質問者:
一般
you sakana
登録番号5986
登録日:2024-08-08
深い海に赤い色素の紅藻がいる理由の解説を読みました。紅藻とレイリー散乱
「太陽の可視光の成分のうち赤~橙色や紫色の光は途中で遮られ、深いところには青色や緑色の光だけが届くようになります。」
とありますが、空気中だとレイリー散乱により青い光のほうが先に乱反射して、赤い光が遠くに届くため、日中は空が青く、夕焼けが赤くみえることが知られています。海の中では、これとは逆の説明になっている点が気になりました。海中では、長い波長の赤色の光りが遮られ、青や緑の短い波長の光りがより深いところに届くのはなぜでしょうか?
海の中の赤い植物"紅藻"の謎 | 日本植物学会
https://bsj.or.jp/jpn/general/research/02.php
you sakana 様
植物生理学会 みんなの広場 「植物Q&A」に質問をお寄せくださり有難うございます。
解説:
空気のレイリー散乱についてはご指摘のとおりです。これは大気に含まれる気体の分子、主には窒素分子N2や分子O2による散乱です。これらの分子の大きさは0.3 - 0.4 nmくらいです。可視光の波長(可視域400~700 nm)に比べてうんと小さいです。レイリー散乱は波長の4乗分の1に比例して起こりますので波長が短いほど散乱します。空が青く見えるのも、夕焼けが赤いのもこのレイリー散乱のためです。大気圏は地上100 km程度です(https://www.jss.or.jp/fukyu/cubicearth/glossary/03.html、日本科学協会)。太陽高度が高い時には、光が大気圏に入射して観察者に届くまでの距離が短いので、散乱しやすい波長の短い青色が目立ちます。朝夕は光が大気圏に入射して観察者に届くまで長い距離を透過するので、短い波長から散乱してなくなっていき、最後は可視域で一番長波長の赤い光の世界になってしまいます。
水の中ではレイリー散乱は主役ではありません、小さな粒子による散乱(光の波長と同程度の大きさのMie散乱)や、より大きなプランクトン、粒子、ゴミによる幾何光学で扱えるような散乱が起こり、これらが透明度を決める原因となっています。
ゴミや粒子がまったくないきれいな水だとどうなるでしょうか。
英語版のWikipedia (Electromagnetic absorption by water)には、純水の吸収スペクトルが出ていますのでご覧ください。右側に出ている下の図を拡大すると可視域の虹が出ています。もっとも吸光度の小さい(=透過しやすい)波長は470~480 nm(やや緑がかった青色)のようです。これが吸光度の谷で、この長波長側も短波長側も吸光度は大きくなり光は透過しにくくなります。可視域の吸光度は小さいですから、コップの水はほぼ透明に見えます。これが数メートルにもなると(例えば大きな水族館の水槽の水など)、われわれの目でもこの傾向が感知できますよね。この解説の本文中真ん中あたりには、散乱がない状態で測定したとされる吸光係数が示されており、最小の吸光係数は418 nmで得られると書いてあります。原著を調べると従来よりも短波長の値が得られたり、散乱がほとんどない特殊な方法で測定するとこうなるとアピールしてあります。
太陽からの光のピーク(単位波長あたり面積当たりの光量子の数)は、600nmの橙色の光ですが、可視域では青色光がやや少ないとはいえいろいろな色の光がほぼまんべんなく地表や海面に降り注ぎます。これが数メートルも潜ると青緑色の世界になります。海藻は葉状体の内部に空気の間隙がないため、光が散乱して行ったり来たりすることで光吸収のチャンスを増すことができません。プランクトンもそうです。ですから褐藻類や珪藻類はフコキサンチン(カロチノイドの一種)、紅藻類はフィコシアニンやフィコエリスリンなどのフィコビリン色素を備えて青緑の光を吸収します。緑藻は浅いところに棲息しますが、例外的に紅藻類よりも深いところに棲息するヤブレグサなどは、緑色光を吸収するシホナキサンチンというカロチノイドをもっています。
余談ですが、この回答を考えている最中にネットで面白い記事を見つけました。水に大きさの違う粒子を懸濁したときの様子です。解説も正確でわかりやすいと感心しました。水の中に、青空、夕焼け、雲の白までが再現できるのですね。
テクノ・シナジー 構造色とは(レイリー散乱、ミー散乱)http://www.techno-synergy.co.jp/opt_lectures/about_SColor07.html
回答:解説書の、光は途中で「遮られ」というのが、「散乱され」と誤解されやすい表現だと思います。水が光を吸収するのです。そのメカニズムは物理化学の世界です。分子振動は、赤外域の吸収ピークがあります。このような波長の赤外線を吸収して振動しているわけです。通常は赤外線分光器で測定します。その振動の「倍音」にあたるものが可視域にまでのびていて、可視域の長波長側を吸収するということです。
水蒸気もCO2と同様の温室効果ガスです。地表からの赤外線輻射をこれらの気体分子が吸収して振動し、そのエネルギーを地表に向かって再放射します。水蒸気の濃度の変化については議論がありますが、こうした理由でCO2濃度の上昇は温暖化の原因となっています。
植物生理学会 みんなの広場 「植物Q&A」に質問をお寄せくださり有難うございます。
解説:
空気のレイリー散乱についてはご指摘のとおりです。これは大気に含まれる気体の分子、主には窒素分子N2や分子O2による散乱です。これらの分子の大きさは0.3 - 0.4 nmくらいです。可視光の波長(可視域400~700 nm)に比べてうんと小さいです。レイリー散乱は波長の4乗分の1に比例して起こりますので波長が短いほど散乱します。空が青く見えるのも、夕焼けが赤いのもこのレイリー散乱のためです。大気圏は地上100 km程度です(https://www.jss.or.jp/fukyu/cubicearth/glossary/03.html、日本科学協会)。太陽高度が高い時には、光が大気圏に入射して観察者に届くまでの距離が短いので、散乱しやすい波長の短い青色が目立ちます。朝夕は光が大気圏に入射して観察者に届くまで長い距離を透過するので、短い波長から散乱してなくなっていき、最後は可視域で一番長波長の赤い光の世界になってしまいます。
水の中ではレイリー散乱は主役ではありません、小さな粒子による散乱(光の波長と同程度の大きさのMie散乱)や、より大きなプランクトン、粒子、ゴミによる幾何光学で扱えるような散乱が起こり、これらが透明度を決める原因となっています。
ゴミや粒子がまったくないきれいな水だとどうなるでしょうか。
英語版のWikipedia (Electromagnetic absorption by water)には、純水の吸収スペクトルが出ていますのでご覧ください。右側に出ている下の図を拡大すると可視域の虹が出ています。もっとも吸光度の小さい(=透過しやすい)波長は470~480 nm(やや緑がかった青色)のようです。これが吸光度の谷で、この長波長側も短波長側も吸光度は大きくなり光は透過しにくくなります。可視域の吸光度は小さいですから、コップの水はほぼ透明に見えます。これが数メートルにもなると(例えば大きな水族館の水槽の水など)、われわれの目でもこの傾向が感知できますよね。この解説の本文中真ん中あたりには、散乱がない状態で測定したとされる吸光係数が示されており、最小の吸光係数は418 nmで得られると書いてあります。原著を調べると従来よりも短波長の値が得られたり、散乱がほとんどない特殊な方法で測定するとこうなるとアピールしてあります。
太陽からの光のピーク(単位波長あたり面積当たりの光量子の数)は、600nmの橙色の光ですが、可視域では青色光がやや少ないとはいえいろいろな色の光がほぼまんべんなく地表や海面に降り注ぎます。これが数メートルも潜ると青緑色の世界になります。海藻は葉状体の内部に空気の間隙がないため、光が散乱して行ったり来たりすることで光吸収のチャンスを増すことができません。プランクトンもそうです。ですから褐藻類や珪藻類はフコキサンチン(カロチノイドの一種)、紅藻類はフィコシアニンやフィコエリスリンなどのフィコビリン色素を備えて青緑の光を吸収します。緑藻は浅いところに棲息しますが、例外的に紅藻類よりも深いところに棲息するヤブレグサなどは、緑色光を吸収するシホナキサンチンというカロチノイドをもっています。
余談ですが、この回答を考えている最中にネットで面白い記事を見つけました。水に大きさの違う粒子を懸濁したときの様子です。解説も正確でわかりやすいと感心しました。水の中に、青空、夕焼け、雲の白までが再現できるのですね。
テクノ・シナジー 構造色とは(レイリー散乱、ミー散乱)http://www.techno-synergy.co.jp/opt_lectures/about_SColor07.html
回答:解説書の、光は途中で「遮られ」というのが、「散乱され」と誤解されやすい表現だと思います。水が光を吸収するのです。そのメカニズムは物理化学の世界です。分子振動は、赤外域の吸収ピークがあります。このような波長の赤外線を吸収して振動しているわけです。通常は赤外線分光器で測定します。その振動の「倍音」にあたるものが可視域にまでのびていて、可視域の長波長側を吸収するということです。
水蒸気もCO2と同様の温室効果ガスです。地表からの赤外線輻射をこれらの気体分子が吸収して振動し、そのエネルギーを地表に向かって再放射します。水蒸気の濃度の変化については議論がありますが、こうした理由でCO2濃度の上昇は温暖化の原因となっています。
寺島 一郎(専門:光合成の生理生態学)(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-08-20