一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ハクモクレンの冬芽はなぜ脱ぐのですか

質問者:   一般   りんご
登録番号6068   登録日:2024-12-20
今頃(11月~12月)になると、ハクモクレンの木の下に、たくさん冬芽の皮が落ちています 木についている冬芽と同じように、外側はふかふかの毛です ネットで見ると3枚着てると書いてありました
*冬芽が成長してきて、窮屈になるから脱ぐ
*はじめは厳重に守るが、成長してくるうち、そんなに厳重にしなくてもよくなるから捨てる
などと考えてみましたがわかりません
この冬芽は1枚でくるんであるみたい(托葉だそうです)なので、これと関係あるのでしょうか 
1枚目も2枚目も同じ性能なのでしょうか
他にも何枚も着てる冬芽はありますか

りんご様

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ハクモクレンの冬芽はなぜ脱ぐのですか」にお答えします。

本Q&Aコーナーの登録番号4949(冬芽について)で取り上げられていますように、多くの樹木の冬芽は芽鱗とよばれる鱗片葉で覆われています。ハクモクレンの木の下にたくさん落ちている冬芽の皮とは芽鱗のことかと思います。登録番号4949に詳しく説明されていますように、芽鱗は葉身、葉柄、托葉など葉のさまざまな部分が鱗片状に変化したもので、内部の芽を低温や乾燥から保護しています。
ハクモクレンの芽鱗は托葉2枚と葉柄が合着したものだとされています。ハクモクレンの木の下に落ちている皮(芽鱗と思われるもの)を観察してみると、一つの棒状のものを挟んで2枚の葉状のものがくっついて出来ています。稀に1枚の枯葉がそっくり2枚の葉状のものにくっついているものもありますので、棒状のものは葉柄で、葉状のものは葉の基部近くに出来る托葉のようです。このことから、この「皮」は托葉2枚と葉柄から成る芽鱗だと思われます。しかし、芽鱗の役割が芽を低温から保護することであるならば、冬を前にして落ちてしまうのは不思議です。
ハクモクレンの蕾は毛皮状の大型の苞で包まれているとする資料もあります。この毛皮状の大型の苞を芽鱗とは呼んでいませんが、冬芽の保護をする構造物のように思われます。ハクモクレンの樹上に残っている冬芽に目を向けてみますと、その外側は長い毛で密に覆われています。これは蕾を包む毛皮状の大型の苞と言われたもののように見えます。これは春に開花するまで落ちることがないので、冬の間に保護の役割を果たすもののように思われます。しかし、鱗片状に変化したものではないので芽鱗の範疇には入れられないのかもしれません。
さて、ご質問の要点は、ハクモクレンの冬芽の皮(托葉2枚と葉柄から成る方の芽鱗)が今頃(11月~12月)落ちるのは何故かということだろうと思います。「窮屈になるから脱ぐ、厳重に守らなくてもよくなるから捨てる」という仮説は興味深いですが、擬人的なので何とも言えません。芽が生長を再開して大きくなれば、芽鱗は押し出されて脱落するでしょうし、冬が終われば保護の役割を終わった芽鱗は脱落しても差支えは無い、とは言えます。ただし、これらは春になってからの話であって、冬の間または前に脱落する現象の説明にはなりません。冬芽保護の役割は長い毛が密生した毛皮状の大型の苞が果たしているようです。そうであるならば、托葉2枚と葉柄から成る方の芽鱗は早期に脱落しても生存に不都合は無いわけです。しかし、そのようなものの存在の生物学的意義は分かりません。
ハクモクレンの芽鱗に関する詳しい情報を得ることができませんでしたので、私見を述べさせていただきました。植物の世界はまだまだ分からないことで満ちています。
なお、冬芽の芽鱗の数は登録番号4949に紹介されているように、植物種によって様々で、1枚のものから40枚もあるものまであるそうです。何十枚もあるものは葉や苞が変化したものであろうと思います。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-30