質問者:
会社員
ぷくぬい
登録番号6024
登録日:2024-09-26
道ばたで見たことの無いエノコログサを見つけました。以前、穂が5つに分かれているエノコログサについての質問を拝見していましたが、今回見つけたものは、1本の穂からもう1本が出ている(穂の真ん中から枝分かれしている)ようなので質問させていただきました。これも、先祖返りというものでしょうか?みんなのひろば
エノコログサの枝分かれについて
ぷくぬい 様
みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、植物の形作りやそれらの進化をご研究されている東京大学大学院理学系研究科 教授 塚谷裕一先生にお願いいたしました。塚谷先生は以前、Q&Aの登録番号0903で同じくエノコログサの穂の枝分かれの回答をしてくださっています。より詳細な回答をいただけました。
【塚谷先生の回答】
ぷくぬいさん
ご質問をありがとうございます。
エノコログサ(いわゆる猫じゃらしですね)、気をつけているとたしかに枝分かれしているのがありますよね。中学生の頃だったか、私も探した記憶があります。実際、低い頻度でではありますが、エノコログサはご指摘のように穂(花序ですね)が枝分かれします。
なぜでしょう?実はもともとエノコログサのあの穂は、最初からある意味、枝なのです。まず1つ目の点として、エノコログサの穂を拡大してよく見ると、粒状の果実が1粒ずつ中心の軸の茎に密集していますね。でもその中には、2つの粒が短い柄に連なっているものも、たまにあります。じつは1粒ずつにみえるエノコログサの果実は、2つの花が連なっていたものからできていて、そのうち片方が退化して1つに見えているのです。
そして2つ目。エノコログサのあの穂の原型は、中心の軸の茎に直接果実が付く形ではなく、いくつかの果実が細い柄の上に並んで短い穂になって中心の軸に連なるという形だったのです。同じ属の近縁種でいうと、イヌアワがまさにそれですね。おそらく身近にも見られると思いますので、一度、エノコログサと比べてみてください。
このように、エノコログサのあの穂は、本当はもっと枝分かれしていたものが、短縮してきゅっと縮まったものなのです。もともと枝分かれの素質はあったのですね。そうしますと、何かのはずみでうっかり枝分かれの能力を発揮してしまうこともあるわけです。
そういうことが日常的に見られる例を上げましょう。エノコログサと同じイネ科の、トウモロコシです。ご存知のようにトウモロコシは、茎の先端につく雄の花序は枝分かれしてススキのようになりますよね。でも茎の途中の葉の脇につく雌の花序は枝分かれしません。でもどちらも花序なので、本来はススキのような形の雄の花序が基本形なのです。ですので、突然変異が起きると、雌の花序なのに枝分かれしてしまうという現象が見られることもあります。
今回ご指摘のエノコログサの枝分かれは、そういう遺伝的な突然変異ではないと思いますが、たくさんの穂を作る中ではうっかりミスも偶然起きます。そうしたことで、つい枝分かれしてしまったものだろうと思います。ご質問にあったように、物理的刺激でうっかりミスを起こすこともありえますが、穂が枝分かれするかどうか決まる時期には、まだ多くの葉に包まれた奥に保護されていますので、たまさかの通行程度では影響を受けないと思います。たまたまのミスでしょう。
でも枝分かれした穂のタネをとって蒔いてみて、来年生えてくる子どもの株を見たときに、もし多くの穂が枝分かれするようでしたら、遺伝的な変異かもしれません。ご興味があれば是非試してみてください。ちなみに野生のエノコログサは種子の休眠性が強くて、今取ったタネをすぐ温室で蒔いたとしても、なかなか芽が出ません。戸外でタネを蒔き、気長に来春を待つのがいいかもしれません。
枝分かれした穂の次の世代がどうなるのかも興味深いですね。
みんなのひろば、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、植物の形作りやそれらの進化をご研究されている東京大学大学院理学系研究科 教授 塚谷裕一先生にお願いいたしました。塚谷先生は以前、Q&Aの登録番号0903で同じくエノコログサの穂の枝分かれの回答をしてくださっています。より詳細な回答をいただけました。
【塚谷先生の回答】
ぷくぬいさん
ご質問をありがとうございます。
エノコログサ(いわゆる猫じゃらしですね)、気をつけているとたしかに枝分かれしているのがありますよね。中学生の頃だったか、私も探した記憶があります。実際、低い頻度でではありますが、エノコログサはご指摘のように穂(花序ですね)が枝分かれします。
なぜでしょう?実はもともとエノコログサのあの穂は、最初からある意味、枝なのです。まず1つ目の点として、エノコログサの穂を拡大してよく見ると、粒状の果実が1粒ずつ中心の軸の茎に密集していますね。でもその中には、2つの粒が短い柄に連なっているものも、たまにあります。じつは1粒ずつにみえるエノコログサの果実は、2つの花が連なっていたものからできていて、そのうち片方が退化して1つに見えているのです。
そして2つ目。エノコログサのあの穂の原型は、中心の軸の茎に直接果実が付く形ではなく、いくつかの果実が細い柄の上に並んで短い穂になって中心の軸に連なるという形だったのです。同じ属の近縁種でいうと、イヌアワがまさにそれですね。おそらく身近にも見られると思いますので、一度、エノコログサと比べてみてください。
このように、エノコログサのあの穂は、本当はもっと枝分かれしていたものが、短縮してきゅっと縮まったものなのです。もともと枝分かれの素質はあったのですね。そうしますと、何かのはずみでうっかり枝分かれの能力を発揮してしまうこともあるわけです。
そういうことが日常的に見られる例を上げましょう。エノコログサと同じイネ科の、トウモロコシです。ご存知のようにトウモロコシは、茎の先端につく雄の花序は枝分かれしてススキのようになりますよね。でも茎の途中の葉の脇につく雌の花序は枝分かれしません。でもどちらも花序なので、本来はススキのような形の雄の花序が基本形なのです。ですので、突然変異が起きると、雌の花序なのに枝分かれしてしまうという現象が見られることもあります。
今回ご指摘のエノコログサの枝分かれは、そういう遺伝的な突然変異ではないと思いますが、たくさんの穂を作る中ではうっかりミスも偶然起きます。そうしたことで、つい枝分かれしてしまったものだろうと思います。ご質問にあったように、物理的刺激でうっかりミスを起こすこともありえますが、穂が枝分かれするかどうか決まる時期には、まだ多くの葉に包まれた奥に保護されていますので、たまさかの通行程度では影響を受けないと思います。たまたまのミスでしょう。
でも枝分かれした穂のタネをとって蒔いてみて、来年生えてくる子どもの株を見たときに、もし多くの穂が枝分かれするようでしたら、遺伝的な変異かもしれません。ご興味があれば是非試してみてください。ちなみに野生のエノコログサは種子の休眠性が強くて、今取ったタネをすぐ温室で蒔いたとしても、なかなか芽が出ません。戸外でタネを蒔き、気長に来春を待つのがいいかもしれません。
枝分かれした穂の次の世代がどうなるのかも興味深いですね。
塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-10-26
藤田 知道
回答日:2024-10-26