一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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セルロースの抽出方法について

質問者:   自営業   NY
登録番号6085   登録日:2025-01-21
初めまして。
地球温暖化に関する本を熟読している中で、植物の可能性、それにともないセルロースが果たす役割について、学習しました。
また落ち葉にもセルロースが含まれている点も知ることができました。

質問です。
落ち葉からセルロースを抽出することは可能だと思いますでしょうか。もし可能だとしたら、手段としてはどのような手順が考えられますでしょうか。
NY 様

この度はみんなのひろばQ&Aコーナーへご質問ありがとうござました。
また回答までお待たせいたしました。
ご質問への回答は、植物細胞壁の研究をご専門とされている神奈川大学教授・東北大学名誉教授の西谷和彦先生にご回答いただきました。

【西谷先生の回答】
枯葉からセルロースを抽出することはできるかとのご質問ですが、基本的に可能です。
枯葉の主成分は細胞壁由来のセルロース、リグニン、タンニンなどの炭素化合物です。それらは、土壌上面や土壌中で、微生物や菌類、動物により分解されます。この過程は、地球炭素循環の主要な経路で、枯葉は、土壌中の従属栄養生物の栄養となり、セルロースなどの糖質は呼吸により最終的には二酸化炭素にまで分解され、大気に還り、陸上の生命圏の物質循環が保たれています。
枯れ葉は植物体から離れる前にすでに、植物自身の自己分解で細胞壁中の多糖類の一部は分解されているので、乾燥しているだけでなく、その化学的な性質は大きく変化していると考えられます。セルロースは細胞壁中ではヘミセルロースやペクチン、リグニンなどの他の高分子と結合して高次構造を形成し、セルロース固有の結晶構造が維持されています。リグニンやセルロース結晶構造は比較的自己消化されにくいので、ヘミセルロースやペクチンが分解されてしまうと、セルロースとリグニンのみが残り、細胞壁の高次構造は大きく変化します。
枯葉からのセルロース抽出は、農業残渣からのセルロース抽出と同じ方法で可能と考えられます。
セルロースは水にも溶媒にも溶けない結晶性の固体です。したがって、「抽出」とは、セルロースを溶かし出すのではなく、セルロースに絡みついているリグニンなどの他の成分を除き、セルロースだけを取り出すことを言います。抽出工程は植物材料(木材か、農業廃棄物かなど)の違いや、抽出後のセルロースの利用目的(パルプをつくるのかバイオエタノールを作るのか)により異なります。これまで、アルカリ溶液でリグニンやヘミセルロースを除去する方法、酸処理でリグニンを除去する方法、機械処理により細胞壁成分の分離を促進する方法などが使われてきましたが、これらはいずれも環境負荷が大きいことから、環境負荷の低い方法が模索されてきました。現在では、上記の古典的な方法に加え、有機溶媒抽出法、高圧の蒸気の爆発による剪断力で細胞璧中の成分を分離する方法、低温プラズマで細胞壁表面を変化させる方法、数千気圧の高圧で細胞壁成分を分解する方法、超音波で過酸化水素を発生させそれにより狭雑物を分解する方法、マイクロ波を用いる方法、深共晶溶媒によりセルロースを分離する方法などが開発されています。特に、最後に挙げた深共晶溶媒を用いる方法は、環境負荷の少ないセルロース分離法として注目されています。
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いかがでしたでしょうか。目的などに応じて随分と様々な方法が工夫、開発されているのですね。
当コーナーでは植物のふしぎに関する質問をお受けしており、こうしたことに関する疑問などございましたら今後またご利用ください。
西谷 和彦(神奈川大学教授・東北大学名誉教授)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2025-02-07