質問者:
その他
カモノハシ
登録番号6039
登録日:2024-10-26
イチョウの黄葉を見ていると、大抵の木は葉の先端から黄色く色付き始めますが、一部の株では葉の先端が緑色のまま、中ほどから黄色くなることがあります。水や栄養分の巡りから考えると先端から黄葉するのは理解できますが、なぜ株によっては逆の現象が起きるのでしょうか。
みんなのひろば
イチョウの黄葉の仕方
カモノハシ様
Q&A コーナーへようこそ。歓迎いたします。
難しい問題なので回答が遅くなって済みませんでした。ご質問のような現象はイチョウに固有のことなのか、他の種でもみられる一般的な現象なのかが分かりませんでしたので、文献を調べてみました。残念ながらイチョウについての関連する研究あるいはなんらかの記載だけでなく、他の植物についてもはっきりした研究論文を見つけることはできませんでした。
似たような現象として、例えば米国のOak treeの葉では葉脈だけに緑が残って、他が黄色になるものがよくみられるようです。このような現象をInterveinal Chlorosis (IVC: 葉脈間退緑の意味)といいます。IVC は他の葉でもみられ、特に土壌のCa濃度が高く、従って高pH(アルカリ性)で生育する場合にしばしばみられるようです。土壌がアルカリ性だと、クロロフィルの合成に必要なFeが吸収されなくなるのが原因だといいます。
柑橘類の葉での研究 (Futch, S.H. & Tucker, D.P.H., 2021)では、一つは、黄化にともなってMg、Zn、あるいはKが枯渇するが、葉脈中には高濃度で残ることと、葉脈中に高濃度のNO(酸化窒素)が残存することがIVCと関係しているという報告があリます。NOは抗酸化物質として細胞活動に有害な活性酸素(光合成の結果として生じる)の抑制に働きます。抗酸化物質と活性酸素については本コーナーで、同単語で検索してください。クロロフィルやその他の分子の分解に関連した沢山の質問/回答があります。
すくなくともIVCに関してはこの現象のメカニズムは単純なものではなく、無機栄養、pH、栄養分の再転流、回転率、植物ホルモンなど多くの要因が関係しているということです。ご質問では異常黄葉化がみられるのは刈り込みした樹などに多く、大きな樹では見られないということですので、なんらかのストレスを受けた樹はそういう現象を示すのではないかと想像します。その詳しいメカニズムはわかりません。
以上は私が回答できることですが、此の分野の問題は私の専門分野から外れていますので、別に生理生態学がご専門でサイエンスアドバイザーの寺島一郎先生(現在、台湾國立中興大學生命科學院・分子生物學研究所教授)にもお願いして、以下のように回答をまとめていただきました。
【寺島先生の回答】
「みんなのひろば植物Q&A」に、ご質問有難うございます。難題です。
イチョウが黄色く紅葉するのは、植物にとって貴重な資源であるタンパク質やクロロフィルに含まれるNを、アミノ酸やクロロフィルの分解産物として回収した後にカロチノイドや他の黄色の色素が残るためだということは、既に回答済みです(登録番号1107, 1462, 3622, 5293, 5921)。
回収の際には維管束の篩管や篩細胞でアミノ酸などを葉から枝や幹に運ぶと思われます。篩部の輸送では篩管や篩細胞への積み込みに、エネルギーが必要な能動タイプと、濃度差を利用して運ぶ受動タイプのものがあります。いずれにせよ篩管や篩細胞の内部には濃度差が必要ですが、枝や幹のNの回収先で、アミノ酸などを液胞などに隔離すれば、篩管や篩細胞からの積み下ろし部分のアミノ酸の濃度は低くなるので輸送が可能です。
黄葉する場合、一般には葉脈の間が黄色になり、葉脈の部分に緑が残るものが多いようです。イチョウもこのタイプです。もしかすると、篩部への積み込みのためのエネルギーに光合成が寄与しているからかもしれません。一方、写真のイヌビワのように葉脈のまわりから先に黄色になるものもあります(添付の写真 東京 寺島撮影)。これらの違いが篩部への積み込みのタイプと一致すると面白いですが、ちょっと捜した限りでは、そのような文献は見つけられませんでした。
さて、今回の質問についてですが、回答者の一人・寺島の自宅の小さな庭にも、背が高くなりすぎないように刈り込んだイチョウがあります。ご質問のイチョウと同じように先端に緑を残し、途中から黄色く色づいているものがありました。また、お送りいただいた写真と同様に、先端に緑を残したものは先端から茶色に枯れるようです。途中から黄色く色づくものは、最終的に全体が黄色にはならないですよね。
ここでたくましく想像してみます。何等かのストレスで先端部分が壊死し、壊死した部分を残した葉柄側では通常の黄葉化がすすんだ、という可能性はないでしょうか。ストレスとしては、霜害、(台風襲来時の海からの風による)塩害、水不足によるストレスなどが考えられます。是非、連続して観察し、なんからかの因果関係をみつけてください。
京都工芸繊維大学の半場祐子先生の研究によると、イチョウは水不足などには強く、街の街路樹には適しているそうです。
https://photosyn.jp/journal/kaiho97.pdf <https://photosyn.jp/journal/kaiho97.pdf>
Q&A コーナーへようこそ。歓迎いたします。
難しい問題なので回答が遅くなって済みませんでした。ご質問のような現象はイチョウに固有のことなのか、他の種でもみられる一般的な現象なのかが分かりませんでしたので、文献を調べてみました。残念ながらイチョウについての関連する研究あるいはなんらかの記載だけでなく、他の植物についてもはっきりした研究論文を見つけることはできませんでした。
似たような現象として、例えば米国のOak treeの葉では葉脈だけに緑が残って、他が黄色になるものがよくみられるようです。このような現象をInterveinal Chlorosis (IVC: 葉脈間退緑の意味)といいます。IVC は他の葉でもみられ、特に土壌のCa濃度が高く、従って高pH(アルカリ性)で生育する場合にしばしばみられるようです。土壌がアルカリ性だと、クロロフィルの合成に必要なFeが吸収されなくなるのが原因だといいます。
柑橘類の葉での研究 (Futch, S.H. & Tucker, D.P.H., 2021)では、一つは、黄化にともなってMg、Zn、あるいはKが枯渇するが、葉脈中には高濃度で残ることと、葉脈中に高濃度のNO(酸化窒素)が残存することがIVCと関係しているという報告があリます。NOは抗酸化物質として細胞活動に有害な活性酸素(光合成の結果として生じる)の抑制に働きます。抗酸化物質と活性酸素については本コーナーで、同単語で検索してください。クロロフィルやその他の分子の分解に関連した沢山の質問/回答があります。
すくなくともIVCに関してはこの現象のメカニズムは単純なものではなく、無機栄養、pH、栄養分の再転流、回転率、植物ホルモンなど多くの要因が関係しているということです。ご質問では異常黄葉化がみられるのは刈り込みした樹などに多く、大きな樹では見られないということですので、なんらかのストレスを受けた樹はそういう現象を示すのではないかと想像します。その詳しいメカニズムはわかりません。
以上は私が回答できることですが、此の分野の問題は私の専門分野から外れていますので、別に生理生態学がご専門でサイエンスアドバイザーの寺島一郎先生(現在、台湾國立中興大學生命科學院・分子生物學研究所教授)にもお願いして、以下のように回答をまとめていただきました。
【寺島先生の回答】
「みんなのひろば植物Q&A」に、ご質問有難うございます。難題です。
イチョウが黄色く紅葉するのは、植物にとって貴重な資源であるタンパク質やクロロフィルに含まれるNを、アミノ酸やクロロフィルの分解産物として回収した後にカロチノイドや他の黄色の色素が残るためだということは、既に回答済みです(登録番号1107, 1462, 3622, 5293, 5921)。
回収の際には維管束の篩管や篩細胞でアミノ酸などを葉から枝や幹に運ぶと思われます。篩部の輸送では篩管や篩細胞への積み込みに、エネルギーが必要な能動タイプと、濃度差を利用して運ぶ受動タイプのものがあります。いずれにせよ篩管や篩細胞の内部には濃度差が必要ですが、枝や幹のNの回収先で、アミノ酸などを液胞などに隔離すれば、篩管や篩細胞からの積み下ろし部分のアミノ酸の濃度は低くなるので輸送が可能です。
黄葉する場合、一般には葉脈の間が黄色になり、葉脈の部分に緑が残るものが多いようです。イチョウもこのタイプです。もしかすると、篩部への積み込みのためのエネルギーに光合成が寄与しているからかもしれません。一方、写真のイヌビワのように葉脈のまわりから先に黄色になるものもあります(添付の写真 東京 寺島撮影)。これらの違いが篩部への積み込みのタイプと一致すると面白いですが、ちょっと捜した限りでは、そのような文献は見つけられませんでした。
さて、今回の質問についてですが、回答者の一人・寺島の自宅の小さな庭にも、背が高くなりすぎないように刈り込んだイチョウがあります。ご質問のイチョウと同じように先端に緑を残し、途中から黄色く色づいているものがありました。また、お送りいただいた写真と同様に、先端に緑を残したものは先端から茶色に枯れるようです。途中から黄色く色づくものは、最終的に全体が黄色にはならないですよね。
ここでたくましく想像してみます。何等かのストレスで先端部分が壊死し、壊死した部分を残した葉柄側では通常の黄葉化がすすんだ、という可能性はないでしょうか。ストレスとしては、霜害、(台風襲来時の海からの風による)塩害、水不足によるストレスなどが考えられます。是非、連続して観察し、なんからかの因果関係をみつけてください。
京都工芸繊維大学の半場祐子先生の研究によると、イチョウは水不足などには強く、街の街路樹には適しているそうです。
https://photosyn.jp/journal/kaiho97.pdf <https://photosyn.jp/journal/kaiho97.pdf>
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー/台湾國立中興大學)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2024-11-18
勝見 允行
回答日:2024-11-18