質問者:
大学生
純水
登録番号5919
登録日:2024-06-11
学校では、種子は胎座に沿ってできると聞きました。しかしドラゴンフルーツは、多少の偏りはあれど、種子は均一に分布しております。はたして、ドラゴンフルーツの可食部分は果皮でしょうか、それとも肥大化した胎座なのでしょうか。
みんなのひろば
ドラゴンフルーツはどこを食べているのでしょうか
純水様
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ドラゴンフルーツはどこを食べているのでしょうか」にお答えします。
これは難しい問題で、私には分かりませんでしたので、いろいろと調べてみたのですが、直接お答えできるような文献は見つかりませんでした。ドラゴンフルーツについての論文は、果実における色素合成についてのものが多く、それらでは、果実をpeelとpulp (flesh)の二つに分けて実験、考察していて、このpulp (flesh)が組織学的には何に相当するのかは書かれていませんでした。そこで、私の知識の範囲で考察を試みてみます。
果物の可食部分である果肉となりうる部分は種によって様々で、果皮や胎座も肥大して果肉となりえます。果実を切った断面の構造から果皮か胎座かを区別できるものもありますが、識別が難しいものも多いようです。ドラゴンフルーツの場合はどうなのか、果実を切って観察してみました。着色した薄い最外層を除いた内部の全てが可食部分ですが、それはほぼ均一な柔組織で、明瞭な構造が無く、果皮由来なのか胎座由来なのかについてはまったく手がかりがありませんでした。
そこで、他の種を参考にすることにしました。トマトの果実を横断すると、子房壁が発達した外側の果皮と中身のジェリー状の組織の境界が明瞭です。オーキシンで単為結果を誘導すると空洞果になることが多いのですが、これを横断すると、外側の果皮と中身のジェリー状の組織の間が空洞になっているので、両者は異なる組織由来であることが明瞭で、後者は胎座が発達したものであることが分かります。種子が含まれるのはこのジェリー状の組織なので、種子を含む組織は胎座由来であるということになります。メロンの可食部分は果皮、スイカの可食部分は胎座とされていますが(本Q&Aコーナーの登録番号3812をご覧ください)、メロンの可食部分は種子を含まず、スイカの可食部分は種子を含むので、これらのことからも、種子を含む組織は胎座由来であると言えそうです。
ドラゴンフルーツの場合は、種子は果実内部の全体に一様に分布していますので、種子を含む組織が胎座由来であるとすれば、ドラゴンフルーツ果実の可食部分は胎座が発達したものだと思われます。
心皮に胚珠が着く場が胎座ですから、種子は胎座にできるわけで、果実内での種子の分布は胎座のある位置に従っておのずと偏りが出来るはずだというのが、ご質問の背景にあるのだろうと思います。確かに、上で参考例に挙げたトマト、メロン、スイカを始めとして多くの場合は種子は一定の場所にまとまって存在します。それに対して、ドラゴンフルーツでは種子は均一に分布しています。このような分布がいかにして可能なのか気になります。
同じサボテン科のゲッカビジンは花の形態がドラゴンフルーツと良く似ているので参考になりそうです。ゲッカビジンは普通結実しませんが、開花時の子房を縦断して内部を見てみると、子房は1室で、子房壁の内面に無数の胚珠がびっしりと数層重なり合うように密集していました。一般的には、心皮の縁に胚珠が出来るのですが、ゲッカビジンでは心皮の全面にたくさんの胚珠が出来ているようです。これらの胚珠が種子になって、胎座部分が種子を巻き込みつつ発達してゆけばドラゴンフルーツ果実のような種子分布が出来そうに思います。これは僅かな観察に基く私的な想像なので真実がどうなのかは分かりません。
<追記>
上記のように回答した後、同じサボテン科のウチワサボテン類の論文を教えられました。ウチワサボテン類の果実も食用になりますが、種子が大きく硬いのが難点だということで単為結果誘導の研究が進んでいるそうです。それらの論文によりますと、「ウチワサボテン類果実の可食部(果肉)の一部は心皮壁に由来するが、大部分は珠柄に由来する。一般に珠柄は胚珠と胎座を繋いでいるが、ウチワサボテン類では珠柄は胚珠を覆って、第三の珠皮のようになる。この細胞層が柔組織のように発達して果肉の大部分を形成する」ということです。ドラゴンフルーツでもこれと同じようにして果肉が形成されるのかもしれません。
なお、私が観察に用いたドラゴンフルーツから種子を取出してペトリ皿に置床したところ、2日後には発芽が始まり、発芽率はほぼ100%でした。小さな種子が大量に作られる場合は生存率は低いだろうと考えていたのですが、少々意外な結果です。うまく育ってくれれば、数年後には果実を着けるようになるようですので、その時は果実形成過程をしっかり観察しようと思います。
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ドラゴンフルーツはどこを食べているのでしょうか」にお答えします。
これは難しい問題で、私には分かりませんでしたので、いろいろと調べてみたのですが、直接お答えできるような文献は見つかりませんでした。ドラゴンフルーツについての論文は、果実における色素合成についてのものが多く、それらでは、果実をpeelとpulp (flesh)の二つに分けて実験、考察していて、このpulp (flesh)が組織学的には何に相当するのかは書かれていませんでした。そこで、私の知識の範囲で考察を試みてみます。
果物の可食部分である果肉となりうる部分は種によって様々で、果皮や胎座も肥大して果肉となりえます。果実を切った断面の構造から果皮か胎座かを区別できるものもありますが、識別が難しいものも多いようです。ドラゴンフルーツの場合はどうなのか、果実を切って観察してみました。着色した薄い最外層を除いた内部の全てが可食部分ですが、それはほぼ均一な柔組織で、明瞭な構造が無く、果皮由来なのか胎座由来なのかについてはまったく手がかりがありませんでした。
そこで、他の種を参考にすることにしました。トマトの果実を横断すると、子房壁が発達した外側の果皮と中身のジェリー状の組織の境界が明瞭です。オーキシンで単為結果を誘導すると空洞果になることが多いのですが、これを横断すると、外側の果皮と中身のジェリー状の組織の間が空洞になっているので、両者は異なる組織由来であることが明瞭で、後者は胎座が発達したものであることが分かります。種子が含まれるのはこのジェリー状の組織なので、種子を含む組織は胎座由来であるということになります。メロンの可食部分は果皮、スイカの可食部分は胎座とされていますが(本Q&Aコーナーの登録番号3812をご覧ください)、メロンの可食部分は種子を含まず、スイカの可食部分は種子を含むので、これらのことからも、種子を含む組織は胎座由来であると言えそうです。
ドラゴンフルーツの場合は、種子は果実内部の全体に一様に分布していますので、種子を含む組織が胎座由来であるとすれば、ドラゴンフルーツ果実の可食部分は胎座が発達したものだと思われます。
心皮に胚珠が着く場が胎座ですから、種子は胎座にできるわけで、果実内での種子の分布は胎座のある位置に従っておのずと偏りが出来るはずだというのが、ご質問の背景にあるのだろうと思います。確かに、上で参考例に挙げたトマト、メロン、スイカを始めとして多くの場合は種子は一定の場所にまとまって存在します。それに対して、ドラゴンフルーツでは種子は均一に分布しています。このような分布がいかにして可能なのか気になります。
同じサボテン科のゲッカビジンは花の形態がドラゴンフルーツと良く似ているので参考になりそうです。ゲッカビジンは普通結実しませんが、開花時の子房を縦断して内部を見てみると、子房は1室で、子房壁の内面に無数の胚珠がびっしりと数層重なり合うように密集していました。一般的には、心皮の縁に胚珠が出来るのですが、ゲッカビジンでは心皮の全面にたくさんの胚珠が出来ているようです。これらの胚珠が種子になって、胎座部分が種子を巻き込みつつ発達してゆけばドラゴンフルーツ果実のような種子分布が出来そうに思います。これは僅かな観察に基く私的な想像なので真実がどうなのかは分かりません。
<追記>
上記のように回答した後、同じサボテン科のウチワサボテン類の論文を教えられました。ウチワサボテン類の果実も食用になりますが、種子が大きく硬いのが難点だということで単為結果誘導の研究が進んでいるそうです。それらの論文によりますと、「ウチワサボテン類果実の可食部(果肉)の一部は心皮壁に由来するが、大部分は珠柄に由来する。一般に珠柄は胚珠と胎座を繋いでいるが、ウチワサボテン類では珠柄は胚珠を覆って、第三の珠皮のようになる。この細胞層が柔組織のように発達して果肉の大部分を形成する」ということです。ドラゴンフルーツでもこれと同じようにして果肉が形成されるのかもしれません。
なお、私が観察に用いたドラゴンフルーツから種子を取出してペトリ皿に置床したところ、2日後には発芽が始まり、発芽率はほぼ100%でした。小さな種子が大量に作られる場合は生存率は低いだろうと考えていたのですが、少々意外な結果です。うまく育ってくれれば、数年後には果実を着けるようになるようですので、その時は果実形成過程をしっかり観察しようと思います。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-06-26