質問者:
一般
しろくま
登録番号5929
登録日:2024-06-21
ファイトアレキシンがどのようなしくみで抗菌性を示すのかについて教えてください。みんなのひろば
ファイトアレキシンについて
wikipediaでは「植物によって生産されたファイトアレキシンは、侵入してきた病原に対して、
細胞壁に穴を開ける、成熟を遅らせる、代謝や増殖を阻害するといった機能を持つ」
と書かれていますが、wikipediaまたはその転載と思われるサイト以外ではこのような記述は
見つかりませんでした。
しろくま 様
日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、ファイトアレキシンなどによる植物の病原菌などからの防御機構を詳細にご研究されている鳥取大学農学部 石原亨先生にお願いいたしました。
回答
ご質問ありがとうございます。ファイトアレキシンとは、植物が病原菌からの攻撃を感知して、新たに合成・蓄積する抗菌性物質の総称です。ファイトアレキシンの蓄積は、植物が病原菌の感染を防ぐために、大きな役割を果たしていると考えられています。ところが、残念なことに、ファイトアレキシンが病原菌に対して抗菌性を示すしくみについては、あまり研究が進んでいません。
ウィキペディアに書かれているように、ファイトアレキシンが病原菌に様々なダメージを与えることを示す研究は多く行われています。しかし、観察されたダメージが、ファイトアレキシンによる直接の作用なのか、それとも、細胞が死んでしまったため、二次的に観察される現象なのかを区別するのが難しく、「ファイトアレキシンが病原菌に抗菌性を示すメカニズムはこれである!」と断定することができないのです。
このようにファイトアレキシンがもつ抗菌性のメカニズムについて、あまり研究が進んでいない背景には、いくつか理由がありそうです。まず、植物はそれぞれの種ごとに異なった化学構造の物質をファイトアレキシンとして蓄積します。そのため、ある植物のファイトアレキシンで得られた研究成果を別種の植物のファイトアレキシンにあてはめることができません。さらに、1種の植物に感染する病原菌も多数存在しており、ファイトアレキシンが、それぞれに対して異なる作用を持っている可能性もあります。それから、ファイトアレキシンの抗菌性は、農薬や医薬として使われている合成抗菌剤と比べ、あまり強くありません。このために、作用のメカニズムを明らかにしようとする強い動機が生じにくいのかもしれません。
それでも、作用のメカニズムがある程度、詳しく研究されている例もあります。その一つが、モデル植物シロイヌナズナのファイトアレキシン、カマレキシンがアブラナ科黒すす病菌に及ぼす作用です。まず、カマレキシンは、アブラナ科黒すす病菌の細胞膜にダメージを与えることが見いだされました。一方で、アブラナ科黒すす病菌はカマレキシンに反応して、細胞膜や細胞壁の修復に関わる遺伝子を活性化することがわかりました。さらに、アブラナ科黒すす病菌は、細胞壁など細胞表面の異常を感知して、その修復などを開始させるのに必要な情報伝達系を壊してしまうと、カマレキシンに対してより弱くなってしまうことが発見されました。これらの事実は、いずれも、細胞膜や細胞壁へのダメージがカマレキシンの作用の一つであることを示しています。ただ、なぜ、カマレキシンが作用すると細胞膜や細胞壁がダメージを受けるのか、といった根本的な課題が未解決のままになっています。
近年、ファイトアレキシンには、植物病原菌に対する抗菌活性に加え、様々な生物活性が見つかってきています。なかには、ヒトのがん細胞の増殖を抑制するものも発見され、関連した化合物が医薬として利用できないか研究が行われています。今後はこのような研究の広がりの中で、化合物の作用の解明が進んでいくことが期待されます。
以上、ご参考になりましたでしょうか。しろくま様ご質問のように非常に興味深い現象ですが本当にまだまだ分かっていないことが多くより深く理解したいですね。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、ファイトアレキシンなどによる植物の病原菌などからの防御機構を詳細にご研究されている鳥取大学農学部 石原亨先生にお願いいたしました。
回答
ご質問ありがとうございます。ファイトアレキシンとは、植物が病原菌からの攻撃を感知して、新たに合成・蓄積する抗菌性物質の総称です。ファイトアレキシンの蓄積は、植物が病原菌の感染を防ぐために、大きな役割を果たしていると考えられています。ところが、残念なことに、ファイトアレキシンが病原菌に対して抗菌性を示すしくみについては、あまり研究が進んでいません。
ウィキペディアに書かれているように、ファイトアレキシンが病原菌に様々なダメージを与えることを示す研究は多く行われています。しかし、観察されたダメージが、ファイトアレキシンによる直接の作用なのか、それとも、細胞が死んでしまったため、二次的に観察される現象なのかを区別するのが難しく、「ファイトアレキシンが病原菌に抗菌性を示すメカニズムはこれである!」と断定することができないのです。
このようにファイトアレキシンがもつ抗菌性のメカニズムについて、あまり研究が進んでいない背景には、いくつか理由がありそうです。まず、植物はそれぞれの種ごとに異なった化学構造の物質をファイトアレキシンとして蓄積します。そのため、ある植物のファイトアレキシンで得られた研究成果を別種の植物のファイトアレキシンにあてはめることができません。さらに、1種の植物に感染する病原菌も多数存在しており、ファイトアレキシンが、それぞれに対して異なる作用を持っている可能性もあります。それから、ファイトアレキシンの抗菌性は、農薬や医薬として使われている合成抗菌剤と比べ、あまり強くありません。このために、作用のメカニズムを明らかにしようとする強い動機が生じにくいのかもしれません。
それでも、作用のメカニズムがある程度、詳しく研究されている例もあります。その一つが、モデル植物シロイヌナズナのファイトアレキシン、カマレキシンがアブラナ科黒すす病菌に及ぼす作用です。まず、カマレキシンは、アブラナ科黒すす病菌の細胞膜にダメージを与えることが見いだされました。一方で、アブラナ科黒すす病菌はカマレキシンに反応して、細胞膜や細胞壁の修復に関わる遺伝子を活性化することがわかりました。さらに、アブラナ科黒すす病菌は、細胞壁など細胞表面の異常を感知して、その修復などを開始させるのに必要な情報伝達系を壊してしまうと、カマレキシンに対してより弱くなってしまうことが発見されました。これらの事実は、いずれも、細胞膜や細胞壁へのダメージがカマレキシンの作用の一つであることを示しています。ただ、なぜ、カマレキシンが作用すると細胞膜や細胞壁がダメージを受けるのか、といった根本的な課題が未解決のままになっています。
近年、ファイトアレキシンには、植物病原菌に対する抗菌活性に加え、様々な生物活性が見つかってきています。なかには、ヒトのがん細胞の増殖を抑制するものも発見され、関連した化合物が医薬として利用できないか研究が行われています。今後はこのような研究の広がりの中で、化合物の作用の解明が進んでいくことが期待されます。
以上、ご参考になりましたでしょうか。しろくま様ご質問のように非常に興味深い現象ですが本当にまだまだ分かっていないことが多くより深く理解したいですね。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
石原 亨(鳥取大学農学部)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-07-30
藤田 知道
回答日:2024-07-30