一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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根の重力屈性について

質問者:   自営業   ケイ
登録番号6035   登録日:2024-10-19
ふとした素朴な疑問から、もし専門の見地からするとごく初歩的な問題であったならと、質問を思い立ちました。
植物の根には負の重力屈性があるという事ですが、環境として筒状の構造物に土を詰めたもの(底の抜けた植木鉢のようなもの)に植物を植生させるとして、なおかつその筒が、S字が横になったような構造(水洗トイレの水たまり部分に水でなく土が詰まったような構造)をしてるとすると、植物の根は筒を進んで一旦上に伸びた後、また下に伸びるのでしょうか?もしそういった場合があるとしたら、植物は何センチ位まで一旦上に生え進んだら「あきらめ」て伸びるのをやめるのでしょうか?
また、そういった植物の重力屈性について専門に研究・実験している先生がおられましたら、その成果についての情報をご提供頂ければ幸いです。
ケイ 様

本コーナーへの質問、ありがとうございました。主に、植物の屈性などの環境応答をご専門としています千葉大学宇宙園芸研究センター長の高橋秀幸先生から、下記の回答を頂きました。

【高橋先生の回答】
 植物の根が負の重力屈性を示す(重力の方向と反対側、すなわち上側に伸びる)例は、ある遺伝子が働かなくなった変異体などで報告されています。しかし、一般的には、主根(種子が発芽して、最初に伸びてくる根)は正の重力屈性によって下側に伸び、主根から発生する側根は横方向か斜め下方向に向かって伸びます。そのようにして、根は土壌中に広がるように発達します(そのような根全体の形状を根系といいます)。また、植物種にもよりますが、根は重力屈性だけでなく、負の光屈性(光と反対方向に伸びる)、正の水分屈性(水の多い方向に伸びる)、接触屈性(石などを避けて伸びる)、化学屈性(酸素や肥料成分などに向かって伸びる)などを示すことが知られています。したがいまして、根が伸びる方向に影響する要因は様々で、生存するために必要に応じてそれぞれの能力を発揮すると考えられます。通常は、養水分がある土壌中に根を発達させて植物体を支えるために、なかでも重力屈性の役割が大きいと考えられます。

 さて、ご質問のS字が横になったような筒に土を詰めて植物を栽培した場合の根の伸び方を考えてみましょう。仮に種子を播種した場合、その中で発芽してでてくる主根は、下側に伸びて横になった筒の下側壁面に接触すると考えられます。その根は筒に沿って土の中を伸びるものもあれば、筒の土表面から飛び出して伸びることがあるかもしれません。ここでは筒に沿って伸びる根や、初めは筒を縦にして生育させておいて途中で横にする場合を仮定します。S字部分に到達した根はどのような行動をとるでしょうか。筆者は実際にそのような状況におかれた根の発達を調べたことはありませんが、根が伸びるのに障害となるような条件(例えば、過度の酸欠・乾燥など)が存在しない限り、根はS字部分をも突破して伸びると推察します。ご質問にもありますように、ここで根が上に伸びようとするとき、どれくらいの高さまで伸びるかについては、植物の種類や条件によって違うと考えられますし、勿論、限界もあるでしょう。家屋の周りの排水管に樹木の根が張って、詰まりの原因になることがあります。素焼き鉢で植物を栽培して、それを引き抜くと、素焼きに面した側に塒(とぐろ)を巻くようにびっしり伸びている根を見たことがあるかもしれませんね。このように、根は空隙を最大限に利用して発達しますが、個々の根の伸びる方向は、重力、光や水分の勾配の有無、接触、酸素環境などの影響を受ける複雑な過程であると考えられます。また、これらの環境条件は発達した根(根系)の多くの部分を占める側根の発生にも影響します。S字部分のところに到達した根は、そこで一旦足踏みをするかもしれませんが(その場の環境が適切であれば、根はその空間を満たすほどに発達する可能性があります)、物理的な遮蔽や酸欠・乾燥といった問題がなければ、種々の環境(刺激)を感知して、根は筒のS字部分を伸びていくと考えられます。是非、S字型容器での植物栽培を実際に試されてみてはどうでしょうか。
高橋 秀幸(千葉大学宇宙園芸研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2024-11-06