質問者:
教員
せいいち
登録番号5960
登録日:2024-07-22
夏の日中の植物への水やりは避けるべきと言われていますが、蒸散について考えるにつれ私なりに以下のように考えたのですがいかがでしょうか。蒸散と水やりの関係
日中の水やりがいけないといわれるのは葉に水をかけて蒸散を妨げるのがいけないので、土にだけ水を与えれば日中の水やりは蒸散・光合成を盛んにするもので、やった方がいいのではないか。
ご回答よろしくお願いします。
せいいち様
みんなのひろば 植物Q&Aにご質問いただきありがとうございます。
この問題については、すでに先輩アドバイザーの回答があります(登録番号5404, 2735, 1407)。まず、これらをご覧ください。
晴れた暑い日に葉面に水滴がつくとどうなるのか? 葉によっては水滴を弾くものもありますが、そうではない葉もあります。倉敷にある岡山大学の資源植物科学研究所の教授をつとめられた木村和義先生が、1987年に「作物にとって雨とは何か:濡れの生態学」 農文協 を書かれ、ご自身の研究をまとめておられます。葉の表面についた雨は植物にとってよくないことがある、これを説得力のあるデータで示されています。木村先生の最も最近の論文は2004年に出版された以下のものです。葉の面がぬれやすいインゲンと、水をはじくエンドウを比較してあります。
Hanba Y, Moriya A, Kimura K (2004) Plant Cell Environ 27: 413-421
インゲンでは水が葉の表面にとどまり、気孔を塞ぎます。とくに光が強い場合には、光合成によって葉の内部のCO2濃度が低下します。気孔が塞がれているのでCO2は供給されません。この状態が数時間も続くと、葉緑体のCO2固定酵素であるルビスコが分解されてしまいます。実は、インゲンについては、この論文より10年ほど前に私たちも研究し、同様の現象を見出し、詳しく解析していました(Ishibashi M & Terashima I 1995、Ishibashi M et al. 1996, 1997a,b)。一方、半場祐子さんたちが新たに調べたエンドウでは、光合成は阻害されません。それどころか気孔も開いてよく光合成をするようにさえなります。
雨がふって葉が濡れてしまうと光合成を阻害されるのなら、なぜインゲンの葉は濡れやすいのか? これは私の想像ですが、乾燥するアンデスが原産のインゲンは、放射冷却による朝の低温などの際の葉面結露が、貴重な水源なのではないでしょうか?
というわけで、葉にではなく土に水を与えるというのは、特に葉が濡れやすい一般の植物にとって正解のように思います。
一方、常に土壌に水があると根が伸長しません。植物の地上部と地下部の重さの比率(シュート/根比)はかなり大きく変化します。乾燥や貧栄養条件では根が相対的に大きくなり、その環境に適した体制をつくります。根の乾燥によって植物ホルモンのアブシシン酸が根でつくられ、これが地上部の成長を抑制します。シロイヌナズナでは根が乾燥すると根でつくられたペプチドホルモンが地上部に蒸散流によって供給され、地上部でアブシシン酸が作られることも証明されています(Takahashi F. 2018)。つまり、常に土壌が湿っていると、乾燥や暑さに強い根の張った植物はできないことになります。水を毎日やっている植物に、水をやり忘れると、枯死しやすくなると思われます。
日本は雨が多く湿潤であり、植物の乾燥ストレスは少ないと思われています。しかし、梅雨の湿潤環境に慣れた植物にとって梅雨明けの日照りはかなり大きなストレスとなります。たとえばクロマツの当年生実生の枯死はこの時期に集中します(田崎忠良 1951)。
みんなのひろば 植物Q&Aにご質問いただきありがとうございます。
この問題については、すでに先輩アドバイザーの回答があります(登録番号5404, 2735, 1407)。まず、これらをご覧ください。
晴れた暑い日に葉面に水滴がつくとどうなるのか? 葉によっては水滴を弾くものもありますが、そうではない葉もあります。倉敷にある岡山大学の資源植物科学研究所の教授をつとめられた木村和義先生が、1987年に「作物にとって雨とは何か:濡れの生態学」 農文協 を書かれ、ご自身の研究をまとめておられます。葉の表面についた雨は植物にとってよくないことがある、これを説得力のあるデータで示されています。木村先生の最も最近の論文は2004年に出版された以下のものです。葉の面がぬれやすいインゲンと、水をはじくエンドウを比較してあります。
Hanba Y, Moriya A, Kimura K (2004) Plant Cell Environ 27: 413-421
インゲンでは水が葉の表面にとどまり、気孔を塞ぎます。とくに光が強い場合には、光合成によって葉の内部のCO2濃度が低下します。気孔が塞がれているのでCO2は供給されません。この状態が数時間も続くと、葉緑体のCO2固定酵素であるルビスコが分解されてしまいます。実は、インゲンについては、この論文より10年ほど前に私たちも研究し、同様の現象を見出し、詳しく解析していました(Ishibashi M & Terashima I 1995、Ishibashi M et al. 1996, 1997a,b)。一方、半場祐子さんたちが新たに調べたエンドウでは、光合成は阻害されません。それどころか気孔も開いてよく光合成をするようにさえなります。
雨がふって葉が濡れてしまうと光合成を阻害されるのなら、なぜインゲンの葉は濡れやすいのか? これは私の想像ですが、乾燥するアンデスが原産のインゲンは、放射冷却による朝の低温などの際の葉面結露が、貴重な水源なのではないでしょうか?
というわけで、葉にではなく土に水を与えるというのは、特に葉が濡れやすい一般の植物にとって正解のように思います。
一方、常に土壌に水があると根が伸長しません。植物の地上部と地下部の重さの比率(シュート/根比)はかなり大きく変化します。乾燥や貧栄養条件では根が相対的に大きくなり、その環境に適した体制をつくります。根の乾燥によって植物ホルモンのアブシシン酸が根でつくられ、これが地上部の成長を抑制します。シロイヌナズナでは根が乾燥すると根でつくられたペプチドホルモンが地上部に蒸散流によって供給され、地上部でアブシシン酸が作られることも証明されています(Takahashi F. 2018)。つまり、常に土壌が湿っていると、乾燥や暑さに強い根の張った植物はできないことになります。水を毎日やっている植物に、水をやり忘れると、枯死しやすくなると思われます。
日本は雨が多く湿潤であり、植物の乾燥ストレスは少ないと思われています。しかし、梅雨の湿潤環境に慣れた植物にとって梅雨明けの日照りはかなり大きなストレスとなります。たとえばクロマツの当年生実生の枯死はこの時期に集中します(田崎忠良 1951)。
寺島 一郎(植物生理生態学)(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-08-01