質問者:
会社員
トラ太朗
登録番号6063
登録日:2024-12-17
私はアジサイやアナベルを育てていますが、植え付け1年目は葉に黒斑や褐斑状の病気が出て葉が落ちてしまうことがよくあります。(原因は糸状菌やバクテリアなど様々だと思っています)みんなのひろば
成熟したアジサイに病気が出にくくなるのはなぜ?
ただ2年目以降は特に薬を与えなくても病気が出にくくなる事象を感じています。
バックナンバーで植物には動物のような免疫細胞を使った免疫システムはなく自然免疫によって病害から身を守っていると拝見しましたが、植物体の成熟具合によってこの自然免疫の力は効果を増したりするのでしょうか。
動物であれば免疫細胞の獲得や生産量増など経験や時間経過がもたらす免疫力の増大は理解できますが、植物の自然免疫は時間経過では増大しないのではないかと不思議に思ったのでご質問させて頂きました。
自然免疫以外にも植物体を守る構造があればぜひ知りたいです。
よろしくお願いします。
トラ太朗 様
回答が遅れてしまい申し訳ありません。私の専門からは少し外れるので、長年にわたり植物の病理や抵抗性について専門に研究されている二人の先生に回答をお願いしました。まずは病原菌感染をご専門とする東京農工大学農学研究院の有江力先生です。
【有江先生の回答(一部省略)】
植物の生育に伴って病気が感染しやすかったり、しにくくなることがあります。これは、病原が植物の開口部(根毛の出るところの傷や気孔)から感染したり、さまざまな植物―病原の相互作用が関わるからです。葉が成熟して表面が固くなるあるいはクチクラやワックスが強固になることで病原が感染しにくくなることも想定されます。
ご質問の、「植え付け1年目は葉に黒斑や褐斑状の病気が出て葉が落ちてしまう。原因は糸状菌やバクテリアなど様々だと思っています」については、私はアジサイの観察をしたことがありませんが、トマト萎凋病菌もトマトがある程度若い期間(概ね植物の高さが1m程度まで)に感染しやすい性質を持ちます。ただしトマト萎凋病菌も感染しやすい季節がありますので単に植物の成熟度合いで説明できるかは確実ではありません。
また、菌や細菌が二次的に感染(本当の要因は植物の栄養状況などで、葉が黄化したところに菌や細菌がついたもの)する可能性も捨てずに観察することが重要だと思います。この場合は、上に書いた植物-病原の相互作用が正常でない、すなわち、植物が本来持っている防御能を発揮し切れていないことも考えられます。
次は、植物の免疫の仕組みについて研究されている理化学研究所環境資源化学研究センターの白須賢先生の回答です。
【白須先生の回答】
このような現象は、Adult-Plant Resistance (APR)として知られていますが、そのメカニズムはまだよくわかっていません。例えば小麦のAPR遺伝子ととしては、成熟するにつれて発現する免疫受容体様タンパク質をコードするものや、ABCトランポーターをコードするものが同定されています。成長するにつれ病原体を認識できるようになるか、病原体に効くような化学物質を分泌できるようになるのかもしれません。免疫受容体の発現は成長を阻害することも知られているので、若い植物は成長を優先して、免疫受容体の発現を抑えているのかもしれません。自然免疫以外の植物を守る構造としては、物理的な壁となるクチクラ層等があります。またウイルスに対して、RNAiのような配列特異的な免疫システムもあります。
以上、私なりにまとめますと、狭い意味での「免疫」機能(受容体による病原体の認識と抵抗物質の合成・分泌など)や、それ意外の要因(例えばクチクラ層の厚さや植物の栄養状態など)が変化することで、成熟に伴い病害抵抗性が高まることは大いにあり得るのだ思います。ただし、アジサイでは詳しい研究が行われていないので、原因を特定することは現時点では難しいかと思います。あまりはっきりした回答ができず申し訳ありません。
回答が遅れてしまい申し訳ありません。私の専門からは少し外れるので、長年にわたり植物の病理や抵抗性について専門に研究されている二人の先生に回答をお願いしました。まずは病原菌感染をご専門とする東京農工大学農学研究院の有江力先生です。
【有江先生の回答(一部省略)】
植物の生育に伴って病気が感染しやすかったり、しにくくなることがあります。これは、病原が植物の開口部(根毛の出るところの傷や気孔)から感染したり、さまざまな植物―病原の相互作用が関わるからです。葉が成熟して表面が固くなるあるいはクチクラやワックスが強固になることで病原が感染しにくくなることも想定されます。
ご質問の、「植え付け1年目は葉に黒斑や褐斑状の病気が出て葉が落ちてしまう。原因は糸状菌やバクテリアなど様々だと思っています」については、私はアジサイの観察をしたことがありませんが、トマト萎凋病菌もトマトがある程度若い期間(概ね植物の高さが1m程度まで)に感染しやすい性質を持ちます。ただしトマト萎凋病菌も感染しやすい季節がありますので単に植物の成熟度合いで説明できるかは確実ではありません。
また、菌や細菌が二次的に感染(本当の要因は植物の栄養状況などで、葉が黄化したところに菌や細菌がついたもの)する可能性も捨てずに観察することが重要だと思います。この場合は、上に書いた植物-病原の相互作用が正常でない、すなわち、植物が本来持っている防御能を発揮し切れていないことも考えられます。
次は、植物の免疫の仕組みについて研究されている理化学研究所環境資源化学研究センターの白須賢先生の回答です。
【白須先生の回答】
このような現象は、Adult-Plant Resistance (APR)として知られていますが、そのメカニズムはまだよくわかっていません。例えば小麦のAPR遺伝子ととしては、成熟するにつれて発現する免疫受容体様タンパク質をコードするものや、ABCトランポーターをコードするものが同定されています。成長するにつれ病原体を認識できるようになるか、病原体に効くような化学物質を分泌できるようになるのかもしれません。免疫受容体の発現は成長を阻害することも知られているので、若い植物は成長を優先して、免疫受容体の発現を抑えているのかもしれません。自然免疫以外の植物を守る構造としては、物理的な壁となるクチクラ層等があります。またウイルスに対して、RNAiのような配列特異的な免疫システムもあります。
以上、私なりにまとめますと、狭い意味での「免疫」機能(受容体による病原体の認識と抵抗物質の合成・分泌など)や、それ意外の要因(例えばクチクラ層の厚さや植物の栄養状態など)が変化することで、成熟に伴い病害抵抗性が高まることは大いにあり得るのだ思います。ただし、アジサイでは詳しい研究が行われていないので、原因を特定することは現時点では難しいかと思います。あまりはっきりした回答ができず申し訳ありません。
有江 力/白須 賢(東京農工大学農学研究院/理化学研究所環境資源化学研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
長谷 あきら
回答日:2025-01-15
長谷 あきら
回答日:2025-01-15