一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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彼岸花はクローンなのになぜ寿命が尽きないのか?

質問者:   一般   aerobat
登録番号6034   登録日:2024-10-16
彼岸花は3倍体で種を作ることができません。
DNAをリセットすることなく、古来より細胞分裂を繰り返し続けているのになぜ寿命が尽きることがなく毎年花を咲かせるのでしょうか?
aerobat 様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。しかし、ご質問の意味がはっきり汲み取れないので、まず、その点について述べます。
質問のタイトルは「クローンだと寿命がつきるはずだ」ということが前提になっていますが、「寿命」は通常個体レベルのことですので、ヒガンバナのどの個体もそれぞれの寿命を全うします。ヒガンバナという種が消滅するという意味でしたら、クローンだからそうなるということはありません。クローンで種の繁殖をおこなっている植物(生物)は沢山あります。身近な植物では「セイヨウタンポポ」がそうです(植物のクローンについては本コーナーで登録番号1885,3733 のほか「クローン」で検索してください)。
質問内容で、「DNAのリセット」とはどんな事を念頭においておられるのでしょうか。
それがないと「寿命がつきる」ということをは、「種の継続的繁殖はなくなる」ということでしょうか。
 個体の生命が次世代に受け継がれるということは、生物学的には親個体のゲノム(全遺伝子)情報が子供個体に受け継がれることです。そのためにはゲノム遺伝子(DNA)が正確にコピーされる必要があります。しかし、コピーは完全無欠ではなく低い確率でエラーがおきます(自然突然変異)。従って、子供の個体と親の個体とではゲノムの情報は100%一致はしません。さらに普通は♂と♀の両方の遺伝子を持つことになるので、クローンよりも遺伝子の組換えは大きいことになります。これを「DNAのリセット」と言っておられるのだと思いますが、進化の観点から考えるとクローン植物は変化の度合いが遅いということが言えるかもしれません。(登録番号3733参照)。そういう意味では、ヒガンバナはなにか大きな環境の変化に耐えきれず、種の絶滅にいたる機会は大きいかもしれません。
ヒガンバナは3倍体なので、どれか一つの染色体の遺伝子が変わっても、他の二つが正常であればそちらが優先することになるので、変化が現れる確率は極めて低いと思われます(登録番号4888参照)。aerobat様がいわれる「DNAリセット」がまったくないわけではありません。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-10-23