質問者:
会社員
羊
登録番号6069
登録日:2024-12-20
お忙しいところを恐れ入ります。気になって調べてみたのですが俗説しか見つけられなかったので質問させてください。転流について 成熟果実もソースとなるのか(朝採りの有効性について)
いちご狩りについて調べていたところ、「日が昇り光合成が始まると、夜のうちに実に集まっていた糖分などがまた葉の方に移動してしまうため、実の甘味が落ちる。午前の早いうちのいちご狩りが甘くて良い」といった記述に出会い、疑念を持っています。
折角果実に転流したのに、光合成のためにまた毎日毎日、葉に栄養を戻すものでしょうか(栄養状態はさほど悪くないと思われるのに)?
必要分を葉付近にストックして、余剰分をシンクに送る形が取れれば無駄がないように思うのですが、そうはいかないのでしょうか。
(登録番号3531 朝採り野菜の糖度について も大変興味深く拝読いたしました。こちらはトウモロコシについての論文でしたが、転流より品温と鮮度が肝であるように思いました。)
実際の転流の機序が不明でも、イチゴの糖度の朝と夜との測定記録があれば真偽に迫れるかと思いましたが調べることができませんでした。
お時間が取れます時に助けていただけましたら幸いです。
羊 様
本コーナーへの質問、ありがとうございました。
イチゴ狩りの記述は、私も大いに疑問を感じます。イチゴの甘さは、本コーナーの登録番号3008にも記述されていますように、基本は糖度と酸味で決まります。糖度は、しょ糖ですが、羊さまがご指摘のように、日中に葉の光合成で生合成されたブドウ糖が、師管を介してシンク組織(ここでは主にイチゴの果実)にしょ糖の形で転流され、夜間はそのまま蓄積します。夜が明けても、シンク組織から葉(ソース組織になります)に逆輸送される事実はこれまでにはなく、ご指摘の記述は間違いではないかと私も考えます。日中は葉では盛んに光合成が行われ、糖やエネルギーが作られますので、シンクから戻す必要は無いはずです。さて、朝取りイチゴが甘い理由を考えて見ますが、果実の器官でも、輸送されてきたしょ糖を材料にして、若い細胞の発達・成熟や色素などの合性が行われるために、結果としてしょ糖の濃度が下がるのではないでしょうか。イチゴのおいしさには酸味(酸味の主成分であるアスコルビン酸は、糖から合成されます)とのバランスが関係しますので、上記の登録番号3008を参考にして下さい。あと、ソースからシンクへの転流については、多くの植物生理学の教科書に書かれていますが、エッセンシャル植物生理学(講談社、2022年)の125ページから132ページに詳しく書かれていますので、参考になさって下さい。
本コーナーへの質問、ありがとうございました。
イチゴ狩りの記述は、私も大いに疑問を感じます。イチゴの甘さは、本コーナーの登録番号3008にも記述されていますように、基本は糖度と酸味で決まります。糖度は、しょ糖ですが、羊さまがご指摘のように、日中に葉の光合成で生合成されたブドウ糖が、師管を介してシンク組織(ここでは主にイチゴの果実)にしょ糖の形で転流され、夜間はそのまま蓄積します。夜が明けても、シンク組織から葉(ソース組織になります)に逆輸送される事実はこれまでにはなく、ご指摘の記述は間違いではないかと私も考えます。日中は葉では盛んに光合成が行われ、糖やエネルギーが作られますので、シンクから戻す必要は無いはずです。さて、朝取りイチゴが甘い理由を考えて見ますが、果実の器官でも、輸送されてきたしょ糖を材料にして、若い細胞の発達・成熟や色素などの合性が行われるために、結果としてしょ糖の濃度が下がるのではないでしょうか。イチゴのおいしさには酸味(酸味の主成分であるアスコルビン酸は、糖から合成されます)とのバランスが関係しますので、上記の登録番号3008を参考にして下さい。あと、ソースからシンクへの転流については、多くの植物生理学の教科書に書かれていますが、エッセンシャル植物生理学(講談社、2022年)の125ページから132ページに詳しく書かれていますので、参考になさって下さい。
山谷 知行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-23