質問者:
会社員
れもん
登録番号6045
登録日:2024-11-03
我が家の家庭菜園で土壌調査をしたところ、みんなのひろば
トリクロロエチレンなどの濃縮、蓄積性について
基準値以下のトリクロロエチレンが土壌内の空気中に検出されました。
トリクロロエチレンなどの有害な揮発性有機化合物は、野菜や芋、果樹の体内に蓄積、濃縮されるのでしょうか?
れもん様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。トリクロロエチレン(TCE)の毒性やヒトに与える影響などについてはすでに十分ご存知だと思いますので、ご質問のテーマに限って説明いたします。なお、もしもTCE全般のことを更に知りたいとお思いでしたら、英語ですが、「Trichloroethylene (TCE) Fact Sheet」というCalifornia Department of Public Healthが出している解説が詳しくかつ、易しくかかれています。Webで「」を検索して見てください。
さて、TCEが植物体内にどの程度取り込まれ、取り込まれた結果どうなるのかということは植物によっても異なるかもしれませんし、生育の条件などの違いの影響があるかもしれません。一般論としてではなく、二つの研究報告を紹介して、それに基づく私の見解を申し上げることにします。
一つは雑種ポプラの木を使った実験(*)です。Hybrid popularを温室で1時間から29週間のあいだTCEに曝露させると、TCEは地上組織に取り込まれ、TCE はそこでトリクロロ酢酸、ディクロロ酢酸、ディクロロエタノールに分解された。その期間中のTCEの茎への蓄積は見られなかった。したがって、成長と共に長くなった茎のTCE濃度は低くなった。トリクロロ酢酸の量は増加した。茎中に蓄積された分解物がどうなるかは不明である。
もう一つはニンジン、ホウレンソウ、トマトを使った実験(**)で、かなり厳密に分析しています。ニンジン、ホウレンソウ、トマトを連続気流のバイオレアクター(生化学反応装置)で育て、C14で標識した2つのレベル(560μg/lと160μg/l)の放射性TCEと非放射性TCEの混合物を含む培養液で31日〜160日に亘って規則的に灌水した。それぞれの植物の各組織中とバイオレアクター中の放射能(C14)を測定した。放射能の回収率は低レベル投与で50%、高レベルの投与で70%。その内5~24%は土壌に吸収され、植物組織中には比較的少なくて、1~2%程度だった。しかし、植物の可食部だけを見ると周囲の土壌よりは多かった。回収されたC14のほとんどは(74~94%)Orbo tubes (ガス、蒸気の捕集装置)で捕集されていた。
もし、植物体を完全に燃焼して、残渣から検出される放射能が全てTCEだと仮定すれば、可食部のTCE の濃度は、低レベル投与のトマトで152ppb(part per billion:10億分率)、高レベル投与のホウレンソウで580ppbとなる。しかし、分析の結果TCEもこれまでに報告されている分解物(代謝化合物)も検出されなかった。さらに、C14標識物質は有機・無機の溶媒でも抽出されなかった。著者らは以上の結果から、TCE は植物体に吸収され、代謝(分解)され、植物組織に結合されるが、結合して残った代謝物はTCEより毒性は少ないと信じられている。
以上に紹介した研究報告に基づくと、「TCEは野菜や果樹や根菜類にある程度吸収されるが、そのままでは蓄積されない。しかし、体内で他の物質に変わり、植物の組織に結合して残存する。転換した物質は毒性はあるかもしれないが、TCEに比べれば弱い。」というのが私の見解です。
* Lucas Odom, Joel Burken and Lee Newman Distribution and accumulation of Trichloroethylen and trichloroacetic acid in Hybrid populars.e J. Environmental Engineering 139(9) 2013.
** William E. Schnabel et al. Uptake and transformation of trichloroethylene by edible garden plants. Water Research 31(4):816-824, 1997
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。トリクロロエチレン(TCE)の毒性やヒトに与える影響などについてはすでに十分ご存知だと思いますので、ご質問のテーマに限って説明いたします。なお、もしもTCE全般のことを更に知りたいとお思いでしたら、英語ですが、「Trichloroethylene (TCE) Fact Sheet」というCalifornia Department of Public Healthが出している解説が詳しくかつ、易しくかかれています。Webで「」を検索して見てください。
さて、TCEが植物体内にどの程度取り込まれ、取り込まれた結果どうなるのかということは植物によっても異なるかもしれませんし、生育の条件などの違いの影響があるかもしれません。一般論としてではなく、二つの研究報告を紹介して、それに基づく私の見解を申し上げることにします。
一つは雑種ポプラの木を使った実験(*)です。Hybrid popularを温室で1時間から29週間のあいだTCEに曝露させると、TCEは地上組織に取り込まれ、TCE はそこでトリクロロ酢酸、ディクロロ酢酸、ディクロロエタノールに分解された。その期間中のTCEの茎への蓄積は見られなかった。したがって、成長と共に長くなった茎のTCE濃度は低くなった。トリクロロ酢酸の量は増加した。茎中に蓄積された分解物がどうなるかは不明である。
もう一つはニンジン、ホウレンソウ、トマトを使った実験(**)で、かなり厳密に分析しています。ニンジン、ホウレンソウ、トマトを連続気流のバイオレアクター(生化学反応装置)で育て、C14で標識した2つのレベル(560μg/lと160μg/l)の放射性TCEと非放射性TCEの混合物を含む培養液で31日〜160日に亘って規則的に灌水した。それぞれの植物の各組織中とバイオレアクター中の放射能(C14)を測定した。放射能の回収率は低レベル投与で50%、高レベルの投与で70%。その内5~24%は土壌に吸収され、植物組織中には比較的少なくて、1~2%程度だった。しかし、植物の可食部だけを見ると周囲の土壌よりは多かった。回収されたC14のほとんどは(74~94%)Orbo tubes (ガス、蒸気の捕集装置)で捕集されていた。
もし、植物体を完全に燃焼して、残渣から検出される放射能が全てTCEだと仮定すれば、可食部のTCE の濃度は、低レベル投与のトマトで152ppb(part per billion:10億分率)、高レベル投与のホウレンソウで580ppbとなる。しかし、分析の結果TCEもこれまでに報告されている分解物(代謝化合物)も検出されなかった。さらに、C14標識物質は有機・無機の溶媒でも抽出されなかった。著者らは以上の結果から、TCE は植物体に吸収され、代謝(分解)され、植物組織に結合されるが、結合して残った代謝物はTCEより毒性は少ないと信じられている。
以上に紹介した研究報告に基づくと、「TCEは野菜や果樹や根菜類にある程度吸収されるが、そのままでは蓄積されない。しかし、体内で他の物質に変わり、植物の組織に結合して残存する。転換した物質は毒性はあるかもしれないが、TCEに比べれば弱い。」というのが私の見解です。
* Lucas Odom, Joel Burken and Lee Newman Distribution and accumulation of Trichloroethylen and trichloroacetic acid in Hybrid populars.e J. Environmental Engineering 139(9) 2013.
** William E. Schnabel et al. Uptake and transformation of trichloroethylene by edible garden plants. Water Research 31(4):816-824, 1997
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-11-19