質問者:
中学生
とりかぱる
登録番号5955
登録日:2024-07-13
私は同じ学校の友だちと「地域のさくらのてんぐ巣病」について研究し、プレゼン大会に応募しようと考えています。将来的には「桜で市の活気を取り戻す」ことを目標としています。みんなのひろば
さくらのてんぐ巣病に関して
てんぐ巣病について海外の論文も含めて調べたのですが、対処方法は「薬を塗布する」こと、予防方法についてはほとんど述べられていませんでした。私は予防法が気になっているのに、わからなくてモヤモヤします。
そこで質問です。てんぐ巣病を解明していく過程で壁となっていること、また現段階でてんぐ巣病についてわかっていることについて教えて頂きたいです。
また、別の機関に相談し、てんぐ巣病に感染した桜の枝と葉を入手できることが分かりました。てんぐ巣病に感染した枝は、どのような研究や実験に活用できるでしょうか。
忙しいとは思いますが、回答いただけたら幸いです。長文失礼致しました。
とりかぱる 様
このコーナーへのご質問、ありがとうございました。植物の病気の最先端研究をされています東北大学大学院農学研究科の高橋英樹先生から、以下の回答を頂きました。
多少難しい言葉があるかも知れませんが、調べてみて下さい。また、プレゼン大会で発表されるときは、この植物Q&Aの回答を必ず引用して下さるようにお願い致します。
【高橋先生の回答】
樹木の枝が著しく叢生したり変形する「てんぐ巣症病」は、ファイトプラズマの感染による病気の症状としてよく知られていますが、さくらのてんぐ巣病は、ファイトプラズマではなく、菌類(サクラてんぐ巣病菌、学名 Taphrina wiesneri)の感染によって引き起こされる病気であることがわかっています。この病原菌が感染し、植物ホルモンを生産することにより、植物体内のホルモンバランスが崩れることで、てんぐ巣と呼ばれる奇形症状が生じると考えられています。
この病気を治療できる農薬はありませんが、てんぐ巣病の蔓延を防ぐためには、さくらの落葉期に、てんぐ巣症状が認められた木の病変部(てんぐ巣症状を示している枝)を切り取って廃棄する(切り取った枝を焼却するなどし、その場に放置しない)と同時に、周辺への病気拡大を防ぐ予防的措置として、汎用性の高い農薬(ボルドー液)などを散布したり、枝打ちなどを行って通気性を高める対応がなされています。
さくらの場合、品種によって、てんぐ巣症病への罹病性に差があるようですので、てんぐ巣症病に抵抗性のある品種を植樹することも効果的です。
てんぐ巣病に感染した枝の研究への活用ですが、アイデア次第ではないでしょうか。一つの例をご紹介します。すでに原因菌はサクラてんぐ巣病菌(Taphrina
wiesneri)であることがわかっていますので、罹病枝から培養法によりてんぐ巣病菌を単離することは可能です。また、このてんぐ巣病菌のゲノムの全塩基配列はすでに決定されています。ある地域に生息しているさくらの集団から、個体ごとに罹病枝を切り取り、単離・培養したてんぐ巣病菌の細胞からそれぞれDNAを抽出します。そのDNAを鋳型に用いて塩基配列多型領域をPCR増幅し、得られた増幅産物の塩基配列を比較解析することにより、さくらの集団に発生しているてんぐ巣症病が、遺伝的に単一起源のてんぐ巣病菌系統から拡散したのか、遺伝的に由来の異なるてんぐ巣病菌系統が複合的に感染した結果なのかを議論することができます。これは、地域で発生しているてんぐ巣病菌がどこからやって来たのか?という疑問を考える研究につながるのではないでしょうか。
このコーナーへのご質問、ありがとうございました。植物の病気の最先端研究をされています東北大学大学院農学研究科の高橋英樹先生から、以下の回答を頂きました。
多少難しい言葉があるかも知れませんが、調べてみて下さい。また、プレゼン大会で発表されるときは、この植物Q&Aの回答を必ず引用して下さるようにお願い致します。
【高橋先生の回答】
樹木の枝が著しく叢生したり変形する「てんぐ巣症病」は、ファイトプラズマの感染による病気の症状としてよく知られていますが、さくらのてんぐ巣病は、ファイトプラズマではなく、菌類(サクラてんぐ巣病菌、学名 Taphrina wiesneri)の感染によって引き起こされる病気であることがわかっています。この病原菌が感染し、植物ホルモンを生産することにより、植物体内のホルモンバランスが崩れることで、てんぐ巣と呼ばれる奇形症状が生じると考えられています。
この病気を治療できる農薬はありませんが、てんぐ巣病の蔓延を防ぐためには、さくらの落葉期に、てんぐ巣症状が認められた木の病変部(てんぐ巣症状を示している枝)を切り取って廃棄する(切り取った枝を焼却するなどし、その場に放置しない)と同時に、周辺への病気拡大を防ぐ予防的措置として、汎用性の高い農薬(ボルドー液)などを散布したり、枝打ちなどを行って通気性を高める対応がなされています。
さくらの場合、品種によって、てんぐ巣症病への罹病性に差があるようですので、てんぐ巣症病に抵抗性のある品種を植樹することも効果的です。
てんぐ巣病に感染した枝の研究への活用ですが、アイデア次第ではないでしょうか。一つの例をご紹介します。すでに原因菌はサクラてんぐ巣病菌(Taphrina
wiesneri)であることがわかっていますので、罹病枝から培養法によりてんぐ巣病菌を単離することは可能です。また、このてんぐ巣病菌のゲノムの全塩基配列はすでに決定されています。ある地域に生息しているさくらの集団から、個体ごとに罹病枝を切り取り、単離・培養したてんぐ巣病菌の細胞からそれぞれDNAを抽出します。そのDNAを鋳型に用いて塩基配列多型領域をPCR増幅し、得られた増幅産物の塩基配列を比較解析することにより、さくらの集団に発生しているてんぐ巣症病が、遺伝的に単一起源のてんぐ巣病菌系統から拡散したのか、遺伝的に由来の異なるてんぐ巣病菌系統が複合的に感染した結果なのかを議論することができます。これは、地域で発生しているてんぐ巣病菌がどこからやって来たのか?という疑問を考える研究につながるのではないでしょうか。
高橋 英樹(東北大学大学院農学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2024-07-20
山谷 知行
回答日:2024-07-20