一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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カルビン回路のCO2濃度切り換え実験について

質問者:   教員   フユシャク
登録番号6078   登録日:2025-01-14
藻類に光とCO2を十分与えたのちにCO2濃度を著しく低い条件にすると、RuBPが増加し、PGAが減少する、とグラフとともに資料集に書かれています。
この解釈は、CO2濃度の切り換えによって、カルビン回路においてCO2固定反応が抑制され、反応基質のRuBPが増加し、反応生成物としてのPGAは減少し、かつ既存のPGAは回路の次の反応基質として利用されることで減少したということかと思います。そこで気になるのが、グラフを見るとRuBPは増加後、減少しているのですが、このことについては触れられていません。
このRuBPの減少については次のように解釈しました。CO2固定反応を触媒する酵素ルビスコにおいて、CO2濃度減少に伴いRuBPへのO2付加反応の活性が上昇し、その結果、RuBPは減少した。
ただ、この解釈だと、O2付加反応により、PGAとホスホグリコール酸が生成するので、RuBPの減少に伴うPGAの増加が考えられますが、グラフではPGAは一定値まで減少後、変化していません。
また、そもそもO2付加反応の活性が維持されているならば、急激なRuBPの増加も起きにくいのではないかと、自分の解釈に釈然としていません。
実際の実験ではどのように変化したのか、また、どのような解釈がされているのかについてご教授願います。
フユシャクさま

みんなのひろば、植物「Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。回答が遅れてすみません。
Rubisco(ルビスコ)の反応にお詳しい牧野周・東北大学名誉教授から、以下の回答を頂きました。

【牧野先生のご回答】
ご指摘のデータは、カルビン回路の代謝中間体プール(細胞内の量、RuBPの場合は実際には葉緑体内の量)の変動を追ったもので、1970年代か80年代の実験だと思います。回答は非常に難しいですが、推測をすると以下の通りかと思います。

緑藻Rubiscoのカルボキシラーゼ反応とオキシゲナーゼ反応の最大反応速度(Vmax)は、おおよそ3:1くらいなので、CO2濃度を1%から0.003%に下げても、抑えられたカルボキシラーゼ反応を補完するだけのオキシゲナーゼ反応は起こりません。そのため、RubiscoによるRuBPの消費速度は大きく減少し、RuBPが一時的に溜まったのでしょう。

その後RuBPのプールの減少が見られるのは、カルビン回路自体の減速が進み(入口のカルボキシラーゼ反応が低CO2で抑えられるため)、それによってRuBPの再生産速度も低下して、RuBPのプールも小さくなった、と解釈できます。最終的に定常状態になって、やや高めの値で一定値に落ち着いたのでしょう。

低CO2処理後にPGAのプールが低くなったのは、CO2濃度を1%から0.003%に下げたため、カルビン回路全体におけるRubiscoの律速性が強まり、その定常状態でのRuBPのプールはやや高めに、PGAのプールはやや低めに落ちついたのでしょう。逆に1%CO2ではRubisco反応は律速ではないので、PGAのプールが高かったのだと思います(律速段階の前のプールが溜まる)。
牧野 周(東北大学名誉教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
宮尾 光恵
回答日:2025-01-23