質問者:
一般
ほかほかの果穂
登録番号6082
登録日:2025-01-19
照葉樹林の土壌はどのように土壌の腐植を維持しているのでしょうかみんなのひろば
照葉樹林の土壌について
照葉樹林は落葉しないことから
落葉樹林よりも土壌表面の腐植が少ないというのは
落ち葉の有無で納得できるのですが
それでは落ち葉の供給により土壌表面の腐植が増えていく落葉樹林と異なり
葉の落ちない照葉樹林は腐植が分解され減っていく一方なのでしょうか
腐植が減らないとすれば理由として
・現実的には照葉樹林に紛れ込む落葉樹の落ち葉があるのでそれで腐植が増えている
・林床で地衣類が増え腐植となっている
・照葉樹の光合成産物が根から出て土壌へ供給している
・降雨によるリーチングで照葉樹の葉の養分を土壌へ供給している
・林床に訪れたまたまそこで亡くなった動物の遺骸が分解される
ぐらいしか思い浮かびません
照葉樹林の土壌について詳しい解説が見当たらず
見当違いな質問かもしれませんがよろしくおねがいします。
ほかほかの果穂 様
日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をお寄せくださり有難うございます。
まず、照葉樹林の常緑樹が落葉しない、というのは誤解です。落葉します。常緑樹については「植物Q&A」にたくさんの質問と回答がありますので、ぜひ、植物Q&Aの検索に「常緑樹」と入れて検索してみてください。常緑樹の定義は、「樹木に一年中葉がついている」というもので、葉の寿命については問題にしないのです。もちろん葉の寿命は1年以上の場合が多いですが、熱帯季節林に生える常緑樹には数か月程度の短いものもあります。
Russo SE and Kitajima K (2016) The ecology of leaf lifespan in tropical forests. In G. Goldstein and L.S. Santiago (eds.), Tropical Tree Physiology,
Tree Physiology 6, Springer. DOI 10.1007/978-3-319-27422-5_17
(https://russolab.unl.edu/PDF/Russo%20&%20Kitajima%202016%20chap%20in%20TropicalTreePhysiologyBook.pdf)
クスノキは日本原産ではありませんがなじみ深い常緑樹です。明るい場所にあるクスノキの葉の寿命はほぼ一年です。春の終わりや初夏にハラハラと落ちるクスノキの落葉に遭遇されたことはありませんか(登録番号5874)。
常緑樹も落葉しますので、地面におちた葉は菌類などによって分解されます。菌類による分解速度(土壌呼吸)は水分と地温によってほぼ決まります。おおざっぱに言うと、高緯度地帯では低温のために微生物の分解活性が低く、腐食の生産が遅く植物遺体が残りがちで泥炭(ピート)ができます。中緯度では遺体が分解され豊かな腐食ができます。一方、低緯度になると分解が速すぎて豊かな腐食とはなりません。鬱蒼とした熱帯多雨林の土壌は意外と貧弱です。照葉樹林もいろいろな場所に成立しますので、土壌腐食が少ない場所もあると思いますが、一般的には年間面積当たりの落葉・落枝の重さも落葉樹林よりも多く、豊かな土壌です。以下の解説をご覧ください。たしかに土壌についてネットで拾おうとすると苦労しますね。
八木久義(1995)熱帯の土壌。熱帯林業 33:64-66.
https://www.jifpro.or.jp/cgi-bin/ntr/documents/NET3364.pdf
(元データは 堤利夫(1989)森林生態学 朝倉書店)
なお、お考えいただいたうち、以下の二つは「ご明察」だと思いました。
・照葉樹の光合成産物が根から出て土壌へ供給している については、樹木に限らず植物がやっていることです。今後、大気のCO2濃度が上昇した場合には増える可能性があり、さかんに研究されている分野です。
・降雨によるリーチングで照葉樹の葉の養分を土壌へ供給している。 葉の養分というよりも、降雨に含まれる窒素や硫黄化合物を枝葉が集め、幹の表面を伝わる樹幹流として集め、自身の根もとに供給することが注目されています。 これについては、登録番号2065番、また、以下の本に九州大学の久米篤教授の解説があります。
森林水文学編集委員会(2007)森林水文学 森北出版
日本植物生理学会 みんなのひろば 植物Q&Aに質問をお寄せくださり有難うございます。
まず、照葉樹林の常緑樹が落葉しない、というのは誤解です。落葉します。常緑樹については「植物Q&A」にたくさんの質問と回答がありますので、ぜひ、植物Q&Aの検索に「常緑樹」と入れて検索してみてください。常緑樹の定義は、「樹木に一年中葉がついている」というもので、葉の寿命については問題にしないのです。もちろん葉の寿命は1年以上の場合が多いですが、熱帯季節林に生える常緑樹には数か月程度の短いものもあります。
Russo SE and Kitajima K (2016) The ecology of leaf lifespan in tropical forests. In G. Goldstein and L.S. Santiago (eds.), Tropical Tree Physiology,
Tree Physiology 6, Springer. DOI 10.1007/978-3-319-27422-5_17
(https://russolab.unl.edu/PDF/Russo%20&%20Kitajima%202016%20chap%20in%20TropicalTreePhysiologyBook.pdf)
クスノキは日本原産ではありませんがなじみ深い常緑樹です。明るい場所にあるクスノキの葉の寿命はほぼ一年です。春の終わりや初夏にハラハラと落ちるクスノキの落葉に遭遇されたことはありませんか(登録番号5874)。
常緑樹も落葉しますので、地面におちた葉は菌類などによって分解されます。菌類による分解速度(土壌呼吸)は水分と地温によってほぼ決まります。おおざっぱに言うと、高緯度地帯では低温のために微生物の分解活性が低く、腐食の生産が遅く植物遺体が残りがちで泥炭(ピート)ができます。中緯度では遺体が分解され豊かな腐食ができます。一方、低緯度になると分解が速すぎて豊かな腐食とはなりません。鬱蒼とした熱帯多雨林の土壌は意外と貧弱です。照葉樹林もいろいろな場所に成立しますので、土壌腐食が少ない場所もあると思いますが、一般的には年間面積当たりの落葉・落枝の重さも落葉樹林よりも多く、豊かな土壌です。以下の解説をご覧ください。たしかに土壌についてネットで拾おうとすると苦労しますね。
八木久義(1995)熱帯の土壌。熱帯林業 33:64-66.
https://www.jifpro.or.jp/cgi-bin/ntr/documents/NET3364.pdf
(元データは 堤利夫(1989)森林生態学 朝倉書店)
なお、お考えいただいたうち、以下の二つは「ご明察」だと思いました。
・照葉樹の光合成産物が根から出て土壌へ供給している については、樹木に限らず植物がやっていることです。今後、大気のCO2濃度が上昇した場合には増える可能性があり、さかんに研究されている分野です。
・降雨によるリーチングで照葉樹の葉の養分を土壌へ供給している。 葉の養分というよりも、降雨に含まれる窒素や硫黄化合物を枝葉が集め、幹の表面を伝わる樹幹流として集め、自身の根もとに供給することが注目されています。 これについては、登録番号2065番、また、以下の本に九州大学の久米篤教授の解説があります。
森林水文学編集委員会(2007)森林水文学 森北出版
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-01-27