質問者:
高校生
みししっぴ
登録番号5970
登録日:2024-07-26
カルビン回路のグルコースの行方が、双子葉類と単子葉類で違うことについて疑問を持ったので質問させていただきます。みんなのひろば
カルビン回路のグルコースについて
高校生物の代謝の範囲の中の光合成の過程で、カルビン回路の流れについて習いました。その中で最終的にはグルコースが生成されそのグルコースはどこに行くのか、という話を先生がしてくださいました。そして先生は「主な双子葉類では葉緑体中にデンプンが作られる。単子葉類ではスクロースが作られる。(糖葉)(デンプン葉)」と黒板に書きました。
そこで最初に書いた疑問なのですが、なぜ双子葉類と単子葉類でこのような違いが生まれるのでしょうか。解説お願いいたします。
みししっぴ 様
みんなのひろば 植物Q&Aへようこそ、質問を歓迎します。
先生がまとめられた、「主な双子葉類では葉緑体中にデンプンが作られる。単子葉類ではスクロースが作られる。(糖葉)(デンプン葉)」という要約は、高校生レベルでは、極めて大まかに言って、おおむね正しいといって良いでしょう。
「教育用語レベル的」
以下に、多少補足をします:
第1章(光合成の炭素同化経路):植物は、光合成により成長しますが、その全体的目的は、次世代の子孫を残し、生育域を拡大することです。そのために、植物は光合成によって有機物を合成し、合成した有機物をあるものは種子に、あるものは地下茎や塊根に蓄えます。環境中には、植物を餌としている動物などに満ちており、また太陽光や無機栄養分に関して植物同士の間の競争もありますので、全体として、いかに効率よく有機物を蓄え、これを効率よく分配して、次世代の命につないでいくかが課題となります。
光合成をおこなうのは、細胞内の葉緑体です。葉緑体の起源はシアノバクテリアだと考えられ、はるか昔に宿主となる非光合成生物がシアノバクテリアを取り込み、さらに、長い時間をかけて、シアノバクテリアの遺伝子の大部分を宿主側の染色体中に取り込み、同時に宿主側も葉緑体の働きを助けることによって、切っても切れない関係となって現在に至っていると考えられます(葉緑体の細胞内共生説という。なお、今でも、葉緑体自身も一部の遺伝子を葉緑体に特有な遺伝子として保持しています)。
植物の光合成では、葉緑体の中で、カルビン回路によって二酸化炭素が固定され、その固定産物は、A:葉緑体を包みこんでいる葉肉細胞へと輸送されるか、B:葉緑体の内部にとどまって更に化学変化を受けデンプンになります。Aの場合は、三炭糖リン酸の形で葉肉細胞に輸送されて、そこで様々な化学変化を受けますが、量的に多いのはショ糖となって細胞外に輸送され、この時放出されたリン酸は、葉緑体に取り込まれて、カルビン回路に再利用されます。
これに続く過程を、もう少し細かく見てみます。
まず、植物は光合成によって有機物を合成しますが、これを「命の糸」が切れないように、次世代の植物にうまく渡さなければなりません。そのやり方は植物の種類によって様々ですが、適当な時期になったら開花結実によって種子を作って蓄えていた有機物を渡す(多くの種子植物)、あるいは、地下茎や根に有機物を蓄えておいて生育に不適な時期を乗り越え、生育に好適な時期になったら発芽、成長するために光合成によって生産された有機物を利用する方法が目につきます。これらの過程の途中で、植物は必要になるまで有機物を茎や葉に一時的に蓄えておきますが、イネやサトウキビの場合は葉や茎に主にショ糖を蓄え、サツマイモやジャガイモでは根や葉、地下茎に主に澱粉を蓄えます。
前者で、サトウキビの場合は、茎を太らせ、ショ糖を髄に蓄えるのが主流ですが、イネやムギの場合は貯蔵場所を増やすために{分げつ}といって根元から出る茎の本数を増やします。また、イネは葉身もそれほど太くはないので、浸透圧の関係で、ショ糖ばかりでなく、かなりの部分は多糖(様々なものがある)として一時的に保存し、開花結実の時期になると、ショ糖となって篩管を経て穂に送られます。
葉から送り出されたショ糖は、次世代の植物に渡すために、ジャガイモでは葉や茎に、サツマイモでは葉や根に、一時的にかなりの部分がデンプンに変換されて蓄えられます。そこで、これらの植物はデンプン葉を持つという表現もあります。(下記参照)
第2章:
総合的に言って、上記(第1章)のような要約を肯定的に評価しているサイトもあります:
デンプン葉 (1570d)、(光合成事典、(日本光合成学会)Web版)より)
「*デンプン葉[starch leaf] 緑葉において光合成によって生じる同化産物の多くがデンプンとして蓄積されるものをいい,ショ糖を多く蓄積する糖葉と区別される.デンプン葉にはヒマワリ,アサガオ,タバコ葉などがあげられ,糖葉としてはムギやトウモロコシなどの単子葉植物の葉がある.
光合成炭素同化産物の分配率がデンプン合成に偏っているか,ショ糖合成に偏っているかでこうした差異が生ずるものと思われる.」
[教育用語レベル的]
第3章:他方、植物の多様性に眼を注ぎ、もっと慎重な説明をしている研究者もいます:
植物Q&Aみんなの広場、登録番号0128、タイトル{でんぷん葉と糖葉について}
質問:
「光合成で作られたでんぷんがどのようにして、根や実に移動するのか」
ということを追究していました。
1) 光合成では最初にブドウ糖ができて、でんぷんを作り、その後、ショ糖になって、水に溶けて、師管を通る。
2) 糖葉といって、でんぷんを作らずに、ショ糖として葉に蓄積するものもある。たとえば、ネギとかタマネギとか、ほうれんそうとか。
3)運ばれたショ糖は、成長点でエネルギーとして使われたり、実や根では、でんぷんに変えられて貯蔵される。
4)てんさいは、根にショ糖を貯め、さとうきびは、長い茎にショ糖を貯める。
といったようなことが分かりました。
今は、2)や4)のような私たちのよく知っているサツマイモが葉にも根にもでんぷんを蓄えるといったこととは、少し変わった植物を探しています。
他にもこのような例がありましたら、教えていただきたいのです。
回答
光合成産物の転流・貯蔵について:
葉での光合成産物、葉から貯蔵器官へ移動(転流)する物質、貯蔵器官で貯蔵される物質について下の表にまとめました。なお、( )内に、光合成産物の細胞内合成場所、または貯蔵される組織や細胞内の場所を示しました:
葉の光合成産物 転流物質(師管) 貯蔵物質 一般的には デンプン(葉緑体内)ショ糖(細胞質) ショ糖 デンプン(アミロプラスト)、ショ糖(師部組織:サトウキビ、液胞:サトウダイコン)
特殊な例 a糖アルコール (マニトール、ソルビトール)
bラフィノース、 スタキオース a糖アルコール(リンゴの蜜のように局部的に)bラフィノース、スタキオースcフラクタン
上の「特殊な例」に該当する植物を科レベルで表すと:
aバラ科、 シクンシ科; bカバノキ科、 フジウツギ科、 シクンシ科、 スイカズラ科、 クワ科、モクセイ科、クマツヅラ科cキク科、ユリ科、 アヤメ科(以上では葉、 花、地下茎)、 イネ科(葉: オオムギ、 オートムギ、ライムギなど)。
ラフィノース, スタキオースは、ショ糖にさらに糖が付加された形をしている。グルコースをG、フルクトースをF、ガラクトースをGalで表すとすると、ショ糖はG-Fとなる。ラフィノースはGal-G-F、スタキオースはGal-Gal-G-Fと 表される。同様に、貯蔵物質としてのフラクタンは、G-F-F4-300となる。したがって、これらの糖はすべてショ糖の誘導体であると言えます。
「専門用語レベル」
*************
第4章:多様なイネ科植物
(基礎生物学研究所ホームページ(下記)参照:https://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/11_09_Poales.html
イネ科植物は地球上で多様な種を分化させているグループの1つです。上記ホームページでは、学問的には、「多数の種があるが、種の数については確定していない」というのが結論であるとしています。[専門用語レベル]
しかし、大衆を相手とする博物館等では、概算でもいいからおよその数を示すことが求められます:「神奈川県立生命の星 地球博物館」の展示資料(自然科学のとびら、第7巻第4号)では、イネ科植物には、約12,000の種があると見積もっています。「教育用語レベルと、専門用語レベルの中間」
ご質問に対する担当者(私)からの回答としては、「一時的に貯蔵している糖類関連物質も、種により、多様である」ということになります。
外国の報告では、結実期の前にイネ科植物が一時的にため込んでいる有機化合物はショ糖ばかりでなく、多糖類をはじめとして種ごとに大きく異なるという報告も多数あります。
「結論」本件に関するにまとめ
極めて大まかに言って、日本で食用作物としてとして多く栽培されているイネ科作物のイネ、ムギでは、結実に至るまでの有機物の一時的貯蔵は、量的に葉身にショ糖をためるものが多いともいえるが、他の化合物としても蓄えられる。広く世界を見渡すと、一時的貯蔵物質として、量的にショ糖でなく、多糖類として多くを蓄えるイネ科植物も多々ある。ジャガイモやサツマイモでは、葉、茎、または、根にデンプンとして一時的に蓄えられ、植物の成熟期には、ショ糖となって塊茎、塊根に運ばれる。
以上です。
みんなのひろば 植物Q&Aへようこそ、質問を歓迎します。
先生がまとめられた、「主な双子葉類では葉緑体中にデンプンが作られる。単子葉類ではスクロースが作られる。(糖葉)(デンプン葉)」という要約は、高校生レベルでは、極めて大まかに言って、おおむね正しいといって良いでしょう。
「教育用語レベル的」
以下に、多少補足をします:
第1章(光合成の炭素同化経路):植物は、光合成により成長しますが、その全体的目的は、次世代の子孫を残し、生育域を拡大することです。そのために、植物は光合成によって有機物を合成し、合成した有機物をあるものは種子に、あるものは地下茎や塊根に蓄えます。環境中には、植物を餌としている動物などに満ちており、また太陽光や無機栄養分に関して植物同士の間の競争もありますので、全体として、いかに効率よく有機物を蓄え、これを効率よく分配して、次世代の命につないでいくかが課題となります。
光合成をおこなうのは、細胞内の葉緑体です。葉緑体の起源はシアノバクテリアだと考えられ、はるか昔に宿主となる非光合成生物がシアノバクテリアを取り込み、さらに、長い時間をかけて、シアノバクテリアの遺伝子の大部分を宿主側の染色体中に取り込み、同時に宿主側も葉緑体の働きを助けることによって、切っても切れない関係となって現在に至っていると考えられます(葉緑体の細胞内共生説という。なお、今でも、葉緑体自身も一部の遺伝子を葉緑体に特有な遺伝子として保持しています)。
植物の光合成では、葉緑体の中で、カルビン回路によって二酸化炭素が固定され、その固定産物は、A:葉緑体を包みこんでいる葉肉細胞へと輸送されるか、B:葉緑体の内部にとどまって更に化学変化を受けデンプンになります。Aの場合は、三炭糖リン酸の形で葉肉細胞に輸送されて、そこで様々な化学変化を受けますが、量的に多いのはショ糖となって細胞外に輸送され、この時放出されたリン酸は、葉緑体に取り込まれて、カルビン回路に再利用されます。
これに続く過程を、もう少し細かく見てみます。
まず、植物は光合成によって有機物を合成しますが、これを「命の糸」が切れないように、次世代の植物にうまく渡さなければなりません。そのやり方は植物の種類によって様々ですが、適当な時期になったら開花結実によって種子を作って蓄えていた有機物を渡す(多くの種子植物)、あるいは、地下茎や根に有機物を蓄えておいて生育に不適な時期を乗り越え、生育に好適な時期になったら発芽、成長するために光合成によって生産された有機物を利用する方法が目につきます。これらの過程の途中で、植物は必要になるまで有機物を茎や葉に一時的に蓄えておきますが、イネやサトウキビの場合は葉や茎に主にショ糖を蓄え、サツマイモやジャガイモでは根や葉、地下茎に主に澱粉を蓄えます。
前者で、サトウキビの場合は、茎を太らせ、ショ糖を髄に蓄えるのが主流ですが、イネやムギの場合は貯蔵場所を増やすために{分げつ}といって根元から出る茎の本数を増やします。また、イネは葉身もそれほど太くはないので、浸透圧の関係で、ショ糖ばかりでなく、かなりの部分は多糖(様々なものがある)として一時的に保存し、開花結実の時期になると、ショ糖となって篩管を経て穂に送られます。
葉から送り出されたショ糖は、次世代の植物に渡すために、ジャガイモでは葉や茎に、サツマイモでは葉や根に、一時的にかなりの部分がデンプンに変換されて蓄えられます。そこで、これらの植物はデンプン葉を持つという表現もあります。(下記参照)
第2章:
総合的に言って、上記(第1章)のような要約を肯定的に評価しているサイトもあります:
デンプン葉 (1570d)、(光合成事典、(日本光合成学会)Web版)より)
「*デンプン葉[starch leaf] 緑葉において光合成によって生じる同化産物の多くがデンプンとして蓄積されるものをいい,ショ糖を多く蓄積する糖葉と区別される.デンプン葉にはヒマワリ,アサガオ,タバコ葉などがあげられ,糖葉としてはムギやトウモロコシなどの単子葉植物の葉がある.
光合成炭素同化産物の分配率がデンプン合成に偏っているか,ショ糖合成に偏っているかでこうした差異が生ずるものと思われる.」
[教育用語レベル的]
第3章:他方、植物の多様性に眼を注ぎ、もっと慎重な説明をしている研究者もいます:
植物Q&Aみんなの広場、登録番号0128、タイトル{でんぷん葉と糖葉について}
質問:
「光合成で作られたでんぷんがどのようにして、根や実に移動するのか」
ということを追究していました。
1) 光合成では最初にブドウ糖ができて、でんぷんを作り、その後、ショ糖になって、水に溶けて、師管を通る。
2) 糖葉といって、でんぷんを作らずに、ショ糖として葉に蓄積するものもある。たとえば、ネギとかタマネギとか、ほうれんそうとか。
3)運ばれたショ糖は、成長点でエネルギーとして使われたり、実や根では、でんぷんに変えられて貯蔵される。
4)てんさいは、根にショ糖を貯め、さとうきびは、長い茎にショ糖を貯める。
といったようなことが分かりました。
今は、2)や4)のような私たちのよく知っているサツマイモが葉にも根にもでんぷんを蓄えるといったこととは、少し変わった植物を探しています。
他にもこのような例がありましたら、教えていただきたいのです。
回答
光合成産物の転流・貯蔵について:
葉での光合成産物、葉から貯蔵器官へ移動(転流)する物質、貯蔵器官で貯蔵される物質について下の表にまとめました。なお、( )内に、光合成産物の細胞内合成場所、または貯蔵される組織や細胞内の場所を示しました:
葉の光合成産物 転流物質(師管) 貯蔵物質 一般的には デンプン(葉緑体内)ショ糖(細胞質) ショ糖 デンプン(アミロプラスト)、ショ糖(師部組織:サトウキビ、液胞:サトウダイコン)
特殊な例 a糖アルコール (マニトール、ソルビトール)
bラフィノース、 スタキオース a糖アルコール(リンゴの蜜のように局部的に)bラフィノース、スタキオースcフラクタン
上の「特殊な例」に該当する植物を科レベルで表すと:
aバラ科、 シクンシ科; bカバノキ科、 フジウツギ科、 シクンシ科、 スイカズラ科、 クワ科、モクセイ科、クマツヅラ科cキク科、ユリ科、 アヤメ科(以上では葉、 花、地下茎)、 イネ科(葉: オオムギ、 オートムギ、ライムギなど)。
ラフィノース, スタキオースは、ショ糖にさらに糖が付加された形をしている。グルコースをG、フルクトースをF、ガラクトースをGalで表すとすると、ショ糖はG-Fとなる。ラフィノースはGal-G-F、スタキオースはGal-Gal-G-Fと 表される。同様に、貯蔵物質としてのフラクタンは、G-F-F4-300となる。したがって、これらの糖はすべてショ糖の誘導体であると言えます。
「専門用語レベル」
*************
第4章:多様なイネ科植物
(基礎生物学研究所ホームページ(下記)参照:https://www.nibb.ac.jp/evodevo/tree/11_09_Poales.html
イネ科植物は地球上で多様な種を分化させているグループの1つです。上記ホームページでは、学問的には、「多数の種があるが、種の数については確定していない」というのが結論であるとしています。[専門用語レベル]
しかし、大衆を相手とする博物館等では、概算でもいいからおよその数を示すことが求められます:「神奈川県立生命の星 地球博物館」の展示資料(自然科学のとびら、第7巻第4号)では、イネ科植物には、約12,000の種があると見積もっています。「教育用語レベルと、専門用語レベルの中間」
ご質問に対する担当者(私)からの回答としては、「一時的に貯蔵している糖類関連物質も、種により、多様である」ということになります。
外国の報告では、結実期の前にイネ科植物が一時的にため込んでいる有機化合物はショ糖ばかりでなく、多糖類をはじめとして種ごとに大きく異なるという報告も多数あります。
「結論」本件に関するにまとめ
極めて大まかに言って、日本で食用作物としてとして多く栽培されているイネ科作物のイネ、ムギでは、結実に至るまでの有機物の一時的貯蔵は、量的に葉身にショ糖をためるものが多いともいえるが、他の化合物としても蓄えられる。広く世界を見渡すと、一時的貯蔵物質として、量的にショ糖でなく、多糖類として多くを蓄えるイネ科植物も多々ある。ジャガイモやサツマイモでは、葉、茎、または、根にデンプンとして一時的に蓄えられ、植物の成熟期には、ショ糖となって塊茎、塊根に運ばれる。
以上です。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-09-01