質問者:
公務員
ゴンタ
登録番号5941
登録日:2024-07-02
小ギク等の花きでは、株を4本立てにするために、苗の定植後に摘芯を行います。みんなのひろば
摘芯による小ギク脇芽の反応について
このとき、理論上では、摘芯後に最も上位となった芽が、オーキシンの流れの変化によって、最も生育が良くなるように思われます。しかし、現場では、摘芯時に傷つけられたわけではないのにも関わらず、1番上の芽は、芽吹きが悪かったり、初期生育の面では2番目、3番目の芽の生育の方が初期生育が旺盛になる現象が多々見られます。
特に、開花調整を行うエスレルを散布したもので、この影響が助長されるようです。
教科書的には、摘芯等によって、頂芽優勢が解除されることで、脇芽の発生が旺盛になると思うのですが、このように最先端の芽の発育が悪くなるときには、どのような生理的事象が起こっていると考えればよいでしょうか。
御回答が頂けましたら幸いです。
ゴンタ 様
回答が遅れたことをお詫びします。頂芽優勢に関する興味深いご質問ありがとうございました。
頂芽優勢の研究の歴史は長く、多くのことが明らかにされてきました。本コーナーでもその詳しい仕組みが解説されています(登録番号2586など)。さらに最近、オーキシン、サイトカイニンに加え、ストリゴラクトンという植物ホルモンが頂芽優勢に関わることも明らかとなりました(登録番号4351など)。
さて、茎頂で作られたオーキシンが腋芽の成長を抑制しているというのはゴンタ様の指摘通りなのですが、上位と下位の腋芽の間に同じような関係が成り立つかどうかは別問題で、実際、上位と下位の脇芽(分枝)の間に(頂芽優勢で見られるような)強い優劣関係は見られないことが多いと思います。
そもそも腋芽は茎頂の側方に二次的に形成される器官であり、発生の初期段階から茎頂の影響を強く受け続けます。一方、上位と下位の脇芽は、同じ茎頂から作られ特定の発生段階で止まっているいわば「兄弟」のような関係です。また形態上も、腋芽(分枝)同士が直接つながっているわけではなく、主茎を介した接続となります。以上を考えると、やはり二つの現象は別に考えた方が良さそうです。
以上を踏まえた上で、ゴンタ様が見つけた現象について考えてみたいと思います。私自身はキクの栽培に詳しくないので、園芸学の立場からキクの研究に携わっておられる(た)お二人の先生に意見をお聞きしましたところ、概ね同じような回答をいただきました。その概略は以下の通りです。
まず、「上位の腋芽の成長が悪い」という部分ですが、「そのような現象が見られる場合もあるが、最上位の腋芽の方が成長が良い場合も多い」とのことでした。次に、上位の腋芽の成長が悪くなる理由についてですが、いくつか可能性は考えられるが現時点で原因を特定するのは難しい、というのがお二人の共通したご意見でした。また両先生とも、エスレル(エチレン作用のホルモン剤)がこの現象を促進することから、摘芯により生じたエチレンの作用による可能性を指摘されましたが、それを詳しく研究した例はご存じないとのことでした。
生理学者の立場から補足すると、腋芽の成長停止や再成長に影響する様々な内的・外的要因が知られています。植物ホルモンでは、鍵となるオーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトンに加え、ジベレリンやアブシジン酸なども影響するようです。また、傷害ということになればエチレンなどのホルモンが関与するかもしれません。さらに、糖、無機塩、光環境、温度など様々な要因が脇芽の生成や成長に関わると言われています。理屈を言えば、上位と下位の腋芽(分枝)間にこれらの要因のどれかひとつ(あるいはその組合せ)でも差があれば、成長に差が出るということになります。
以上まとめますと、ご質問の現象については「傷を付けたことで発生したエチレンの関与が疑われるが、他の要因が関与している可能性も排除できない」という回答なるかと思います。はっきりしたことが言えず申し訳ありません。
頂芽優勢という教科書的な現象について、改めて考え直す機会を与えていただきありがとうございました。最後になりますが、私の突然の質問に丁寧に答えていただいた元香川大学教授の深井誠一先生と奈良県農業開発センターの仲照史先生に感謝いたします。
回答が遅れたことをお詫びします。頂芽優勢に関する興味深いご質問ありがとうございました。
頂芽優勢の研究の歴史は長く、多くのことが明らかにされてきました。本コーナーでもその詳しい仕組みが解説されています(登録番号2586など)。さらに最近、オーキシン、サイトカイニンに加え、ストリゴラクトンという植物ホルモンが頂芽優勢に関わることも明らかとなりました(登録番号4351など)。
さて、茎頂で作られたオーキシンが腋芽の成長を抑制しているというのはゴンタ様の指摘通りなのですが、上位と下位の腋芽の間に同じような関係が成り立つかどうかは別問題で、実際、上位と下位の脇芽(分枝)の間に(頂芽優勢で見られるような)強い優劣関係は見られないことが多いと思います。
そもそも腋芽は茎頂の側方に二次的に形成される器官であり、発生の初期段階から茎頂の影響を強く受け続けます。一方、上位と下位の脇芽は、同じ茎頂から作られ特定の発生段階で止まっているいわば「兄弟」のような関係です。また形態上も、腋芽(分枝)同士が直接つながっているわけではなく、主茎を介した接続となります。以上を考えると、やはり二つの現象は別に考えた方が良さそうです。
以上を踏まえた上で、ゴンタ様が見つけた現象について考えてみたいと思います。私自身はキクの栽培に詳しくないので、園芸学の立場からキクの研究に携わっておられる(た)お二人の先生に意見をお聞きしましたところ、概ね同じような回答をいただきました。その概略は以下の通りです。
まず、「上位の腋芽の成長が悪い」という部分ですが、「そのような現象が見られる場合もあるが、最上位の腋芽の方が成長が良い場合も多い」とのことでした。次に、上位の腋芽の成長が悪くなる理由についてですが、いくつか可能性は考えられるが現時点で原因を特定するのは難しい、というのがお二人の共通したご意見でした。また両先生とも、エスレル(エチレン作用のホルモン剤)がこの現象を促進することから、摘芯により生じたエチレンの作用による可能性を指摘されましたが、それを詳しく研究した例はご存じないとのことでした。
生理学者の立場から補足すると、腋芽の成長停止や再成長に影響する様々な内的・外的要因が知られています。植物ホルモンでは、鍵となるオーキシン、サイトカイニン、ストリゴラクトンに加え、ジベレリンやアブシジン酸なども影響するようです。また、傷害ということになればエチレンなどのホルモンが関与するかもしれません。さらに、糖、無機塩、光環境、温度など様々な要因が脇芽の生成や成長に関わると言われています。理屈を言えば、上位と下位の腋芽(分枝)間にこれらの要因のどれかひとつ(あるいはその組合せ)でも差があれば、成長に差が出るということになります。
以上まとめますと、ご質問の現象については「傷を付けたことで発生したエチレンの関与が疑われるが、他の要因が関与している可能性も排除できない」という回答なるかと思います。はっきりしたことが言えず申し訳ありません。
頂芽優勢という教科書的な現象について、改めて考え直す機会を与えていただきありがとうございました。最後になりますが、私の突然の質問に丁寧に答えていただいた元香川大学教授の深井誠一先生と奈良県農業開発センターの仲照史先生に感謝いたします。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-07-26