質問者:
一般
nocco
登録番号6075
登録日:2025-01-06
最近、世界のお茶を楽しむようになり、品種や、生育環境よる味の違い(成分の違い)に興味を持っています。みんなのひろば
標高の高い山で育つお茶の木について
そこで、「高山茶の葉肉が厚くなる」というお話を聞きました。
理由は、植物の呼吸による消費よりも日中の光合成による蓄えの量が多いこと、気温差が大きく、夜間の呼吸に使用するエネルギーが少なくて済むため、となっていました。
しかし、他の文献で「高山は霧が多く発生し、天候も変わりやすく、直射日光が当たりにくいことから、日照率が低い。」というものもあり、そのため茶葉にテアニンが残りやすく、おまみ成分の残っている茶葉とされていました。
直射日光でよく光合成をして、呼吸で消費も大きい茶葉と、
日照時間の少なく光合成量は少ないが呼吸での消費も少ない茶葉、
イメージをすると、どちらも葉肉に差が出ないように思えたのですが、同品種での葉肉の厚みは一体何に作用されているのか、教えていただきたいです。
よろしくお願いいたします。
nocco 様
みんなのひろば、「植物Q&A」に質問をお寄せくださり有難うございます。
同種の植物でも栽培する光の強さによって、厚い陽葉と薄い陰葉とが分化します。一本の木の中でも明るい場所と暗い場所では葉の厚さや面積が異なります。この陽葉と陰葉に関しては、これまでにも沢山の質問と回答があります。植物Q&Aの検索機能で調べてみてください。
光の強いところでは、厚い葉が形成されます。また、同じ光の強さだと低温で厚い葉、高温で薄い葉がつくられます。植物には光環境センサーとしてはたらく色素タンパク質があります。光の強さそのものも感知できますし、光の波長別の比率から周囲の植物の存在や太陽にどの程度さらされているのかを感じることができます。これらによって光が強い環境であるということを感知し厚い葉をつくるようです。これらの色素タンパク質については登録番号3015をご覧ください。展開中の葉も光強度を感知しますが、その葉よりも前にできた成熟葉の環境やその葉の光合成量も若い葉の光合成機能の決定に重要な役割を果たします(登録番号4839をご覧ください)。植物は、光合成系によっても光の強さを感知することができます。光が弱いと光合成電子伝達系は電子の不足のため酸化的であり、光が強いと電子が余り還元的になります。葉はこの酸化還元レベルを感知するのです。光の条件が同じでも、寒いと最終的にCO2を固定するカルビンサイクルの酵素反応などが遅くなるので、電子伝達系の電子が余り還元的になります。これが明るいところ仕様の葉や葉緑体をつくるシグナルとなっているようです。
寒いと呼吸速度が低いので、光合成によってつくられた糖などが葉に蓄積しやすいので葉が厚くなる、という説明には問題があります。チャを含む常緑樹では、葉が展開し葉の厚さが決まるころまでは、まだあまり光合成をしていないことがわかっています。植物は大切な資源を投入して葉を作ります。大切なものを生合成している最中に紫外線などでDNAやRNAなどが損傷されないように、紫外線を吸収するフラボノイドで身を守ります。茶の新芽がオレンジ色や飴色に見えるのはそのためです(Orange pekoeとよばれる新芽からつくられる紅茶など)。まずきちんと容れ物をつくり、それから葉緑体を充実させ光合成速度が高まるのはそのあとです。この問題については登録番号3780をご覧ください。ほとんど全ての常緑樹の葉の展開時に当てはまります。作物などの一年生草本では、葉の展開終了時に光合成速度は最高値に達しているので、常緑樹とずいぶん違います。
茶の産地は紅茶や烏龍茶などを含めて標高が高く霧のかかりやすい産地が多いようです。宇治の川霧などという和歌もあるほどです。そのような産地の新芽がおいしいお茶となります。また、茶樹を寒冷紗で1~2週間被陰しその期間に出た新芽を摘むことも行われ、これが、かぶせ茶や玉露などの高級茶となります。一煎目は低温で淹れてテアニンなどの甘みと香りを味わい、二煎目は熱い湯で淹れて渋みや苦みを楽しむのは至福ですよね。日当たりが良いところの葉はタンニン成分が増えて渋みが増します。私はこの渋い茶も好きです。
みんなのひろば、「植物Q&A」に質問をお寄せくださり有難うございます。
同種の植物でも栽培する光の強さによって、厚い陽葉と薄い陰葉とが分化します。一本の木の中でも明るい場所と暗い場所では葉の厚さや面積が異なります。この陽葉と陰葉に関しては、これまでにも沢山の質問と回答があります。植物Q&Aの検索機能で調べてみてください。
光の強いところでは、厚い葉が形成されます。また、同じ光の強さだと低温で厚い葉、高温で薄い葉がつくられます。植物には光環境センサーとしてはたらく色素タンパク質があります。光の強さそのものも感知できますし、光の波長別の比率から周囲の植物の存在や太陽にどの程度さらされているのかを感じることができます。これらによって光が強い環境であるということを感知し厚い葉をつくるようです。これらの色素タンパク質については登録番号3015をご覧ください。展開中の葉も光強度を感知しますが、その葉よりも前にできた成熟葉の環境やその葉の光合成量も若い葉の光合成機能の決定に重要な役割を果たします(登録番号4839をご覧ください)。植物は、光合成系によっても光の強さを感知することができます。光が弱いと光合成電子伝達系は電子の不足のため酸化的であり、光が強いと電子が余り還元的になります。葉はこの酸化還元レベルを感知するのです。光の条件が同じでも、寒いと最終的にCO2を固定するカルビンサイクルの酵素反応などが遅くなるので、電子伝達系の電子が余り還元的になります。これが明るいところ仕様の葉や葉緑体をつくるシグナルとなっているようです。
寒いと呼吸速度が低いので、光合成によってつくられた糖などが葉に蓄積しやすいので葉が厚くなる、という説明には問題があります。チャを含む常緑樹では、葉が展開し葉の厚さが決まるころまでは、まだあまり光合成をしていないことがわかっています。植物は大切な資源を投入して葉を作ります。大切なものを生合成している最中に紫外線などでDNAやRNAなどが損傷されないように、紫外線を吸収するフラボノイドで身を守ります。茶の新芽がオレンジ色や飴色に見えるのはそのためです(Orange pekoeとよばれる新芽からつくられる紅茶など)。まずきちんと容れ物をつくり、それから葉緑体を充実させ光合成速度が高まるのはそのあとです。この問題については登録番号3780をご覧ください。ほとんど全ての常緑樹の葉の展開時に当てはまります。作物などの一年生草本では、葉の展開終了時に光合成速度は最高値に達しているので、常緑樹とずいぶん違います。
茶の産地は紅茶や烏龍茶などを含めて標高が高く霧のかかりやすい産地が多いようです。宇治の川霧などという和歌もあるほどです。そのような産地の新芽がおいしいお茶となります。また、茶樹を寒冷紗で1~2週間被陰しその期間に出た新芽を摘むことも行われ、これが、かぶせ茶や玉露などの高級茶となります。一煎目は低温で淹れてテアニンなどの甘みと香りを味わい、二煎目は熱い湯で淹れて渋みや苦みを楽しむのは至福ですよね。日当たりが良いところの葉はタンニン成分が増えて渋みが増します。私はこの渋い茶も好きです。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-01-25