一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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イチョウの葉一枚の黃葉の仕方について

質問者:   高校生   ゆかいなかしまかがくぶ
登録番号6058   登録日:2024-12-05
イチョウの黃葉を見ていたら、葉の全体が徐々に黃葉するのではなく、葉の一部が黃葉し、その周りから徐々に黄色くなっていく様子を観察しました。
なぜ、そのように、葉の一部から黃葉が広がっていくのか疑問に思っています。
マグネシウム脱離酵素の活性が、葉の部分によって異なるのではないかと考えていますが、どのような仕組みなのか分からないので、教えていただけませんか。
ゆかいなかしまかがくぶさん

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。イチョウの葉が黄色になるのは、葉の端から始まって下方に広がっていくというのが一般的に観察される黄色化進行のパターンの様ですが、実際にはバリエーションがあるようです。本コーナー登録番号6039を読んでください。
 黄色になるのはクロロフィルが分解し、緑色が失われて、もともと内在しているカロチノイドが目立つ様になるからです。したがって、黄色になるところでは、クロロフィルの分解が始まっていることになります。
 普通に葉が老化する時には、クロロフィル(a)の分解の初期反応は、まずMgが脱離してフォエオフィチン(a)になり、続いて酵素フェオフィチナーゼによってフィトールとフェオホルビド(a)に加水分解される経路を経ると考えられています。しかし、この経路におけるMg脱離のメカニズは不明です。
 もう一つの初期分解経路は、まずはじめに酵素クロロフィラーゼの働きでフィチル基が加水分解されて、クロロフィリド(a)とフィトールができます。クロロフィリド(a)からは低分子金属(Mg)脱離酵素によってMgが離脱して、フェオホルビド(a)を生じます。クロロフィラーゼが作られるのは植物ホルモンのエチレンによって誘導される老化や植物病原菌(Pseudomonas syringae)が作る毒素コロナチン(気孔を開かせる)感染によるので、クロロフィラーゼは果実の成熟や植物病原菌の感染に関係していると考えられています。
 イチョウの葉におけるクロロフィルの分解にMgの脱離が関わっていることは間違いないでしょうが、Mg脱離酵素が関係しているかどうかはわかりません。いずれにしろ葉の部分によってクロロフィル分解の速度が異なるということは、分解反応活性に差があることになりますが、その原因についてははっきりと実証された研究報告はありません。上述の登録番号6039を参考にしてください。
 なおクロロフィルの分解については「日本光合成学会」の事典を奨めます。クロロフィルの分解で検索するとあります。

クロロフィルの分解[chlorophyll degradation]
https://photosyn.jp/pwiki/?%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%88%86%E8%A7%A3
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-11