質問者:
一般
林檎
登録番号5935
登録日:2024-06-27
リンゴについて色々と調べている過程で、リンゴは自身の花粉では結実せず、他品種の花粉により結実すると知りました。みんなのひろば
リンゴの自家不和合性について
しかし他品種の花粉を授粉する事により、品種や実の特徴が変化するという事は無いのでしょうか?親樹と全く同じ特徴のリンゴができるのでしょうか?
不思議に思い質問させて頂きました。どうぞよろしくお願いいたします。
林檎 様
本コーナーへのご質問、ありがとうございました。植物の生殖、特に自家不和合性研究の第一人者であります東北大学の渡辺正夫先生に回答をお願いし、下記の答えを頂きました。なお自家不和合性は、遺伝的多様性を保証する重要な仕組みで、様々な環境の変化や病虫害に適応するために獲得したものと思われます。親と子の性質全てが同じですと、極端な場合は特定の環境変化で全てが滅ぶ危険性があります。
【渡辺先生の回答】
東北大学大学院生命科学研究科で、アブラナ科植物の自家不和合性について研究しております。リンゴなどの自家不和合性は専門ではありませんが、出前講義などのアウトリーチ活動でも話題にする内容ですので、質問内容および関連事項について説明したいと思います。
リンゴをはじめ、オウトウ(サクランボ)、ナシ、ウメなどのバラ科果樹は多くの場合、自家不和合性を示します。自家不和合性とは、おっしゃるとおり、自己花粉では受精に至らず、非自己花粉で受精が成立し、種子が形成される現象です。リンゴの主力品種である「ふじ」の場合、「王林」などの花粉が受粉樹として使われます。ここで、植物の受粉から受精、さらには果実肥大にいたる過程を改めて考えてみたいと思います。花粉は雌ずい先端の柱頭に付着したあと、花粉管を伸ばし、雌ずい内を伸長します。花粉管は胚のうに侵入し、花粉管内の精細胞は胚のうを形成する「卵細胞」と「中央細胞」とそれぞれ受精し、「胚」と「胚乳」となります。種子はこの胚と胚乳から形成されています。単子葉植物のイネ、ムギ、双子葉植物のカキ(柿)などでは、完成した種子で胚と胚乳を観察することができます。一方、他の被子植物では胚乳は一定の大きさまで成長します。ところが途中から胚乳細胞は崩壊して、その痕跡のみが残ります。例えば、アサガオ、ヒマワリ、キュウリ、ダイコンを例に取ると、種子の内部には、胚を形成する子葉と根、場合によって小さな葉が観察されます。このように受精によってもたらされるのは、次世代である「種子」が形成されるということになります。
では、アサガオ、ヒマワリ、キュウリ、ダイコンの種子をイメージしたとき、アサガオは茶色の薄い袋、ヒマワリはほぼ剥きだし、キュウリは食する部分である果実に、ダイコンは鞘に包まれています。この茶色の薄い袋、果実、鞘は雌ずいの一部である子房が変化したものです。つまり、種子は受精によってできますが、種子を包む果実、鞘などは子房が肥大、変化したものです。子房は雌ずいの遺伝子のみから形成されていますので、自己花粉、非自己花粉であろうと、子房の遺伝子が変化を受けることはありません。つまり、リンゴで他品種を交配してできる果実は、その果実をつけている樹木が有している遺伝子から形成されています。換言すれば、ふじの樹木に王林の花粉をかけると、果実はふじの遺伝子のみ、普段は切って捨ててしまう種子はふじと王林の遺伝子からできていますので、種子を植えると、ふじと王林の雑種植物が生まれることになります。なお、リンゴの場合、子房の外側に花托という細胞層があり、花托が肥大した部分を食しています。
本コーナーへのご質問、ありがとうございました。植物の生殖、特に自家不和合性研究の第一人者であります東北大学の渡辺正夫先生に回答をお願いし、下記の答えを頂きました。なお自家不和合性は、遺伝的多様性を保証する重要な仕組みで、様々な環境の変化や病虫害に適応するために獲得したものと思われます。親と子の性質全てが同じですと、極端な場合は特定の環境変化で全てが滅ぶ危険性があります。
【渡辺先生の回答】
東北大学大学院生命科学研究科で、アブラナ科植物の自家不和合性について研究しております。リンゴなどの自家不和合性は専門ではありませんが、出前講義などのアウトリーチ活動でも話題にする内容ですので、質問内容および関連事項について説明したいと思います。
リンゴをはじめ、オウトウ(サクランボ)、ナシ、ウメなどのバラ科果樹は多くの場合、自家不和合性を示します。自家不和合性とは、おっしゃるとおり、自己花粉では受精に至らず、非自己花粉で受精が成立し、種子が形成される現象です。リンゴの主力品種である「ふじ」の場合、「王林」などの花粉が受粉樹として使われます。ここで、植物の受粉から受精、さらには果実肥大にいたる過程を改めて考えてみたいと思います。花粉は雌ずい先端の柱頭に付着したあと、花粉管を伸ばし、雌ずい内を伸長します。花粉管は胚のうに侵入し、花粉管内の精細胞は胚のうを形成する「卵細胞」と「中央細胞」とそれぞれ受精し、「胚」と「胚乳」となります。種子はこの胚と胚乳から形成されています。単子葉植物のイネ、ムギ、双子葉植物のカキ(柿)などでは、完成した種子で胚と胚乳を観察することができます。一方、他の被子植物では胚乳は一定の大きさまで成長します。ところが途中から胚乳細胞は崩壊して、その痕跡のみが残ります。例えば、アサガオ、ヒマワリ、キュウリ、ダイコンを例に取ると、種子の内部には、胚を形成する子葉と根、場合によって小さな葉が観察されます。このように受精によってもたらされるのは、次世代である「種子」が形成されるということになります。
では、アサガオ、ヒマワリ、キュウリ、ダイコンの種子をイメージしたとき、アサガオは茶色の薄い袋、ヒマワリはほぼ剥きだし、キュウリは食する部分である果実に、ダイコンは鞘に包まれています。この茶色の薄い袋、果実、鞘は雌ずいの一部である子房が変化したものです。つまり、種子は受精によってできますが、種子を包む果実、鞘などは子房が肥大、変化したものです。子房は雌ずいの遺伝子のみから形成されていますので、自己花粉、非自己花粉であろうと、子房の遺伝子が変化を受けることはありません。つまり、リンゴで他品種を交配してできる果実は、その果実をつけている樹木が有している遺伝子から形成されています。換言すれば、ふじの樹木に王林の花粉をかけると、果実はふじの遺伝子のみ、普段は切って捨ててしまう種子はふじと王林の遺伝子からできていますので、種子を植えると、ふじと王林の雑種植物が生まれることになります。なお、リンゴの場合、子房の外側に花托という細胞層があり、花托が肥大した部分を食しています。
渡辺 正夫(東北大学大学院生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2024-07-01
山谷 知行
回答日:2024-07-01