一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光化学系iの存在意義

質問者:   高校生   オガワコ
登録番号6011   登録日:2024-08-27
テストがあるので深く調べてみようと思い、光合成を勉強していたのですが、自分の理解があっているかわからず、あっているとするなら光化学系iの存在意義がないように思ったので、質問させていただきました。

光合成の反応について、下記のような理解であっていますでしょうか。

【今の私の認識】
①光合成色素が光エネルギーを受けて励起し、励起した電子が電子雲を反発しあい共鳴するような形で、光化学系iiの反応中心にエネルギーが送られていく。
②反応中心(P680)のある原子において、極度に励起し、電子を放出する。
③反応中心で電子の授受が起こり、最終的にマンガンクラスターが酸化し、これはH+よりも相当酸化力が強いので、水を分解して電子を奪う(2H2O→O2+4H⁺+4e⁻)。
④光化学系iiから、酸化還元の電位差に従って、光化学系iへ電子伝達がされる。
⑤光化学系iでも光を受けて励起⇔電子を放出し、NADP⁺にカルビン回路へと電子たちを運んでもらう(2e⁻+NADP⁺+H⁺→NADPH)。

だとすると、光化学系iiは水の分解も電子の放出もどちらも行えている(還元してから酸化もする)のだから、光化学系iの存在意義がないように思われます。なぜ光化学系iが存在するのでしょうか?光化学系iiの付近でNADPHがスタンバイするような形であってもよいような気がします。

登録番号5201では、「光化学反応を行う光化学反応中心には、強い還元力を生み出す光化学系Iと、H2Oから電子を引き抜いてO2を発生する光化学系IIの2種類があります」とお答えされていましたが、光化学系iiはどちらもできているように見えます。
オガワコ様

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登録番号6010, 6011, 6012の3件の質問は互いに関連していますので、それに対する回答は1つに統合して扱います。
回答を園池公毅博士(理学)、(早稲田大学教育・総合科学学術院教授)にお願いしました。

【園池先生の回答】
ATPがどのように反応を進めるかは、様々な場合があります。一般的に説明すると、エネルギー的に、化学反応には放っておいて進む(自発的な)反応と、単独では進まない反応がありますが、単独では進まない反応も、自発的に進む反応と組み合わせることにより、進めることが可能です。このあたりは「生物基礎」で学ぶと思います。二酸化炭素を有機物に変えるカルビン回路の反応は自発的には進みませんが、ATPが加水分解してADPになる反応は自発的に進む反応なので、両者を組み合わせると、カルビン回路の反応も進めることができます。
他方、二酸化炭素を有機物にする反応は、有機物が燃焼して酸化し二酸化炭素になる反応の逆ですから、有機物をつくる反応には、反応を進めるエネルギーだけでなく、二酸化炭素を還元する必要があります。そのための還元剤がNADPHです。

すなわち、ATPが反応を進めるためのエネルギーを供給し、NADPHが還元する力を供給することによって、カルビン回路の反応が進められています。

なお、このあたりについては、講談社ブルーバックスの『光合成とはなにか』をお読みいただけると、もう少し全体像を理解できるかもしれません。
園池 公毅(早稲田大学教育・総合科学学術院)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2024-09-02