質問者:
一般
rin0709
登録番号6052
登録日:2024-11-15
祖母が産まれた時に植樹されたお寺のイチョウ(樹齢は約100年)は黄色に紅葉せずに毎年緑の葉(黄緑)のまま落葉します。他の質問にあったような日当たりは駐車場の真ん中にあるので問題はありません。西側にお寺の本堂があり、お寺から3キロほど西側には標高3000mほどの山があります。みんなのひろば
緑の葉で落葉するイチョウ
数年前に5メートルより下の枝は伐採してもらい風通しも良いです。
住職さんと檀家の人達も近くのイチョウは黄色に紅葉してるのに土が違うのかね。と、話しています。駐車場は舗装されていてイチョウの木の周辺1メートルほどは土が見えています。
山からの風が強いのか代替わりした今の住職さんが不思議に思っています。
今までの質問からハッキリとした原因はわからないかもしれませんが標高の高い山から吹く風が要因でしょうか。
rin0709 様
植物Q&Aに質問をおよせいただき有難うございます。 さらに、落ち葉の写真や現場の所在地の情報をいただきましたが、結局私にはわかりませんでした。これまで調べたことや考えたことを「一般論」として整理してみます。
インターネットで調べると緑色のまま落葉するイチョウについての記事がありました。
法量のイチョウ、3年ぶりに黄葉ならず/十和田
<https://www.navitabi.jp/article/1968>
2019年の記事です。これを読むと、黄色に色づく前に厳しい気象条件になると落葉するようですね。
一方、園芸店のネット(複数)には、土壌の栄養条件がよいと(特に窒素栄養がよいと)、緑が残りやすいと書いてあります。
緑のまま落ちた落葉の縁が茶色に変色していると、葉焼けやストレスが考えられますが、お送りいただいた写真や岩手県という土地柄からはそうは判断できません。「特に窒素栄養がよい場所に生えていて、黄葉が遅れる傾向がある。落葉のための離層が作られ、寒波や強風の際に落葉する。」というのが私の推理でしたが、これも違うようです。緑の濃さも通常のイチョウと違わないと思います。
一件、街灯の影響を指摘した記事を見つけました。前回、駐車場に街灯があるかどうかは質問しませんでした。街灯の影響があるかもしれませんね。岡山理科大元学長 波田善夫先生のHPです。
https://www1.ous.ac.jp/garden/hada/thema/redleaves/sunlight/sunlight.htm
一般論として、落葉樹は落葉前に植物にとって貴重な資源(たとえば窒素やリン)を回収します。紅葉は、葉が余った糖(炭素は光合成によって固定できるのでそれほど貴重ではない)を活用してアントシアニンを作り、回収作業に必要な遺伝子発現やタンパク質合成過程および回収作業そのものを紫外線から守るためであると解釈できます。葉緑体の光合成系がなるべく落葉直前までエネルギー源として機能するためには、アントシアニンによる保護が有効かもしれません(アントシアニンの機能については諸説があり、まだ確定しません)。イチョウは赤色のアントシアニン系の色素は作りませんが、光合成系のタンパク質などを分解して、植物にとって貴重な窒素をアミノ酸として回収するという点では一般の落葉樹と同じです。緑色の色素クロロフィルは、タンパク質に挟み込まれて存在します。そのタンパク質が分解され、クロロフィルも分解され、植物にとってあまり貴重でない炭素骨格の黄色の色素カロチノイドが残るから黄色に見えるのです。
植物としては、秋まで十分に光合成をして稼いだ上で葉緑体を分解し窒素を吸収するのが有利でしょう。しかし、あまり遅くまで光合成をしていると、霜害などで葉が傷んでしまい大切な窒素資源の回収もできなくなります。安全なやり方としては、霜がおりないような時期に日長(正確には夜の長さ)により冬の到来を察知し、窒素の回収を始めることです。温度の低下に頼っているとたまたま起こる早い霜にやられかねません。しかし、イチョウの黄葉が温度と日長(夜長)のどちらに依存しているのかを調べた研究は、私が探した限りでは(上記の街灯の指摘を除けば)見つけることができませんでした。
ポプラの仲間は日長(夜長)を利用しています。ですから、各地からポプラの品種を集めて一か所に植えると、個体によって黄色になる時期が異なります。もし、おばあさんの誕生記念がポプラだとして、岩手ではなく、日長の異なる場所から持って来たものであれば、質問者の見られた現象は十分にあり得ることです。岩手の日長が短く(夜が長く)なっても、まだまだ大丈夫、緑色という反応を示すとなれば、岩手よりも北から持ってきた品種だということになるでしょう。
戦後、北海道でも稲作が盛んになりました。寒さへの抵抗性が増したためだと思わるかもしれませんが、北の夏の長い昼間(短い夜)に対応して開花する品種の選抜が必要だったのです。東京大学井澤毅先生のHPより。
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/pr-yayoi/66yh.pdf
植物Q&Aに質問をおよせいただき有難うございます。 さらに、落ち葉の写真や現場の所在地の情報をいただきましたが、結局私にはわかりませんでした。これまで調べたことや考えたことを「一般論」として整理してみます。
インターネットで調べると緑色のまま落葉するイチョウについての記事がありました。
法量のイチョウ、3年ぶりに黄葉ならず/十和田
<https://www.navitabi.jp/article/1968>
2019年の記事です。これを読むと、黄色に色づく前に厳しい気象条件になると落葉するようですね。
一方、園芸店のネット(複数)には、土壌の栄養条件がよいと(特に窒素栄養がよいと)、緑が残りやすいと書いてあります。
緑のまま落ちた落葉の縁が茶色に変色していると、葉焼けやストレスが考えられますが、お送りいただいた写真や岩手県という土地柄からはそうは判断できません。「特に窒素栄養がよい場所に生えていて、黄葉が遅れる傾向がある。落葉のための離層が作られ、寒波や強風の際に落葉する。」というのが私の推理でしたが、これも違うようです。緑の濃さも通常のイチョウと違わないと思います。
一件、街灯の影響を指摘した記事を見つけました。前回、駐車場に街灯があるかどうかは質問しませんでした。街灯の影響があるかもしれませんね。岡山理科大元学長 波田善夫先生のHPです。
https://www1.ous.ac.jp/garden/hada/thema/redleaves/sunlight/sunlight.htm
一般論として、落葉樹は落葉前に植物にとって貴重な資源(たとえば窒素やリン)を回収します。紅葉は、葉が余った糖(炭素は光合成によって固定できるのでそれほど貴重ではない)を活用してアントシアニンを作り、回収作業に必要な遺伝子発現やタンパク質合成過程および回収作業そのものを紫外線から守るためであると解釈できます。葉緑体の光合成系がなるべく落葉直前までエネルギー源として機能するためには、アントシアニンによる保護が有効かもしれません(アントシアニンの機能については諸説があり、まだ確定しません)。イチョウは赤色のアントシアニン系の色素は作りませんが、光合成系のタンパク質などを分解して、植物にとって貴重な窒素をアミノ酸として回収するという点では一般の落葉樹と同じです。緑色の色素クロロフィルは、タンパク質に挟み込まれて存在します。そのタンパク質が分解され、クロロフィルも分解され、植物にとってあまり貴重でない炭素骨格の黄色の色素カロチノイドが残るから黄色に見えるのです。
植物としては、秋まで十分に光合成をして稼いだ上で葉緑体を分解し窒素を吸収するのが有利でしょう。しかし、あまり遅くまで光合成をしていると、霜害などで葉が傷んでしまい大切な窒素資源の回収もできなくなります。安全なやり方としては、霜がおりないような時期に日長(正確には夜の長さ)により冬の到来を察知し、窒素の回収を始めることです。温度の低下に頼っているとたまたま起こる早い霜にやられかねません。しかし、イチョウの黄葉が温度と日長(夜長)のどちらに依存しているのかを調べた研究は、私が探した限りでは(上記の街灯の指摘を除けば)見つけることができませんでした。
ポプラの仲間は日長(夜長)を利用しています。ですから、各地からポプラの品種を集めて一か所に植えると、個体によって黄色になる時期が異なります。もし、おばあさんの誕生記念がポプラだとして、岩手ではなく、日長の異なる場所から持って来たものであれば、質問者の見られた現象は十分にあり得ることです。岩手の日長が短く(夜が長く)なっても、まだまだ大丈夫、緑色という反応を示すとなれば、岩手よりも北から持ってきた品種だということになるでしょう。
戦後、北海道でも稲作が盛んになりました。寒さへの抵抗性が増したためだと思わるかもしれませんが、北の夏の長い昼間(短い夜)に対応して開花する品種の選抜が必要だったのです。東京大学井澤毅先生のHPより。
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/pr-yayoi/66yh.pdf
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-26