一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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年輪のできる季節・時期

質問者:   その他   iseimo
登録番号6028   登録日:2024-10-05
年輪のできる時期について小学生に聞かれます。
年輪ができるのは、木の成長が早い時期と遅い時期があり、色合いの違いが出るからと理解しています。
ただ、その季節についてネットなどで調べると、人によって表現にややばらつきがあります。夏は成長しているのか、冬は成長していないのか、よくわかりません。

以下にこのサイトでの関連回答をコピペしました。揚げ足取りのような質問ですみません。季節の境目や真っ最中の表現が難しいからかと思いますが、季節を説明するにはどうすればよいでしょうか。


登録番号5157の回答
「材木の断面を見た場合、春から夏にかけて作られる材〈早材)に比べ、成長が衰える秋から冬に作られる材(晩材)は色合いが濃くみえます。」

登録番号4259の回答
「春から夏にかけての生長の活発な時期に形成される材(春材)は直径が大きく、細胞壁の薄い細胞からできています。また、夏から秋に向けて成長の衰えていく時期に形成される材(秋材)では次第に細胞の直径が小さくなり、細胞壁が厚くなります。」

登録番号4039の回答
「早材(春から夏へかけて成長した材部分)と晩材(晩夏から秋へかけて成長した材部分)」
iseimo 様

「みんなのひろば」にご質問いただき、ありがとうございます。

用語について:木材の解剖学に関して、日本木材学会が大変正確な「用語集」を作っています。どなたでも参照できますのでご覧ください。
https://www.jwrs.org/wag/

「見出し語」には、早材と晩材とを採用し、春材、夏材、秋材は採用されていません。早材と晩材の注に、「古い文献では、早材について「春材」、晩材について「夏材」あるいは「秋材」の記載がしばしば行われていたことから、古い用語として記載するが、本用語集では、「春材」、「夏材」および「秋材」の使用は推奨しない。」とあります。季節を限定する用語の曖昧さを避けた見識のある用語選択だと思います。今後は、他の学会や事典でもこれにならうと思われます。

木の成長時期:年輪を考えるうえでは、まず、木がいつ成長するのかというのが問題になります。木の円周方向への太り(二次成長)の測定には、地面から1.3 mの高さの直径(胸高直径)や円周を測定します。1980年ごろ、愛媛大学教授の荻野和彦教授がノギスのように主尺と副尺を備えた金属製のベルトを開発しました(荻野式デンドロメーター)。一度装着して定期的にその目盛を読めば、円周の成長が0.1 mm の精度で測定でき、成長の季節変化がわかります。雨がふると材は水を含んで膨らみますし、乾燥すると縮みますので、同じような天候の日を選んで調査するのがコツです。これを使った小宮山章氏の論文が以下からダウンロードできます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjfs1953/73/6/73_6_409/_pdf

同じ林分(岐阜県、標高1000 m)の落葉広葉樹19種類で、胸高円周の変化を7年間調べた貴重なデータです。これらの19種のすべてで、10日前後の年変動はありますが、円周成長の始まりは4月の半ばから6月の上旬までの開きがあり、円周成長の終わりには、8月中頃から10月までの差があります。その順番は年によって変化しません。いずれにせよ、これだけの幅があるということに注目してください。春、夏、秋などとは言えないです。

成長の始まりは、コナラ、クリ、ハルニレなどの環孔材のほうがイタヤカエデやミズメなどの散孔材よりも早いという傾向は明らかでした。環孔材では葉の展開前に太り始めるのに対して、散孔材が太り始めるのは葉の展開の後です。肥大成長に必要な植物ホルモンが前もって準備されているが、展葉後に葉から供給されるのかの違いがあると議論されています。一方、成長の終わりは落葉と密接に関係しており、環孔材と散孔材の違いは明瞭ではありませんでした。

年輪について:年輪が見えるようになるメカニズムはご理解の通りです。針葉樹では年輪が大変わかりやすいですが、落葉樹、とくに散孔材や放射組織が多いものの年輪はわかりにくいです。これらについてもデータベースがありますので、ご参照ください。以下のデータベースでご存じの樹木の小口(年輪のわかる断面)を調べてみてください。

森林総合研究所木材データベース
 https://db.ffpri.go.jp/woodDB/index.html

京都大学の伊東隆夫教授の美しい顕微鏡写真もダウンロードできます(IからVまであります。以下は I)。
 https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/51435/1/KJ00000153010.pdf

小学生にも分かりやすい解説をしたい、というご希望ですが、基本を教えていただいた上で多様性の面白さにも導いていただければ、植物を研究している私どもにとっても嬉しい限りです。環孔材と散孔材についても、上記の用語集やデータベースなどでいくつかの樹木を見ていただくと、なるほどと思っていただけると思いますし、材料を選んで順に説明すれば小学生にも理解できるのではないでしょうか? 大学生を相手にしてきた私の甘すぎる考えでしょうか?

寺島 一郎(植物生理生態学・生理解剖学)(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-11-12