一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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シャガの葉の裏側の一部分が元の緑色ではなく周辺の色になっている

質問者:   大学生   ぱや
登録番号5913   登録日:2024-06-01
生け花の授業を受けている時に不思議に思ったことがあったため、質問いたします。
内側と外側が青い浅い円形の陶器を花器にしていた際に、シャガの葉を水の中に入れると、葉の裏側の一部分が花器の青色を反射して、葉の緑色ではなく、青色に見えるようになっていました。
これはこの葉の性質なのでしょうか?このように見えることについて名前はありますか?
ぱや 様

質問を歓迎します。
さて、ご質問に回答する前に、シャガについて簡単にまとめます。
 シャガは、古い時代に中国から日本に持ち込まれたと考えられ、現在は、日本の温暖な低地や人里近くの湿った土地に自生している多年草で、地下茎によって増えます。花はつけるが、三倍体なので、種子による繁殖はなく、人の手を借りて、地下茎によって無性的に生息域を維持・拡大しています。したがって、花の役割は、現在ではもっぱらヒトの鑑賞用ということになります。草原や森林のように、直射日光が強く、植物の生存競争が厳しいところでは生息域を拡大することができず、日光が木漏れ日状に当たり、湿度が高いところに生えていることが多いです。
日本人は、シャガの姿態と花を愛でて、神社仏閣や人家の敷地などで、直射日光があまり当たらず、湿度の高い場所に、人為的に移植した結果、わが国の温暖な地域では、現在のようにかなり広く見られる植物となっています。
したがって、シャガは「典型的な」野生植物と比べるといくつかの差異が見られます。多くの野生植物は、成育環境の中でし烈な生存競争にさらされており、成長の少なくとも一時期では活発な光合成をして、次代の植物を残しています。たとえば、アオキは直射日光がわずかにしか当たらないような場所でも生育していますが、葉はクロロフィル含有量が高く、濃い緑色をしています。このような戦略によって、藪の中の弱い光しか当たらないところでも成長に必要なレベルの光エネルギーを集めることができ、他の植物との競争に耐えて生存を続けることができます。
これに対してシャガは、湿った光の弱い環境で生育していますが、このような場所では多くの野生植物が旺盛には成長せず、また、他の植物が生えてきたところでヒトが雑草として除去してくれるので、ヒトの力を借りて生存を続けることができます。
競争相手の多い野生植物は、光合成に必要な光を集めるために、成長期には葉も茎も緑がかった色をしているものが多いです。これに対してシャガはそのような競争が厳しくないところで生育していることが多いので、葉や茎も緑の薄い白みがかった色をしていることが多いことでしょう。

以上を総合すると質問に対する回答は次のようになります:

「回答」
シャガは、葉も茎も緑色は濃くなく、茎は白っぽい色をしていることが多い。このような場合、シャガの一部分は、本来の色が薄いため、ヒトの目には背景の光(散乱光)の影響を強く感じる。
「ぱや」さんは、「葉の裏側の一部分の色が青色に見えるようになっていました」と書いていますが、これは、「内側と外側が青い浅い円形の陶器製の花器に入れた時、たまたまそのように見える」ということではないでしょうか?
この場合、もし、花器を無色(白色)のものに変えた時に、シャガの葉の裏側の一部が、自然界にある時と同様に白みがかった緑色に見えるなら、話は簡単です。ヒトが物体の色を認識する際(色覚)は、白色光を基準としてその物体の色に偏りがあるかどうかによってその物体の色を判断しています。
「ぱや」さんはこの事実を考えず、ご自分の色覚に全幅の信頼を置いて、「花をつけているシャガを内側が青い陶製の花器に入れた時シャガの色が青色に見えた」、不思議だと質問しています。

「回答者の解釈と説明」
視覚を持っているヒトや多くの生物は、感覚器が受けた光情報を脳で統合して、その物体が何色をしているか判断しています。ご質問の場合は、シャガが反射する色が花器の内面が青色をしていたので、自然界では、うっすらと緑がかった白色のはずのシャガが青色に見えたにすぎないと思われます。私の推論を確かめるには、白色の発泡スチロールの小片を割りばしに括り付け、浅い円形の内側が青い陶器製の水を張った花器に入れたときも発泡スチロールが青色に見えるかどうかを調べます。ヒトの目には、おそらく、青く見えることでしょう。内側が白色の花器に入れた時は、白色に見えることでしょう。

「付記」 自然界でシャガの花は、ヒトの目に白色に近い色に見えますが、花粉を媒介してくれる昆虫などの一部の動物の感覚器は可視域以外の領域の光にも応答して、「白い色」が人とは違った光信号として認識している可能性があります。この場合、植物が「ここに花粉や蜜があるよ」という信号を動物側に知らせる良い目印となり、全体として花粉を媒介してもらうこと、すなわち植物の繁殖効率を高めることに貢献していることになります。もっとも、シャガの花は種子形成にかかわっていないので、実際に栽培されているシャガが具体的にどのようになっているか、調べてみなければわかりませんが。

[付記]
インターネットで、本学会の「植物Q&A」のホームページに入り、「検索語」として「白い花」で検索すると、例えば、登録番号5387、1678にご質問に関連した項目に対する詳しい回答が出てきます。興味があれば、ご覧ください。

櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-06-24