質問者:
教員
RuBP
登録番号6062
登録日:2024-12-11
こんにちは。はじめて質問させていただきます。カルビン回路における二酸化炭素濃度切り替え実験のグラフの解釈について
高校の教員です。代謝については、私自身苦手です。しかし、光合成を含む代謝の分野の授業では、ただ覚えるのではなく、できるだけ考えて納得して学習を進められるようにしたいと考えています。
高校生の使う資料集などでは、カルビン回路についての学習で、外的条件を変化させてRuBPとPGAの物質量の変化を表したグラフが掲載されています。そのうち、二酸化炭素濃度を変化させた場合のグラフについて、説明がうまくできず、悩んでいます。
資料集などに掲載されているグラフでは、明条件で二酸化炭素濃度1.0%の時には、物質量比で RuBP:PGA=1:2となっており、ここで二酸化炭素濃度を0.003%に変えると、RuBPが増加、PGAが減少して およその物質量比で RuBP:PGA=2:1になっています。
二酸化炭素濃度を切り替えた直後から、RuBPが増加、PGAが減少するのは、二酸化炭素の不足により、RuBPは消費が進まないために増加、PGAは合成されないため減少と解釈しています。この解釈で正しいでしょうか。
その後、RuBPが減少し、PGAの減少が止まり、物質量が一定で推移することについては、うまく説明できません。特に、RuBP:PGA=2:1 と 条件変更前とは逆転したまま維持されることが
不思議に感じます。
この実験での測定がどのような条件で行われているのかがわかりませんが、二酸化炭素濃度変更前にRuBP:PGA=1:2になっているのは、6分子のRuBPから12分子のPGAが生じるためであると考えると納得しやすいと考えています。この解釈自体が間違っているのかもしれませんが、もしこれが正しいとすると、二酸化炭素濃度変更後は RuBP:PGA=2:1からだんだんRuBPが減少、PGAが増加するように考えられないでしょうか。
的外れな質問かもしれませんが、ご回答をよろしくお願いいたします。
RuBP 様
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
資料集に掲載されているグラフに関する質問者の解釈には修正が必要です。
資料集に出ているグラフは、光合成の炭素同化系の経路を明らかにしようとした実験の結果を読者に解説しようとしたものです。
20世紀前半までは、光合成で、二酸化炭素がどのような経路で有機化合物に変換されるかを解明することが大きな課題でしたが、植物に光を当てると、澱粉や糖分が蓄積することは知られていましたが、それ以上の詳しい反応経路は不明でした。
この課題の解明に大きな貢献をしたのが米国のM. Calvinのグループで、彼らは、光合成微生物細胞内の炭素化合物の動態を放射性炭素の同位体を用いて調べ、炭素同化経路を明らかにしました(1950年発表、この貢献により、後に、Calvinはノーベル化学賞を受賞)。この研究が成功した要点は次のようにまとめられましょう:(1)放射性炭素の同位体を利用し、実験環境を変えた時の炭素化合物の生体内濃度の時間的変動を詳細に調べる、(2)炭素化合物の細胞内における変動の追跡に、微量な物質を分離・同定できるペーパークロマトグラフ法を用いる、3)実験微生物として単細胞光合成生物の(クラミドモナス)を利用(陸上植物では、光合成産物が、葉や種子などのどこに蓄積するかに関心が注がれがちだが、単細胞藻類では、これを無視できる)。
「資料集」に示されているグラフの質問者の解釈には問題があります。
1)[資料集などに掲載されているグラフでは、明条件で二酸化炭素濃度1.0%の時には、物質量比でRuBP:PGA=1:2となっており、ここで二酸化炭素濃度を0.003%に変えると、RuBPが増加、PGAが減少して およその物質量比で RuBP:PGA=2:1になっています。]に関して
答: 資料集に例示された結果の解釈が、誤っています。RuBPやPGAの生体内濃度の変動の、明暗や二酸化炭素濃度などの体内濃差に及ぼす影響は、両者がどのように変動したかが問題であり、両者のその比率の数値自体に注目しているわけではありません。したがって、資料集で、両者の比の値が低い値の1:2から高い値の2:1になったという結果は、両者の比の値が数値としてどのように変化したかを示そうとしたものではなく、単に、一例として、比の値がこのように変化したという実験結果を示しているにすぎません。
繰り返しになりますが、資料集に示された結果は、二酸化炭素濃度が高いと、体内のRuBP濃度およびPGA濃度があるレベルを保っているが、二酸化炭素濃度を低くすると、RuBPは消費速度が瞬間的に低くなるので生体内レベルが瞬間的に上がる。即ち、生成と消費のバランスの変動の結果から、RuBPが反応の原料であり、PGAが反応の産物であることを示しています。両者の量比の数値を問題にしているのではなく、二酸化炭素濃度を変えた時のそれぞれの量比が、時間的にどのように経過したかを例示しているだけです。
2)「資料集などに掲載されているグラフでは、明条件で二酸化炭素濃度1.0%の時には、物質量比で RuBP:PGA=1:2となっており、ここで二酸化炭素濃度を0.003%に変えると、RuBPが増加、PGAが減少して およその物質量比で RuBP:PGA=2:1になっています。」
答:前述のように、比率の数値自体は、ここでは意味がなく、たまたま説明に使った値が、読者に紛らわしい印象を与えているだけです。
みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。質問を歓迎します。
資料集に掲載されているグラフに関する質問者の解釈には修正が必要です。
資料集に出ているグラフは、光合成の炭素同化系の経路を明らかにしようとした実験の結果を読者に解説しようとしたものです。
20世紀前半までは、光合成で、二酸化炭素がどのような経路で有機化合物に変換されるかを解明することが大きな課題でしたが、植物に光を当てると、澱粉や糖分が蓄積することは知られていましたが、それ以上の詳しい反応経路は不明でした。
この課題の解明に大きな貢献をしたのが米国のM. Calvinのグループで、彼らは、光合成微生物細胞内の炭素化合物の動態を放射性炭素の同位体を用いて調べ、炭素同化経路を明らかにしました(1950年発表、この貢献により、後に、Calvinはノーベル化学賞を受賞)。この研究が成功した要点は次のようにまとめられましょう:(1)放射性炭素の同位体を利用し、実験環境を変えた時の炭素化合物の生体内濃度の時間的変動を詳細に調べる、(2)炭素化合物の細胞内における変動の追跡に、微量な物質を分離・同定できるペーパークロマトグラフ法を用いる、3)実験微生物として単細胞光合成生物の(クラミドモナス)を利用(陸上植物では、光合成産物が、葉や種子などのどこに蓄積するかに関心が注がれがちだが、単細胞藻類では、これを無視できる)。
「資料集」に示されているグラフの質問者の解釈には問題があります。
1)[資料集などに掲載されているグラフでは、明条件で二酸化炭素濃度1.0%の時には、物質量比でRuBP:PGA=1:2となっており、ここで二酸化炭素濃度を0.003%に変えると、RuBPが増加、PGAが減少して およその物質量比で RuBP:PGA=2:1になっています。]に関して
答: 資料集に例示された結果の解釈が、誤っています。RuBPやPGAの生体内濃度の変動の、明暗や二酸化炭素濃度などの体内濃差に及ぼす影響は、両者がどのように変動したかが問題であり、両者のその比率の数値自体に注目しているわけではありません。したがって、資料集で、両者の比の値が低い値の1:2から高い値の2:1になったという結果は、両者の比の値が数値としてどのように変化したかを示そうとしたものではなく、単に、一例として、比の値がこのように変化したという実験結果を示しているにすぎません。
繰り返しになりますが、資料集に示された結果は、二酸化炭素濃度が高いと、体内のRuBP濃度およびPGA濃度があるレベルを保っているが、二酸化炭素濃度を低くすると、RuBPは消費速度が瞬間的に低くなるので生体内レベルが瞬間的に上がる。即ち、生成と消費のバランスの変動の結果から、RuBPが反応の原料であり、PGAが反応の産物であることを示しています。両者の量比の数値を問題にしているのではなく、二酸化炭素濃度を変えた時のそれぞれの量比が、時間的にどのように経過したかを例示しているだけです。
2)「資料集などに掲載されているグラフでは、明条件で二酸化炭素濃度1.0%の時には、物質量比で RuBP:PGA=1:2となっており、ここで二酸化炭素濃度を0.003%に変えると、RuBPが増加、PGAが減少して およその物質量比で RuBP:PGA=2:1になっています。」
答:前述のように、比率の数値自体は、ここでは意味がなく、たまたま説明に使った値が、読者に紛らわしい印象を与えているだけです。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-01-15