一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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雨の日しか咲かない花はありますか

質問者:   教員   AI
登録番号5900   登録日:2024-05-24
雨の日しか咲かない花というのは存在しないでしょうか。学生から質問がありました。
生存戦略的には意味がないので存在する確率が低いことはわかりつつも、悪魔の証明で申し訳ないのですが、現時点での情報でお教え下されば幸いです。
雨の日しか咲かないという話ではないですが、桜の花(ソメイヨシノ)などは雨の日でも気温が高い状態などが続くと咲くこともありますが、そういった例は他の花でもあるのでしょうか。
AI 様

 ご質問ありがとうございます。回答が遅れたことをおわびします。生態学や系統分類学の立場から長年「花」の研究をされている岐阜大学の川窪伸光先生にお話を聞きました。先生によれば、「努めて雨の日の花を観察してきたが、雨の日だけに咲く花は見たことが無い」とのことで、そうした花はまだ知られていないようです。

 ただし、「送受粉が雨水滴媒介あるいは過剰水分が必要な植物がもしあれば、有り得るかもしれない」とのことで、可能性が皆無というわけでは無いようです。もしそのような花を見つけたら、大変珍しいのでぜひご一報ください。また、先生の観察によれば、雨で花を閉じるかどうかには花が咲く方向(花筒の向き)が重要で、「下を向いて咲く花(例:ホタルブクロ)には、雨で花を閉じる機能はないようだ」とのことです。加えて、上向きの花でも、小さな花や雨滴の被害に遭わないような形態の花は閉じないことが多いそうです。すなわち、それが必要とされる状況で、雨によるダメージを回避する能力が獲得されたと考えられます。

 次にこの現象の生理学的側面について述べます。「花の開閉」は生殖効率に関わる重要な形質であり、その制御機構について様々な研究が行われています。花の開閉に影響する主要な因子としては、光、温度、湿度、生物時計などがあげられ、多くの場合、これらの要素が複合的に働くことで花が閉じると考えられます。なお、春咲きの花(例;サクラ、チューリップ)では、温度の影響が強く出ることが多いようです。このような花では、雨の影響より温度の影響が強いのかもしれません。

 さて、雨による閉花の仕組みについてまず思い浮かぶのが湿度です。湿度と花の開閉の関係を調べた研究はいくつかあるようですが、概ねその影響は小さく、夜咲く花では湿度の上昇が開花を促進する例があるとされています。この応答は、雨が花を閉じさせる応答とは方向が逆になります。それでは、液体の水(雨滴)が直接花を閉じさせているのでしょうか?これは興味深い問題ですが、花の開閉に対する雨滴の影響を調べた生理学論文を見つけることはできませんでした。

 日常的に観察できる現象の割りには研究が進んでいない印象ですが、その一因は、光や温度に比べて、液体の水の影響を厳密に調べることが難しいという辺りにあるのかと思います。とはいえ、色々と工夫すれば実験はできそうですので、今後の研究の展開に期待したいところです。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-06-04