一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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エチレンガスを完全に分解すると果物は腐らないのか

質問者:   高校生   R.k
登録番号5976   登録日:2024-07-29
こんにちは。私は高校のプロジェクト学習で果物の腐らないの方法を探しています。私達プロジェクトは「農家さんが果物を高く買い取って欲しい!!」との事から果物を常に保存できればいつでもどんな時期にも買い取ってもらえるため高い値段で買い取ってもらえるんじゃないか?と思いこのエチレンガス分解について調べています。ですが調べていくうちに「エチレンガス分解袋」などがありとても困っています。ですがこれはエチレンガスを完全に分解できるのか?エチレンガスを完全に分解したところで果物は一生腐らないか?と思い調べましたが答えが出ませんでした。
このサイトを見つけて質問してみよう!!と思いました。エチレンガスを完全に分解すると果物は一生保存できるのでしょうか?
R.k 様

日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。また回答をお待ちいただきありがとうございます。ご質問への回答は、エチレンの生合成などがご専門の名古屋大学 大学院生命農学研究科 名誉教授 森仁志先生にお願いいたしました。

【森先生からの回答】
「エチレンガス分解袋」という商品はないと思います。該当するのは「鮮度保持ポリ袋」という商品でしょう。これらの多くの商品は袋にエチレンガスを吸収するためにゼオライトという物質を含ませていると思います。エチレンガスを微かに吸収しますが、果物(植物学の用語としては果実なので以下果実で表記します)から発生するエチレンガスの方が多いので、ほとんど効果はありません。
質問に戻ると
1)この袋はエチレンガスを完全に分解できるのか?
回答 この袋はエチレンガスをわずかに吸収しますが、全く分解しません。

2)エチレンガスを完全に分解すると果物は一生保存できるか?
回答 エチレンガスを分解したとしても(不可能です)、果物は保存できません。エチレンは植物ホルモンの一つで、植物の一生に大きく関わります。果実が大きくなってからエチレンによって成熟します。この時にエチレン作る遺伝子を壊した遺伝子組換え体を作成すると果実は成熟しません。例えばトマトの場合、緑色の果実は成熟して赤くなりません。

質問の動機“「農家さんが果物を高く買い取って欲しい!!」との事から果物を常に保存できればいつでもどんな時期にも買い取ってもらえるため高い値段で買い取ってもらえるんじゃないか? ”に戻ります。
果実の鮮度を保持するために1-MCP(1-metyl cyclopropen、1-メチルシクロプロペン)という薬品(商品名「スマートフレッシュ」)があります。農薬として登録されています。1-MCPはエチレンに化学構造が似ています。1-MCPはエチレンの受容体(エチレンを受けとって、その刺激を遺伝子発現に伝える)を阻害します。1-MCPがエチレン受容体に結合すると離れないので、エチレンは結合することができません。従って,一度1-MCP処理をすると、その後エチレンは効きません。1-MCPは日本では農薬としてリンゴ、ナシ、カキに対する使用が許可されています。その農家さんの果実がリンゴ、ナシ、カキならば、1-MCPを使用することが可能ですが、それ以外の果実には使えません。但し、1-MCP処理するとエチレンの効果はなくなって、果実が過熟することがないので商品として流通・販売するときは有効ですが、果実は植物体の一部分ですから時間とともに水分が減り結果的に腐ってしまいます。質問のタイトル“エチレンガスを完全に分解すると果物は腐らないのか”に戻ると、1-MCP処理をしてエチレンの効果を抑えても果物は腐ります。海外ではもっと多くの野菜・果実、切り花などの作物に対する使用が許可されています。1-メチルシクロプロペン、1-MCPという単語でネットを検索すると多くの情報がヒットします。下記のURLが参考になると思います。調べて見てください。
これで質問の回答になりましたでしょうか。
https://www.acis.famic.go.jp/syouroku/1-methylcyclopropene/1-methylcyclopropene.pdf
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以上、ご参考になりましたでしょうか。果物を”一生”保存、は至難の業ですね。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
森 仁志(名古屋大学名誉教授)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-08-27