一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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みかんの種

質問者:   その他   たきの
登録番号6051   登録日:2024-11-13
みかんを食べていた時、ふと、種が一つしか入っていないみかん(A)と、たくさん入っているみかん(B)では、どちらのみかんの種を植えた場合に、丈夫なみかんが育つのだろうかと気になりました。Aだと、そのたった一つの種に、栄養分が集中して詰まっているように思え、またBだと、種がたくさんできるくらいだから、もともとのみかんが丈夫だったに違いない、と思えたりします。
どうぞよろしくお願いいたします。
たきの様

色々調べていて、回答が遅れてしまいました。申し訳ありません。興味深い質問ありがとうございました。一定の栄養条件では、種子を増やせば一つ一つの種子は小さくなり、種子を充実させれば種子の数は減るというトレードオフの関係にあるので、最初はこの視点から考えてみたのですが、みかんの研究を専門にされている先生にうかがったところ、色々と特殊な事情があることが分かりました。私の質問に丁寧に答えてくださった、農業・食品産業技術総合研究機構果樹茶業研究部門の島田武彦先生、後藤新悟先生に感謝申し上げます。

代表的なみかんの品種であるウンシュウミカンは、もとから雄性不稔性かつ雌性不稔性という性質をもちほとんど種子ができません。しかしながら、雌性不稔性が不完全なため、周囲にあった他品種の花粉が受粉し種子ができてしまうことがまれにあるそうです。また、このようにしてできた種子は、うまく発育しない場合もあるが、正常な種子と遜色の無い充実した種子ができることもあるそうです。たきの様が目にしたのはそのような種子かと思われます。そして、このようにしてできた種子は、その数に関わらずそれぞれが正常に発芽、生育するということです。おそらく、ウンシュウミカンの実には充実した種子を複数作り出す「余裕」があるのだと思います。

さて、蛇足になりますが、先生方とのやり取りで、「多胚性」という面白い性質を教えていただいたので紹介します。ウンシュウミカン、スイートオレンジ、ポンカンなどのカンキツ類では、通常の受粉をへた受精卵に由来する胚(交雑胚)が一つできるのに加えて、非常に不思議なことですが、胚珠(受精卵を包む構造)を構成する母親の細胞からも複数の胚(珠心胚)が発生し、結果として一つの種子に複数の胚が付くそうで、このような性質を「多胚性」といいます。

多胚性のみかんの種子を発芽させると、一つの種子から複数の芽が出ますが、交雑胚から出る芽は一つで残りは全て珠心胚由来となります。珠心胚は母親の細胞に由来するので、そこから育った芽は母親のクローンです。通常、交雑胚に由来する芽よりも珠心胚由来の芽の方が生育が良いため、たきの様が見つけた種子をまいた場合、そこから育つみかんは母親のクローンになる可能性が高いです。この性質は、交雑により品種を改良しようとする場合に大きな障害となります。

 みかんの種子についてうかがった話をもう一つ紹介します。ウンシュウミカンをはじめとする多くのカンキツ品種のゲノムはヘテロ性が高いそうです。これは、これらの品種が「純系」ではなく「雑種」であることを意味します。したがって、もしこれらの品種を自家受粉できるようにしたとしても、その種子からできる苗木は親とは異なる性質になってしまいます。それでは、どのようにしてみかんの木を増やしているのでしょうか。上に述べた多胚性を利用すれば珠心胚からクローンを育てることも可能ですが、みかんを種子から育てるのは大変なので、育てやすいカラタチなどを台木とする接ぎ木で増やすことが多いようです。
長谷 あきら(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-18