一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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オゼコウホネとネムロコウホネについて

質問者:   中学生   634
登録番号6006   登録日:2024-08-23
学校の課題研究でオゼコウホネとネムロコウホネが生息しているところの違いを調べているのですが、どのような条件になればオゼコウホネが生えるのか分かりません。オゼコウホネはネムロコウホネより高いところに生息すると書かれていますが、オゼコウホネが生息する尾瀬ヶ原より、オゼコウホネではなくネムロコウホネが生息する八島湿原の方が標高が高いです。これはどういうことなのでしょうか。
拙い文章ですみません。
634 様

みんなの広場に質問をおよせくださり有難うございます。難しい質問でしたので、国立環境研究所の西廣淳先生に、超専門家の新潟大学の志賀隆先生を紹介していただきました。志賀先生は、詳しい解説をわかりやすく書いてくださいました。ネムロコウホネからオゼコウホネが「複数回」できたということです。同じようなものが複数回できるのはすごいですね。

【志賀先生の回答】
 オゼコウホネとネムロコウホネの生育環境に大きな差はありません。水平分布、垂直分布ともにネムロコウホネの方がオゼコウホネよりも広い範囲に分布します。
 まず、分類学的にはオゼコウホネとネムロコウホネは同じ種に含まれる「変種」の関係として扱われています。学名ではオゼコウホネはNuphar pumila var. ozeensis、ネムロコウホネはNuphar pumila var. pumilaと表されます。この2つの変種は柱頭が合わさってできた「柱頭盤(ちゅうとうばん)」の色で区別されます。柱頭盤が黄色だとネムロコウホネ、赤色だとオゼコウホネです。オゼコウホネの中には果実も赤くなるものもいます。なお、この2つの変種を交配させると、発芽能力のあるタネができます。
 最初にお答えしたように、この2つの変種の生育している環境に違いはほとんどありません。群馬県・福島県・新潟県にまたがる尾瀬ヶ原(標高約1400m)には、この2つの変種が隣り合う池塘(ちとう)に生育しています。分布範囲は水平分布、垂直分布ともにネムロコウホネの方が広いことが分かっています。ネムロコウホネは日本以外にもユーラシア大陸に広く生育し、北緯70°付近にも分布しています。
 この2つの変種の間の遺伝的な特徴を調べてみると、オゼコウホネはネムロコウホネから複数回起源したことが分かりました。つまり、柱頭盤が黄色い複数の集団(ネムロコウホネ)から、赤色の個体(オゼコウホネ)がそれぞれ違う場所で生じて定着したようなのです。
 ネムロコウホネが含まれるコウホネ属(スイレン科)の種の柱頭盤の色は基本的に黄色です。しかし、ネムロコウホネとオゼコウホネの関係のように、同じ種の中に黄色い柱頭盤を持っているものと赤い柱頭盤を持っているものが含まれている例が複数あります(例:オグラコウホネとベニオグラコウホネ)。では、柱頭盤の黄色と赤色の違いは生態学的にどういった意味があるのでしょうか。残念ながらこれについては、はっきりしません。花に訪れる虫に違いがあるのかもしれないと思いましたが、私がオゼコウホネとネムロコウホネの花を観察した際には、はっきりとした違いは確認できませんでした。今後の課題と言えるでしょう。
志賀 隆(新潟大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
寺島 一郎
回答日:2024-10-01