一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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銀杏の落ちる時期の地域差について

質問者:   教員   高校教員
登録番号6032   登録日:2024-10-11
ふと疑問に思ったので質問させていただきます。

以前あった質問で、イチョウの落葉は北から南へと向かう傾向があるように書かれていました。銀杏が落ちるのも同じように北からなのでしょうか?
それとも、落果は落葉時期とは関係なく起きるものでしょうか?

(落葉・落果は離層の形成によって起きると認識しているので、落果の起きる地域の順番も同じようになると思っています。)
「高校教員」 様

みんなのひろば 植物Q&Aに質問をお寄せくださり、ありがとうございます。
最初にお断りしておきますと、この質問への直接の回答は「わからない」ということになります。調査した人があるかもしれませんが、調べがつきませんでした。以下の回答は、筑波大学の宮村新一先生、徳島大学の佐藤征弥先生にご協力いただきました。
まず、ギンナンは果実ではありません。イチョウは裸子植物ですから果実はできず、落ちるのは種子、熟すると悪臭を放つ肉質部は種皮外層です。

筑波大学の(故)堀輝三先生は、各地のイチョウの調査をなさいました。
掘輝三、堀志保美 (2005)総覧・日本の巨木イチョウ 内田老鶴圃
銀杏の落ちる時期についても調査なさったかどうかを、お弟子さんの筑波大学宮村新一先生と、堀先生の遺品を保管なさっており、ご自身もイチョウに大変詳しい徳島大学の佐藤征弥先生に尋ねました。残念ながら、堀先生はギンナンの落ちる季節についてのデータは残されなかったようです。

イチョウの黄葉や落葉については、気象庁が各地のデータを蓄積していています。 
気象庁 生物季節観測の情報 https://www.data.jma.go.jp/sakura/index.html
これを使って地図や年変動などを表示できるサイトもあります。

佐藤先生からは、以下のような貴重なお話を伺いました。
<メール1>
落葉に関しては、お尋ねの件に直接関係するわけではありませんが、ご存知のように他の樹種と比べてイチョウは落葉が始まってから終わるまでが短いという特徴があります(植物Q&A 登録番号2791の回答もご覧ください)。大正2年に刊行された『大日本老樹名木誌』には、イチョウの落葉に関する伝承として、落葉時期から降雪時期を知るというものが3本,落葉が急だと降雪も急で,徐々に落葉すると徐々に降雪するというものが1本,落葉の状況で翌年の豊凶を知るというものが1本載っています。
一気に落葉するという現象は、寒暖の激しい地域で顕著で、一晩のうちに落葉したと伝えられる樹がちらほらあります。私も熊本県五木村の「宮園のイチョウ」を訪ねた時、風もないのにバサバサ音を立てながら一気に落葉する現象に遭遇して驚いたことがあります。地元の人に聞くと、数日前に急に寒くなったということでした。
本多静六 編. 1913. 『大日本老樹名木誌』大日本山林会

<メール2>
残念ながら、堀先生の遺品にギンナンの落ちる時期に関するデータは見つかりませんでした。たまたま11月23・24日(土・日)にギンナン生産地である愛知県稲沢市祖父江町で開催されている「そぶえイチョウ黄葉まつり」に行ってきました。関係者に話をうかがったところ、品種によってギンナンの成熟時期はかなり異なり、早生のものだったら8月から出荷が始まるそうです。同じ品種が北と南で落ちる時期が異なるかと聞くと、分からないという答えでした。

回答担当の寺島は、ギンナンに品種や系統があることさえ知りませんでしたが、離層の形成が関わると思いますので、質問者と同じように、品種や系統が同じであれば、落葉と同じような前線になると思います。この件、宿題とさせてください。


寺島一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-01