質問者:
自営業
じゃばら
登録番号6036
登録日:2024-10-20
昆虫は赤い色を見ることができないと聞いたのですがみんなのひろば
赤い虫媒花があるのはどうして
オシロイバナ、ヒガンバナ、ホウセンカの様に虫媒花でありながら
赤い花びらを咲かせている種類がいるのはどういった理由があるのでしょうか?お願いします。
じゃばら様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
一般に、花と昆虫は前者が後者に花蜜を供給する代わりに、後者に花粉を運んでもらうという共生関係にあります。昆虫は送粉者(ポリネーター)としての役割をもっています。送粉者は鳥や動物の場合もあります。このような虫媒花は、受粉のために昆虫が花を訪れてくれる必要があるので、花は形態、色、香り・臭いなどそれぞれの仕方で昆虫を誘き寄せます。ここではご質問に沿って、花色との関係について述べることにします。
ミツバチの行動の研究でノーベル医学・生理学賞を受賞したカール・フォン・フリッシュはミツバチの色覚はヒトのそれとは同じではないことを明らかにしました。その後の研究から、昆虫の可視波長域はおおよそ300 nm~600nmで、ヒトの可視波長域(おおよそ380 nm~780 nm)と比べて、短波長の紫外線領域にずれて、600nmより長波長領域は含まれていないことが分かりました。そして、昆虫の眼(複眼)の色受容体(細胞)は約360nmにピーク(最大感度)がある紫外線受容細胞、約460nmにピークがある青色受容細胞と約500〜560nmにピークがある緑色〜黄色受容細胞の3種類があることもわかりました。このことから、昆虫には一般に赤い色は見えないが、紫外線は見えるということになります。
このような事実から、「昆虫は赤い色を見ることができない」といわれます。しかし例外もあって、アゲハチョウは300nm(紫外部)から700nm(赤色部)までの広範囲の可視波長域を持っていることが明らかにされています。アゲハチョウの複眼には紫外部、紫色部、青色部、緑色部及び赤色部の波長域にそれぞれピークをもつ色受容細胞があります。したがってアゲハチョウは赤色を識別できることになります。事実カラスアゲハが最も好むのは赤い色の花で、黄色い花と紫の花にはほとんど見向きもしないようです。
ご質問で取り上げられたヒガンバナに立ち寄るのはカラスアゲハ、クロアゲハなどのようです。オシロイバナのポリネーターはスズメガですが、ある研究報告(*)によると、昼行性のスズメガは白、赤紫、黄花色に関係なくランダムに訪花していたが、夜行性スズメガは大多数が選択的に白色、黄色の花を訪問した。しかし、一部は赤紫花を連続的に訪花した、とあります。ホウセンカのポリネーターはマルハナバチ、 スジブトコシブトハナバチ、ミツバチなどが挙げられます。しかし、アゲハチョウを除くこれらの昆虫も赤色を識別している訳ではないようです。
赤色光を識別できない昆虫が赤い花を訪れる理由は何か他にある筈です。重要なことは、人が見る花の色と昆虫が見る色は同じではないということです。昆虫は紫外線を識別するので、花が紫外線を吸収すれば、昆虫はその部分を花の構造色として認識できます。花の紫外線像を観察すると、隠れていた模様が現れます。実はこの部分はふつう蜜腺の場所になります。紫外線像は、訪花昆虫が蜜を得られる場所を知るための、別の言い方をすれば、花が蜜の在処を昆虫に知らせるための標となっています。
このように、訪花昆虫に蜜の在処を教える標は蜜標(ネクター・ガイド:Nectar guide)と呼ばれ、紫外線像だけでなく、花の形態、構造でもみられます(資料参照)。
前述したように、昆虫が花に引き寄せられる(花が誘惑する)手立ては花の色だけではありませんが、花の色・模様は大きな役割を果たしています。しかし、紫外線を感知できる昆虫は、紫外線が含まれる自然光の元では、ヒトが識別している色とは別の色を識別しています。黄色も紫外線反射と同時にみると紫色のように、青色と紫外線反射が同時にあると菫色のように、赤色と同時紫外線反射は黒く映るということです。赤色を識別できるアゲハチョウも実際はヒトが見ている赤色ではなくて、深紅色をみており、またその中で蜜標を識別しているのでしょう。
ご質問への直接的な回答は「ほとんどの昆虫は赤い色を識別できないが、紫外線を識別できるので、それを利用している。」ということです。
昆虫と植物、特に花との関係は長い進化の歴史の中でお互いに深く関わり合ってきたことが明らかになっています(共進化)。この分野の紹介的な書物や文献は非常に沢山ありますので、ご関心があれば図書館でご覧になってください。また、本コーナーでもいくつかの関連質問がありますので、例えば「共進化」で検索してみて下さい。
下記の資料はいずれもWEB上でみられるものの一部です。
*新村芳美・梶田忠 赤紫色の花は夜行性送粉者の誘引に効果的か? -オシロイバナの花色の多型とスズメガ類の訪花パターン
日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
田中 肇 花の色香 ミツバチの科学21(3):107−118(2000)
内海 俊策 花はなぜ美しいか1.昆虫と受粉 千葉大学教育学部研究起要 第50巻 III:自然科学編:、41-448(2022)
内海 俊策 花はなぜ美しいか2.蜜標と蜜腺 千葉大学教育学部研究起要 第51巻 319~329(2003)
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
一般に、花と昆虫は前者が後者に花蜜を供給する代わりに、後者に花粉を運んでもらうという共生関係にあります。昆虫は送粉者(ポリネーター)としての役割をもっています。送粉者は鳥や動物の場合もあります。このような虫媒花は、受粉のために昆虫が花を訪れてくれる必要があるので、花は形態、色、香り・臭いなどそれぞれの仕方で昆虫を誘き寄せます。ここではご質問に沿って、花色との関係について述べることにします。
ミツバチの行動の研究でノーベル医学・生理学賞を受賞したカール・フォン・フリッシュはミツバチの色覚はヒトのそれとは同じではないことを明らかにしました。その後の研究から、昆虫の可視波長域はおおよそ300 nm~600nmで、ヒトの可視波長域(おおよそ380 nm~780 nm)と比べて、短波長の紫外線領域にずれて、600nmより長波長領域は含まれていないことが分かりました。そして、昆虫の眼(複眼)の色受容体(細胞)は約360nmにピーク(最大感度)がある紫外線受容細胞、約460nmにピークがある青色受容細胞と約500〜560nmにピークがある緑色〜黄色受容細胞の3種類があることもわかりました。このことから、昆虫には一般に赤い色は見えないが、紫外線は見えるということになります。
このような事実から、「昆虫は赤い色を見ることができない」といわれます。しかし例外もあって、アゲハチョウは300nm(紫外部)から700nm(赤色部)までの広範囲の可視波長域を持っていることが明らかにされています。アゲハチョウの複眼には紫外部、紫色部、青色部、緑色部及び赤色部の波長域にそれぞれピークをもつ色受容細胞があります。したがってアゲハチョウは赤色を識別できることになります。事実カラスアゲハが最も好むのは赤い色の花で、黄色い花と紫の花にはほとんど見向きもしないようです。
ご質問で取り上げられたヒガンバナに立ち寄るのはカラスアゲハ、クロアゲハなどのようです。オシロイバナのポリネーターはスズメガですが、ある研究報告(*)によると、昼行性のスズメガは白、赤紫、黄花色に関係なくランダムに訪花していたが、夜行性スズメガは大多数が選択的に白色、黄色の花を訪問した。しかし、一部は赤紫花を連続的に訪花した、とあります。ホウセンカのポリネーターはマルハナバチ、 スジブトコシブトハナバチ、ミツバチなどが挙げられます。しかし、アゲハチョウを除くこれらの昆虫も赤色を識別している訳ではないようです。
赤色光を識別できない昆虫が赤い花を訪れる理由は何か他にある筈です。重要なことは、人が見る花の色と昆虫が見る色は同じではないということです。昆虫は紫外線を識別するので、花が紫外線を吸収すれば、昆虫はその部分を花の構造色として認識できます。花の紫外線像を観察すると、隠れていた模様が現れます。実はこの部分はふつう蜜腺の場所になります。紫外線像は、訪花昆虫が蜜を得られる場所を知るための、別の言い方をすれば、花が蜜の在処を昆虫に知らせるための標となっています。
このように、訪花昆虫に蜜の在処を教える標は蜜標(ネクター・ガイド:Nectar guide)と呼ばれ、紫外線像だけでなく、花の形態、構造でもみられます(資料参照)。
前述したように、昆虫が花に引き寄せられる(花が誘惑する)手立ては花の色だけではありませんが、花の色・模様は大きな役割を果たしています。しかし、紫外線を感知できる昆虫は、紫外線が含まれる自然光の元では、ヒトが識別している色とは別の色を識別しています。黄色も紫外線反射と同時にみると紫色のように、青色と紫外線反射が同時にあると菫色のように、赤色と同時紫外線反射は黒く映るということです。赤色を識別できるアゲハチョウも実際はヒトが見ている赤色ではなくて、深紅色をみており、またその中で蜜標を識別しているのでしょう。
ご質問への直接的な回答は「ほとんどの昆虫は赤い色を識別できないが、紫外線を識別できるので、それを利用している。」ということです。
昆虫と植物、特に花との関係は長い進化の歴史の中でお互いに深く関わり合ってきたことが明らかになっています(共進化)。この分野の紹介的な書物や文献は非常に沢山ありますので、ご関心があれば図書館でご覧になってください。また、本コーナーでもいくつかの関連質問がありますので、例えば「共進化」で検索してみて下さい。
下記の資料はいずれもWEB上でみられるものの一部です。
*新村芳美・梶田忠 赤紫色の花は夜行性送粉者の誘引に効果的か? -オシロイバナの花色の多型とスズメガ類の訪花パターン
日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
田中 肇 花の色香 ミツバチの科学21(3):107−118(2000)
内海 俊策 花はなぜ美しいか1.昆虫と受粉 千葉大学教育学部研究起要 第50巻 III:自然科学編:、41-448(2022)
内海 俊策 花はなぜ美しいか2.蜜標と蜜腺 千葉大学教育学部研究起要 第51巻 319~329(2003)
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-11-03