質問者:
会社員
Marume
登録番号6081
登録日:2025-01-18
趣味で観葉植物を育てています。より詳しい育て方をオンラインで検索したく、マドカズラを学名で検索していたところ気付いたのですが、インターネット上の多くのサイトでMonstera adansoniiとして表記されています。マドカズラの学名はMonstera friedrichsthalii Schottという認識でした。マドカズラの学名
また、調べていくと、ヒメモンステラがMonstera adansoniiやRhaphidophora tetraspermaと表記されていることもあり、かなり混同していると感じます。
どの学名が正しいものでしょうか?
Marume 様
この度はみんなのひろばQ&Aコーナーへご質問ありがとうござました。
また回答までお待たせいたしました。
ご質問への回答は、維管束植物の分類が専門の北海道大学総合博物館 助教 首藤光太郎先生にお願いしました。
地球上に存在する様々な生き物をどのように分類するのか、そのルール決めは私たちが決めて行っているのですね。その基準は時代とともに変遷し、現在も様々に議論されながら更新され続けており興味深いですね。
【首藤先生からの回答】
まず、1つの生き物に対して複数の学名が存在することは、珍しいことではありません。
ある生物がもつ変異の範囲に対する認識の違いや、かつては海を超えて証拠標本を確認することが困難であったことなどが原因で、結果的に1つの生物に対して多くの学名が古くから生み出されてきました。
このような状況を放置すると、多くの誤解や混乱を生じます。そこで、その生物に使用すべき一つの学名を整理して、提案する必要があります。これが、分類学の醍醐味の一つです。
ただし、整理するのもそれほど簡単ではない場合があります。同じ生物に対してより早く発表された学名を採用する、というルールはありますが、そのためには発表に際して引用された標本や、それぞれの学名が有効に発表されていたかどうか、といった様々な点を丁寧に確認していく必要があります。近年では、このような確認は、たいていの場合科や属といったそれぞれの分類群の専門家によって行われます。この過程で専門家間に見解の相違が生じ、解決に至らないまま異なる学名を使用する見解が生じるケースもしばしばあります。
さて、私はサトイモ科やモンステラ属の専門家ではありませんが、簡単に調べられる範囲で、調べてみました。
まずマドカズラですが、イギリスのキュー王立植物園が運用するデータベース(Plants of the World Online, https://powo.science.kew.org/)によると、現在、Monstera adansoniiという種には、4つの亜種が認められています。このデータベースでは、Monstera friedrichsthaliiとして発表された植物は、このうちの一つである亜種Monstera adansonii subsp. laniataと同じものである、という見解が示されていました。この見解に従えば、マドカズラの正しい学名はMonstera adansonii subsp. laniataということになります。これらの亜種を認識しない場合、種としては学名Monstera adansoniiを使用することになります。このような見解は、少なくとも1977年の時点で、世界中のモンステラ属を整理した論文 (Madison 1977) においてすでに提案されていました。
ヒメモンステラの場合は、一筋縄ではいかないようでした。詳しくは私も存じ上げませんが、「ヒメモンステラ」という和名は、モンステラ属の小型園芸品種の総称として使う場合と、この園芸品種とは異なるヒメハブカズラ属のRhaphidophora tetraspermaという植物に使う場合があるようです。前者の場合は、自生する複数の種やこれらの雑種を含む可能性があるためより学名を調べるのが難しくなりますが、上記のモンテスラを小型化した品種に対してMonstera adansoniiを使用することもあるようです。
今回は、Marumeさんが認識している「ヒメモンステラ」がどちらの植物か、ということが問題になります。ぜひ調べてみてください。なお、私が検索した限りでは、英語で「Mini Monstera」とされている植物にはRhaphidophora tetraspermaが使用されている例が多いように見えました。
引用文献
Madison, M.T. (1977) A revision of Monstera (Araceae). Contributions from the Gray Herbarium of Harvard University 207: 3–100.
この度はみんなのひろばQ&Aコーナーへご質問ありがとうござました。
また回答までお待たせいたしました。
ご質問への回答は、維管束植物の分類が専門の北海道大学総合博物館 助教 首藤光太郎先生にお願いしました。
地球上に存在する様々な生き物をどのように分類するのか、そのルール決めは私たちが決めて行っているのですね。その基準は時代とともに変遷し、現在も様々に議論されながら更新され続けており興味深いですね。
【首藤先生からの回答】
まず、1つの生き物に対して複数の学名が存在することは、珍しいことではありません。
ある生物がもつ変異の範囲に対する認識の違いや、かつては海を超えて証拠標本を確認することが困難であったことなどが原因で、結果的に1つの生物に対して多くの学名が古くから生み出されてきました。
このような状況を放置すると、多くの誤解や混乱を生じます。そこで、その生物に使用すべき一つの学名を整理して、提案する必要があります。これが、分類学の醍醐味の一つです。
ただし、整理するのもそれほど簡単ではない場合があります。同じ生物に対してより早く発表された学名を採用する、というルールはありますが、そのためには発表に際して引用された標本や、それぞれの学名が有効に発表されていたかどうか、といった様々な点を丁寧に確認していく必要があります。近年では、このような確認は、たいていの場合科や属といったそれぞれの分類群の専門家によって行われます。この過程で専門家間に見解の相違が生じ、解決に至らないまま異なる学名を使用する見解が生じるケースもしばしばあります。
さて、私はサトイモ科やモンステラ属の専門家ではありませんが、簡単に調べられる範囲で、調べてみました。
まずマドカズラですが、イギリスのキュー王立植物園が運用するデータベース(Plants of the World Online, https://powo.science.kew.org/)によると、現在、Monstera adansoniiという種には、4つの亜種が認められています。このデータベースでは、Monstera friedrichsthaliiとして発表された植物は、このうちの一つである亜種Monstera adansonii subsp. laniataと同じものである、という見解が示されていました。この見解に従えば、マドカズラの正しい学名はMonstera adansonii subsp. laniataということになります。これらの亜種を認識しない場合、種としては学名Monstera adansoniiを使用することになります。このような見解は、少なくとも1977年の時点で、世界中のモンステラ属を整理した論文 (Madison 1977) においてすでに提案されていました。
ヒメモンステラの場合は、一筋縄ではいかないようでした。詳しくは私も存じ上げませんが、「ヒメモンステラ」という和名は、モンステラ属の小型園芸品種の総称として使う場合と、この園芸品種とは異なるヒメハブカズラ属のRhaphidophora tetraspermaという植物に使う場合があるようです。前者の場合は、自生する複数の種やこれらの雑種を含む可能性があるためより学名を調べるのが難しくなりますが、上記のモンテスラを小型化した品種に対してMonstera adansoniiを使用することもあるようです。
今回は、Marumeさんが認識している「ヒメモンステラ」がどちらの植物か、ということが問題になります。ぜひ調べてみてください。なお、私が検索した限りでは、英語で「Mini Monstera」とされている植物にはRhaphidophora tetraspermaが使用されている例が多いように見えました。
引用文献
Madison, M.T. (1977) A revision of Monstera (Araceae). Contributions from the Gray Herbarium of Harvard University 207: 3–100.
首藤 光太郎(北海道大学総合博物館)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2025-02-07
藤田 知道
回答日:2025-02-07