一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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イチョウの木は、雌雄がかわることがあるのでしょうか?

質問者:   一般   松本
登録番号6042   登録日:2024-10-28
今住んでいる家の敷地に、3本のイチョウがあります。
100年はこえているとおもわれます。
10年位前からこの3本の木を、見ています。
初めに、2本は雌、1本は雄と教えられ毎年、2本の雌の木には果実、銀杏が付き、落ちています。3本の木は30mくらいずつ離れております。(南側から雌.雌、雄)
しかし、今年、雄と言われていた木から、銀杏がおちていました。(初めて見つけました)
一部の枝(2粒はついているのを見ました。)からと思われ、
10粒程度です。(まだあるかもしれませんが)
この木は高くなりすぎて上部を切ったことがあり、初めて見たとき、その状態でした。
今現在は、新しい幹が出て、高さは元に戻っています(いるようです)。
松本 様

みんなのひろば、植物Q&Aに質問をお寄せいただき、ありがとうございます。実際に性転換の研究もなさっている、東京大学名誉教授・法政大学名誉教授の長田敏行先生に回答をお願いしました。以下の文章で筆者とあるのは長田先生のことです。

【長田先生の回答】
 表記の問いに関して、筆者は自らの経験も踏まえて「是」と申します。本論に入る前に若干の留意すべき前提事項を申しますと、イチョウに雌雄性があることはドカンドール(A.P. de Candolle)が1812年に気付きました。その後、メスの枝をオスの木に接ぎ木すると、そのメスの枝はギンナンを多く付けることがわかりました。その後も少なからず接ぎ木の例があるので、この点は注意する必要があります。

 上記の前提の上で「是」とする筆者の経験を申します。筆者らは国の天然記念物に指定されている山梨県身延町上八木沢の山ノ神社のオスのオハツキイチョウにギンナンがなったことを知りました。そこで、2015年5月に文化庁の許可を得て、その木にのぼり地上8 mの一枝が確かにギンナンを付けており、性転換を起こしていることを確認しました。ギンナンが黄色になるころに、その変化はその枝だけであることを確認しました。その翌年、翌々年も確かめました。その上で「是」と申します。さらに、2017年9月には、クレーン(Sir Peter R. Crane)博士と共に、Virginia大学附属Blandy試験場には90年を経たおよそ500本のイチョウの林があるということで、現地へ赴き同試験場のスタッフの手も借り、また、昇降機(ピックアップトラックに昇降機を付けたもの)を用いて調査しましたが、オスからメスへの転換が数例、逆にメスからオスへの転換を推定される例も観察されました。ただし、この結果については報告をしておりません。その事実は、上記「是」をより補強するものと考えます。その他に、岩手県農業試験場、埼玉県浦和高校でもオスのイチョウにギンナンがなったという報告が筆者に届いております。

 それでは、その性決定や性転換の機構は如何、ということになります。赤木剛士博士(京都大学、現岡山大学)らがマメガキで報告されているような機構があると想像しておりますが、その調査は未だ行っておりません。

 なお、イチョウについて性染色体が見分けられるという報告もありますが、現在での見解は否定的です。また、最近中国ではイチョウのドラフト・ゲノムシーケンスが決定されたと報告され、遺伝子発現レベルで雌雄の差違が認められたと主張されている論文もありますが、その事実は未だ確定的とは云えないでしょう。

以上が長田先生の解説です。


マメガキの性決定については京都大学のプレスリリースをお読みください。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2014-10-31
赤木先生ら(増田佳苗・赤木剛士)による植物の性に関する解説は以下で読むことができます。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu/59/1/59_581206/_pdf
長田 敏行(東京大学名誉教授/法政大学名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
寺島 一郎
回答日:2024-12-01