一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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品種改良におけるおしべとめしべの役割り

質問者:   一般   ミツキ
登録番号5977   登録日:2024-07-29
私はとある農園の事務として働いている関係で育てている植物の品種の特徴を調べることがあります。そうすると大抵その品種の紹介欄に「母親に○○、父親に△△という品種を持ち〜」ということが書かれています。
おそらく○○のめしべ、△△のおしべ(花粉)を使用したということなのだと思うのですが、△△のめしべ、○○の花粉を使用した場合とどう異なるのかが気になりました。
ご回答いただければ幸いです。
ミツキ 様

日本植物生理学会、みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、植物の性決定などをご専門にされている岡山大学大学院環境生命科学研究科 教授 赤木剛士先生にお願いいたしました。

【赤木先生の回答】
まず、植物の中には「雌雄(オス・メス)」の区別があるものや、特定の組み合わせの父親・母親でしか受粉が成立しないもの(「自家不和合性」「雄性不稔」など)が結構ありますので、その場合は、母親と父親を逆転させる(これを「正逆交雑」と言います)のは難しい場合も結構あります。あえて品種の由来を「母親」「父親」と分けて書かれている場合はこのケースが多いのではないでしょうか?
さて、そうでは無くて、母親も父親も両性花(めしべもおしべも持っている)であり、かつ、その組み合わせが限定されないときに、母親と父親の組み合わせを逆にした場合(ご質問では○○のめしべ、△△のおしべとしていたのを、逆にして△△のめしべ、の〇〇おしべとした場合)にどうなるか?ですね。遺伝学の父とも言われるグレゴール・メンデルが立てた理論の上では全く同じものが出来上がるはずです。「メンデル理論の上では」というのがポイントで、二つ考えなければいけないことがあります。
一つ目は遺伝の基本となる核ゲノムとは独立して、葉緑体やミトコンドリアなど、基本的に母性遺伝するものがあるからです。これは「母親からしか遺伝しない」ものですので、父親・母親を逆にすると効果が変わってきます。二つ目ですが、最近の知見から、父親・母親でそれぞれ獲得したDNAへの修飾状態(エピゲノム状態と呼びます)が、何らかの形で子供に引き継がれるケースがあるかも?という研究がちらほら見られています。この場合、父親・母親の間で子供へのDNAへの修飾状態の伝わり方が違う可能性があり、そうなると、父親・母親の組み合わせを逆にすると、効果が違ったものが生まれてくる可能性はあります。
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以上、ご参考になりましたでしょうか。本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
赤木 剛士(岡山大学大学院環境生命科学研究科)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-08-10