一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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黒い葉を持つ種と持たない種の差

質問者:   一般   佐野
登録番号6003   登録日:2024-08-22
多くの植物の葉は通常緑色ですが、成長するにつれて通常の状態が黒色になる種もあります。

たとえば、
・アロカシア(アロカシア レギヌラ)
・アグラオネマ(ロタンダム アチェ)
・ザミオクルカス ('Raven')
・ゴムの木 (Ficus elastica 'Burgundy')
・ブラックモンドグラス
・アエオニウム(多肉)
などに、黒い葉が通常状態になる種類がありますが、同じような地域に生息する他の種類でも、黒い葉にならないものもあります。

黒く見えるのは、すべての色の光を吸収しているためで、それが必要な環境を考えると、なかなか暗い所なのかと思います。
とはいえ、どんな植物でも暗い所なら真っ黒な葉になるわけではなく、黒い葉の植物が自生するすぐ隣ですら、明るい緑の葉の植物も生えています。

ただ、黒っぽい葉のフィカスに関しては、日が当たらなすぎると緑色になります。

ということは、暗い場所だから光の吸収効率を上げるために、黒い葉にするわけではないのか、
単に弱って緑色光を吸収できなくなるのか、よくわかりません。

強い光への防御反応としてだとしても、黒ではなく逆に色素が薄くなるものもあるし、アントシアニンが生成されて赤っぽく見えることもあるし、単に枯れるものもあります。

そうすると、他に差が考えられるのが、
もともと光合成効率が悪い種類だからなのか、
変異しやすく、その上で元々緑色を吸収する色素を多少持っているからなのか、
変異しやすさの要因として株の寿命が長いところから来るのか、
他の植物よりも環境の変化に弱い・繁殖力がその環境では相対的に弱い性質からなのか?、
この全部が組み合わさっているのか?

一体何が要因になるのか、何かヒントになることがあれば知りたいです。
佐野 様

みんなのひろば 植物Q&Aに質問をくださり、ありがとうございます。

難問です。ここに例としてあげて下さった植物をネットで調べてみました。見事に黒いですね。
黒く見えるのは、可視光をほぼ全て吸収しているからである、というのは正しいです。しかし、森林林床などの暗いところでなるべく光を沢山吸収して光合成に利用しようとすると、色素は光合成色素でなければなりません。光合成色素は緑色に見えるクロロフィルや黄色に見えるカロチノイドの一部(カロチノイドの中には光合成系の保護の役割をもつものもあるので一部としました)です。これらが吸収した光のエネルギーが光合成反応に用られます。ヤブツバキやクロマツなど、一年目の若い葉は鮮やかな緑色ですが、クロロフィルを蓄積するにつれて黒っぽくなるのはご存じだと思います。インドゴムノキの葉なども緑が濃くなり黒っぽく見えるものがあります。

また、林床の光はあちこちからやってくる散乱光です。葉に浅い角度で光があたると全反射してしまいます。照葉樹のヤブツバキの葉などに浅い角度で白色光を当てると、きらりと白く輝きます。これが全反射です。全反射してしまっては光合成ができませんので、林床の植物の中には、表皮の細胞表面がつるつるではなく尖った三角帽子のような形をしているものがあります。見た感じはベルベットのようです。アロカシア レギヌラの園芸品種の「忍者」や「ブラックベルベット」は、写真から判断するに、表皮細胞はこのような形をしているはずです。黒の塗料でもテカテカ光らない「つやけし黒」というやつがありますが、それと同じ原理です。針を沢山束にして尖った方からみると黒く見える。あるいはドイツのドイツトウヒの針葉樹林に「シュバルツバルト=黒い森」と呼ばれるところがありますが、森林全体の反射率が低く黒く見えるのです。スケールは異なりますがこれと原理は同じです。

通常は赤や紫色を呈するアントシアニンが高濃度蓄積した場合も黒っぽく見えます。例としてあげてくださった植物にはアントシアニンを含むものも多そうですね。かなり昔ですが、林床植物には裏側の表皮に赤色のアントシアニンをもつものがあり、これが光合成に役立っているのかもしれないという説が提唱されたことがあります。しかし、光合成色素以外の色素が光を吸収するわけですから、光合成に役に立つことはありません。アントシアニンは、いろいろな局面で強い光などから細胞や葉緑体を守る役割を果たしていると思われます。

林床に光合成色素以外の色素を大量にもつカラフルなあるいは黒い植物が存在するというのは、光合成を研究している回答者にとっては大変な不思議です。でも、観葉植物屋の店先に比べると、森林の林床はそれほどカラフルではありません。一応、マレーシアやインドネシアの熱帯多雨林も歩いた経験はありますが・・・。

京都大学生態学研究センターの樋口裕美子さんが、落葉樹林の春の妖精ともいえるカタクリの葉の斑入りはシカなどからの被食防御の可能性がある、という研究を学会で発表しています。シカのいない佐渡のカタクリには斑入りはなく緑色なのだそうです。たしかにカムフラージュにはなるかもしれません。一見小石のように見える多肉植物の色彩も被食防御に役だつかもしれませんね。

光合成を研究している立場からは、このような回答しかできませんが、少しでもご参考になれば幸いです。
寺島 一郎(葉の光合成や葉の光吸収などが専門の植物生理生態学者です)(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-08-31