一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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一次遷移初期では多年生草本が、二次遷移初期では一年生草本が多くみられるのはどうしてか。

質問者:   教員   伊藤
登録番号6071   登録日:2024-12-22
 高校の生物基礎の教科書(啓林館)に「一次遷移で最初に定着する草本は多年生草本であるが、二次遷移初期ではシロザなどの一年生草本のほうが多く見られる。」という記述がありました。しかし、生徒から、どうして一次遷移で最初に定着する草本は多年生草本であるが、二次遷移初期では一年生草本のほうが多く見られるのかについて聞かれた際、考えられる要因や理由の記述がなく、どうしてなのか私自身も疑問に思いました。
 二次遷移に関しては、「森林伐採や田畑放棄直後に一年生草本優占群落が成立するのは、以前から植生が存在した段階で土中に埋土種子集団として貯蔵されていたから」という記述を北海道大学の露崎史朗 先生のサイトで見つけたので、「地下茎、根などが枯れずに残り、それが二次遷移の時に生育するためか」と理解できました。しかし、一次遷移で多年生草本が多くみられる理由、要因については納得できる説明が得られませんでした。
 生徒との会話の中で「一次遷移の初期、裸地や荒原では、厳しい条件下で生息できる一年生草本が優先し、一年生植物が一年で結実して枯れていくので、素早く土壌を豊かにしてくれるようなイメージ」となったのですが、実際には多年生草本が多くみられるので、イメージとは真逆のものとなってしまいました。多年生草本が一次遷移で有利な点などがあるのでしょうか。荒原のような環境では、多年生草本の方が生育する力が強いのでしょうか。
 多年生草本と一年生草本の特性に基づいて、一次遷移、二次遷移それぞれの遷移で多く見られる理由、要因を生徒に説明できればと考えています。学会の見解をお聞きしたく、質問させていただきました。よろしくお願いいたします。
伊藤 様

みんなのひろば 「植物Q&A」に質問をお寄せくださり有難うございます。

一次遷移には乾性系列と湿性系列がありますが、火山の噴火の後、溶岩や火山礫に覆われた場所から植生が遷移するような乾性遷移について考えてみましょう。一次遷移の定義は「土壌」のないところからの遷移です。土壌がないので、たとえば無機窒素のような栄養分もないのです。窒素栄養がないと植物は生育できません。火山性の荒原に最初に出てくる植物は、日本ではイタドリなどですが、火山礫の隙間などで発芽後、うんと根を深くはります。そして、雨水に含まれる、雷などの空中放電によって作られる無機窒素栄養を吸収して成長します。1年間成長しても次の年の春の成長のために冬芽を作るのがやっとです。年とともに生存個体数は減りますが、それでも大きくなれたものは、根を深く広くはり、徐々に雨水の栄養を効率よくトラップできるようになり、島状のクローンとなります。こうして、余剰生産がかなりのレベルになると花をつけるようになります。
 貧栄養の砂丘などの植物も同様です。たとえば、秋発芽して夏に花が咲く(と思われている)越年性二年草とよばれるオオマツヨイグサは、ロゼットの状態で数年すごすのが普通です。冬の低温が花成には必要ですが、種子を沢山つくることのできる一定の大きさになるまでは、春化処理も効きませんし抽だいも起こらないのです。したがって越年性二年生ではなく、多年生となります。
 土壌がすでに存在し、栄養塩が豊富な二次遷移の場合には、上に植生が存在していたために休眠していたシロザやエノコログサなどの一年生草本の埋土種子が発芽し、一年間でかなりの光合成生産をあげ、それを生殖成長にまわすことができます。
 生徒さんは、一年生草本に一年できちんと生活史をまわすというしたたかさを感じておられるようですが、それは栄養が十分あって初めてできることです。何年もかける多年生草本の方が「しぶい」のです。

回答:一言でいえば、一次遷移の場合には土壌がなく栄養塩が乏しいから、ということになります。

伊豆大島の一次遷移におけるハチジョウイタドリについては以下をごらんください。
https://izuoshima-geo.org/know/highlights/ecologicalsite/ecosite-1.html

砂丘のオオマツヨイグサについては、可知直毅教授による解説がすぐれています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/47/2/47_KJ00002869415/_article/-char/ja/
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-12-26