一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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切り花における茎もとの断面積と吸水量の関係について

質問者:   自営業   さくま
登録番号6043   登録日:2024-10-30
 過去の質問(登録番号2163)において下記のように回答をされておられますが、私はこれを「断面積の増加に伴って吸水量が増加したため」と解釈しました。

(回答を一部抜粋)
・茎に対して直角に切ったら、露出する切り口の面積(露出している、水が浸透しやすい組織の面積)は最小となります。斜めに切ればその面積は大きくなる訳です。
・道管に入る水の供給区域が広くなったと思って下されば良いのではないでしょうか。

 そこで疑問に思ったことが、断面積が増加すると吸水量も増加するのか?という点です。

 確かに断面積の大きさは垂直に切るよりも斜めに切った方が大きくなるため、より多くの水を吸い上げることができるようにも思えます。
 しかし茎の組織内を上方へと移動する水の量を考えた時、仮に断面積の増加によって吸い上げ可能な水の量が増加したとしても、斜めに切ったその断面よりも上方にある茎の太さは処理前後で変わらないため、そこを通ることができる水の量も同様に変わらないのではないかと思います。
 従って、切り口でバクテリアが繁殖して水の吸い上げが悪くなっている等の要因がなく、正常に水を吸い上げることができる状態にある場合、断面積が増加しても吸水量は増加しない(ほとんど変化しない)と推察したのですが、この点について実際どうなのかご回答いただけると幸いです。
さくま 様

みんなのひろば 植物Q&Aに質問をお寄せいただき有難うございます。
切り枝が水を吸う場合に一番大きな抵抗が道管内部の水の移動にかかる場合には、さくま様の考えが正しいように思います。切り枝がストローのようなものである場合にも、さくま様の考えは正しいと思います。しかし、道管に入りるまでの水の移動に大きな抵抗がある場合には、答えは違ってきます。

生きている植物体の中ではたらく実際の道管や仮道管の先端は、スパッと切れた開口部が水に接しているわけではありません。先端は閉じていて細胞壁におおわれています。道管や仮道管は死んだ細胞です。その周りの生きた細胞が囲んでいます。土壌の水は細胞壁の隙間を通る場合も細胞の中を通る場合もありますが、皮層細胞の細胞壁には疎水性のリグニンやスベリンが沈着したカスパリー線があるため、細胞壁経路は絶たれ、一度は細胞膜を横切って道管に到達することになります。道管に到達した水は道管の細胞壁に沁み込み道管内部を地上に向かって動きます。根の先端から数 mm程度がさかんに水を吸収しますので、水は道管の先端付近からのみから道管に入るわけではありません。側壁からも多くの水が道管にはいります。道管の細胞壁は撥水性は強くなく、かといって吸取紙のように濡れやすくはないようです。少なくとも道管の内側については、道管内部の小さな水滴の接触角度などから判断が可能です。

切り枝の場合には、道管の切り口はスパッと切れているかもしれませんが、それでも水を吸収するのは切り口だけではなく道管の側壁からも吸収されるでしょう。ならば、道管側壁のなるべく多くの面積から水が吸収されるようにした方が良いと思われます。供給面積が大きくなるという登録番号2163の勝見先生の回答はこの意味です。

簡単な実験も可能だと思います。使うのは適当な太さのチューブだけ。チューブに水を入れて枝を差し水平に保ちます。もう一端の水面の高さを調節することで一定の静水圧をかけ、枝の端から滴る水滴の体積を測定します。簡単には単位時間当たりの水滴数を数えればいいです。果たして切り口が垂直の場合、斜めの場合、切り込みを入れた場合などでどうなるでしょうか?組織をなるべくつぶさないように、枝や茎は鋭利なカミソリなどを用いて切るとよいと思います。もし、実験なさったら、結果を教えてください。

花屋さんや華道のサイトを調べると、実際には、バクテリアやカビの繁殖などの問題が大きいようですね。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-01