一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ウマスギゴケの維管束について

質問者:   高校生   とり
登録番号5991   登録日:2024-08-13
自主研究でウマスギゴケの仮根について研究をしていたのですが仮根の横断面を見ると維管束のような輪が見えました。
苔植物には維管束は無いと認識しているのですが、ウマスギゴケのような大きく発達した苔植物には維管束が存在するのですか?
とり 様

日本植物生理学会、植物Q&Aにご質問ありがとうございます。

自主研究でウマスギゴケの仮根について探求されているとのこと、私も北海道大学理学部にてコケ植物の成長や植物の進化について研究をしており、どのようなことをされているのか興味津々です。

さてコケ植物と維管束植物(被子植物など)では色々と用語や構造で異なっており混乱することも多いと思います。コケ植物の仮根、維管束植物における維管束、根などについて構造や定義を今一度教科書や資料集などで整理してみましょう。仮根は体の表面から形成される1細胞性の突起様細胞、または多細胞性の一列からなる糸状の構造物の総称です。最近の遺伝子レベルの研究で被子植物の根に見られる根毛の形成に重要な遺伝子と同様の遺伝子がコケ植物の仮根の形成にも重要であるという共通性が明らかになってきました。つまり仮根と根毛の共通性が見つかってきたということになります。

一方で、維管束は木部(道管やその他の柔細胞などを含む)と師部(師管やその他の柔細胞などを含む)からなる複合組織です。とり様にはウマスギゴケ仮根の横断面に輪のようなものが見えたということですが、1細胞の横断面を見たものですので維管束とは全く異なるものになります(なんでしょうね)。

ウマスギゴケのような大型のコケ植物では特に顕著ですが、コケ植物セン類の茎や胞子体の柄の中心部、葉の葉脈のところ、またコケ植物タイ類の葉状体のところには、維管束植物の維管束に相当する働きを持つ通道組織(中心束、道束などと呼ばれます)が存在しています。中心束はハイドロイドやレプトイドと呼ばれるコケ植物特有の細胞群からなり細胞死を伴い通道組織を形成していることが知られています。維管束を構成する細胞群が細胞死とともに細胞壁の二次肥厚を伴うのに対し、ハイドロイドやレプトイドは細胞壁の二次肥厚は伴わず、この点で維管束と中心束のそれぞれは大きく違うと考えられています。この一方でやはり最近の研究から、維管束の形成に重要な遺伝子と同様の遺伝子が中心束の形成にも重要な働きをしていることが明らかにされました(奈良先端科学技術大学院大学、理化学研究所を中心としたグループの成果です)。それぞれの構造を作るために共通した遺伝子の働きが大切であるということがわかってきたことになります。今後研究が進み、中心束と維管束の形成に必要な遺伝子群がさらに明らかになることで、どのような遺伝子の働きがどのように変化することで維管束植物が進化し植物が大型化できたのかについての理解が一層進みそうで楽しみです。
藤田 知道(JSPP広報委員長)
回答日:2024-08-16