質問者:
大学生
km
登録番号5921
登録日:2024-06-15
紅葉時のイチョウが黄色い理由の記事を読んでいて、「イチョウは離層が形成される前に糖を幹の方へ送るため、アントシアニンができない」とあったのですが、なぜ他の多くの落葉樹は葉に糖があるまま、離層を形成するのでしょうか。幹に送る方が生きていく上で有利だと思うのですが、気になります。
みんなのひろば
なぜ多くの落葉樹は葉に糖を貯めて離層をつくるのですか?
km様
「みんなのひろば」植物Q&Aに質問を投稿してくださり有り難うございます。
まず、手違いのために回答が大変遅くなってしまったことをお詫びします。
回答
まず、ご質問を読んで疑問がわきました。イチョウの黄葉には糖は含まれないのでしょうか? おそらくきちんと調べた論文があると思いますが、短時間では見つけることができませんでした。1910年の文献には、ヨウ素デンプン反応によってイチョウの落葉にも大量のデンプンが検出できたとあります(Harter L.L. (1910)The starch content of leaves dropped in autumn. Plant World 13: 144-147)。また、イチョウの黄色はカロチノイドの色だと思っていましたが、日本でイチョウの黄葉からフラボンの二量体の黄色い結晶が得られています(北尾弘一郎 (1972)フラボノイド2量体. 木材研究資料 66: 34-49)。したがってイチョウの黄色は、カロチノイドの黄色だけによるのではないようです。アントシアニンは、フラボノイドの一種ですから、イチョウもこの仲間の化合物を持っているということになります。となると、ご質問にある記事「イチョウは・・・」の内容は疑問です。イチョウは、アントシアニンそのものは作りませんが、仲間の物質を作るのです。このフラボン二量体はどういう条件で作られるのでしょうか?糖とは関係ないのでしょうか? 今後の宿題とさせてください。
一般の落葉樹では、落葉の前に葉に含まれる窒素がかなり回収されることが知られています。回収のために必要なエネルギーが、新たに土壌から吸収し同化するためのエネルギーよりも少なければ回収機構が発達します。窒素化合物は植物にとって「高い」物質なので回収されるのです。リンの回収についても同じようなことが言えます。一方、植物は光合成をしますので、糖は比較的「安く」作ることができます。このコスパの議論(コスト-ベネフィット分析)については、たとえば、Tateno M. (2003)Benefit to N2-fixing alder of extending growth period at the cost of leaf nitrogen loss without resorption. Oecologia (2003) 137: 338 – 343. などをご覧ください。緑の葉を落とす窒素固定植物ヤシャブシと黄葉して落葉する窒素固定をしないヤマグワの違いが解析されています。すでに、登録番号5826に、勝見允行サイエンスアドバイザーによる解説があります。
生物学科の大学1年生のkmさん、是非、植物学を専攻しましょう。コスパを定量的に考える「生理生態学」などいかがでしょうか!
「みんなのひろば」植物Q&Aに質問を投稿してくださり有り難うございます。
まず、手違いのために回答が大変遅くなってしまったことをお詫びします。
回答
まず、ご質問を読んで疑問がわきました。イチョウの黄葉には糖は含まれないのでしょうか? おそらくきちんと調べた論文があると思いますが、短時間では見つけることができませんでした。1910年の文献には、ヨウ素デンプン反応によってイチョウの落葉にも大量のデンプンが検出できたとあります(Harter L.L. (1910)The starch content of leaves dropped in autumn. Plant World 13: 144-147)。また、イチョウの黄色はカロチノイドの色だと思っていましたが、日本でイチョウの黄葉からフラボンの二量体の黄色い結晶が得られています(北尾弘一郎 (1972)フラボノイド2量体. 木材研究資料 66: 34-49)。したがってイチョウの黄色は、カロチノイドの黄色だけによるのではないようです。アントシアニンは、フラボノイドの一種ですから、イチョウもこの仲間の化合物を持っているということになります。となると、ご質問にある記事「イチョウは・・・」の内容は疑問です。イチョウは、アントシアニンそのものは作りませんが、仲間の物質を作るのです。このフラボン二量体はどういう条件で作られるのでしょうか?糖とは関係ないのでしょうか? 今後の宿題とさせてください。
一般の落葉樹では、落葉の前に葉に含まれる窒素がかなり回収されることが知られています。回収のために必要なエネルギーが、新たに土壌から吸収し同化するためのエネルギーよりも少なければ回収機構が発達します。窒素化合物は植物にとって「高い」物質なので回収されるのです。リンの回収についても同じようなことが言えます。一方、植物は光合成をしますので、糖は比較的「安く」作ることができます。このコスパの議論(コスト-ベネフィット分析)については、たとえば、Tateno M. (2003)Benefit to N2-fixing alder of extending growth period at the cost of leaf nitrogen loss without resorption. Oecologia (2003) 137: 338 – 343. などをご覧ください。緑の葉を落とす窒素固定植物ヤシャブシと黄葉して落葉する窒素固定をしないヤマグワの違いが解析されています。すでに、登録番号5826に、勝見允行サイエンスアドバイザーによる解説があります。
生物学科の大学1年生のkmさん、是非、植物学を専攻しましょう。コスパを定量的に考える「生理生態学」などいかがでしょうか!
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-08-01