植物園協会専務理事・新潟県立植物園元園長の倉重祐二氏に尋ねました。
【邑田先生の回答】
ツツジ類の花芽は混芽であるものが多く、シュートの先に花が付き、その直下の(芽鱗の)葉腋から仮軸分枝して数本の枝が分枝します。この花が結実するとかなりの栄養を消費するので?たとえばカルミアだと咲き終わったらすぐに摘花しないと翌年の枝の形成が不十分になり、開花しないばかりか花をつけた枝が枯死するという現象がみられます。
ミツバツツジでも一斉に大開花した後は同様の状態となり、新枝は伸びてもその先に花芽が形成されにくいという状態があるのではないでしょうか。ご質問のなかでも、開花年の翌年には花が少ないという事実が説明されているので、この仮説を支持しているように思われます。ではどのツツジでも同様かというと、種類によって違いがあるかもしれないし、結果率が低ければ花が咲いてもエネルギーの消費が少ないかもしれません。
【倉重先生の回答】
ミツバツツジの隔年開花についての調査については、ほとんど行われていないのが現状ですが、私も自生地の調査で、トウゴクミツバツツジを含む他のミツバツツジの仲間(ヤマツツジ亜属ミツバツツジ節)でも極端な花の当たり年と外れ年があることを確認しています。
ミツバツツジの仲間は、ヤマツツジの仲間にごく近縁で、2つのグループを特徴づける形質として、葉芽と花芽が共通の鱗片に包まれる芽(混芽)が枝先に1つ着くことがあげられます。1つの混芽には1〜3つの小花が含まれます。ほとんどの種類が、春に先に花が咲き、その後に新梢が伸長します。この枝は夏までに成長を止め、7〜9月に来年に開花する花芽(混芽)を形成します。花が咲かない(葉芽のみの)場合は、開花時期には新梢を展開し、夏までに充実した枝になり花芽を分化します。一方、開花した(混芽の)場合は、他花受粉し、通常はよく結実し、新梢が出るのが遅れる傾向にあります。このため、夏までに新梢が充実せずに花芽を分化しにくくなり、翌年の開花が少なる傾向があります。何らかの原因で集団内の多くの個体で花が咲かない年があれば、翌年は当たり年、多くが咲けば翌年は外れ年になります。また、ミツバツツジの仲間は、ヤマツツジに比べて、1個体の枝が少なく、これは混芽が少ないことと同義であるため、より咲く、咲かない年がはっきり現れるようです。
以上に加えて、咲く、咲かないの原因については、花芽分化時期(7〜9月)の気候が影響することが多いと思います。ミツバツツジの花芽形成の条件については、ほとんど調査されていませんが、極端な高温や低温、土壌水分の不足などの要因によって花芽形成が阻害されると思われます。また、栽培下や自生地であっても地域によってはベニモンアオリンが春から秋に数回発生し、花芽を食害することが知られています。
これらの要因が複合して、極端な当たり年、翌年の極端な外れ年が現れるのではないかと思われます。
~~~~~
お二人とも混芽に言及しておいでです。お二人の回答を読んで、ミツバツツジの芽の形態が、毎年コンスタントに咲くということを前提としていないというのが、大変面白いと思いました。隔年結果がどのように進化したのかについては、いろいろな説がありますが、私は飽食仮説に魅力を感じます。沢山実のなる年には実を食べる動物が増えるが、次の年には実がならず個体数が維持できない、植物側はそのすきを狙って実をつけて子を残すというものです。年毎に、光合成の産物をどのように使って枝を伸ばしたり、光合成産物を貯蔵しているのか、などと考えてしまいます。ミツバツツジを次に観察する際の楽しみが増えました。
コバノミツバツツジはコンスタントに咲くということですが、個々の個体でもそうなのでしょうか? それとも集団として豊凶が同調していないのでしょうか?もちろん、同調していないと飽食仮説は成り立ちません。
みんなの広場に興味深い質問を投稿してくださり有難うございます。
私が担当することになりましたが、手に負えない質問でしたので専門家の元東大小石川植物園長の邑田仁氏と、日本植物園協会専務理事・新潟県立植物園元園長の倉重祐二氏に尋ねました。
【邑田先生の回答】
ツツジ類の花芽は混芽であるものが多く、シュートの先に花が付き、その直下の(芽鱗の)葉腋から仮軸分枝して数本の枝が分枝します。この花が結実するとかなりの栄養を消費するので?たとえばカルミアだと咲き終わったらすぐに摘花しないと翌年の枝の形成が不十分になり、開花しないばかりか花をつけた枝が枯死するという現象がみられます。
ミツバツツジでも一斉に大開花した後は同様の状態となり、新枝は伸びてもその先に花芽が形成されにくいという状態があるのではないでしょうか。ご質問のなかでも、開花年の翌年には花が少ないという事実が説明されているので、この仮説を支持しているように思われます。ではどのツツジでも同様かというと、種類によって違いがあるかもしれないし、結果率が低ければ花が咲いてもエネルギーの消費が少ないかもしれません。
【倉重先生の回答】
ミツバツツジの隔年開花についての調査については、ほとんど行われていないのが現状ですが、私も自生地の調査で、トウゴクミツバツツジを含む他のミツバツツジの仲間(ヤマツツジ亜属ミツバツツジ節)でも極端な花の当たり年と外れ年があることを確認しています。
ミツバツツジの仲間は、ヤマツツジの仲間にごく近縁で、2つのグループを特徴づける形質として、葉芽と花芽が共通の鱗片に包まれる芽(混芽)が枝先に1つ着くことがあげられます。1つの混芽には1〜3つの小花が含まれます。ほとんどの種類が、春に先に花が咲き、その後に新梢が伸長します。この枝は夏までに成長を止め、7〜9月に来年に開花する花芽(混芽)を形成します。花が咲かない(葉芽のみの)場合は、開花時期には新梢を展開し、夏までに充実した枝になり花芽を分化します。一方、開花した(混芽の)場合は、他花受粉し、通常はよく結実し、新梢が出るのが遅れる傾向にあります。このため、夏までに新梢が充実せずに花芽を分化しにくくなり、翌年の開花が少なる傾向があります。何らかの原因で集団内の多くの個体で花が咲かない年があれば、翌年は当たり年、多くが咲けば翌年は外れ年になります。また、ミツバツツジの仲間は、ヤマツツジに比べて、1個体の枝が少なく、これは混芽が少ないことと同義であるため、より咲く、咲かない年がはっきり現れるようです。
以上に加えて、咲く、咲かないの原因については、花芽分化時期(7〜9月)の気候が影響することが多いと思います。ミツバツツジの花芽形成の条件については、ほとんど調査されていませんが、極端な高温や低温、土壌水分の不足などの要因によって花芽形成が阻害されると思われます。また、栽培下や自生地であっても地域によってはベニモンアオリンが春から秋に数回発生し、花芽を食害することが知られています。
これらの要因が複合して、極端な当たり年、翌年の極端な外れ年が現れるのではないかと思われます。
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お二人とも混芽に言及しておいでです。お二人の回答を読んで、ミツバツツジの芽の形態が、毎年コンスタントに咲くということを前提としていないというのが、大変面白いと思いました。隔年結果がどのように進化したのかについては、いろいろな説がありますが、私は飽食仮説に魅力を感じます。沢山実のなる年には実を食べる動物が増えるが、次の年には実がならず個体数が維持できない、植物側はそのすきを狙って実をつけて子を残すというものです。年毎に、光合成の産物をどのように使って枝を伸ばしたり、光合成産物を貯蔵しているのか、などと考えてしまいます。ミツバツツジを次に観察する際の楽しみが増えました。
コバノミツバツツジはコンスタントに咲くということですが、個々の個体でもそうなのでしょうか? それとも集団として豊凶が同調していないのでしょうか?もちろん、同調していないと飽食仮説は成り立ちません。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー(専門 光合成の生態学))
回答日:2024-06-25