質問者:
一般
ぎぃ
登録番号6092
登録日:2025-02-03
ご質問の程、宜しくお願いします。みんなのひろば
観葉植物の根と光(光合成)の関係について
昨今、園芸で観葉植物を鉢植えで育成する際に、透明の鉢植えで育てるケースが増えてきているようですが、
植物が成長するに伴い鉢内の根が見える状態になった際に、根が受ける光に対しての影響については、一般の方では人によって見解が分かれているように見受けられます。
(根が光を嫌うのか、特に影響がないのかなど)
学術的にはどのような研究結果が出せれているのでしょうか?
また、一部の植物(ランなど)は根も光合成をしていたり、地上部を失った植物は根で光合成を始めるなどと認識しておりますが、健康な状態の観葉植物が根で光合成を行うことはあるのでしょうか?
特に蔓性の植物については、地下部の根が受ける光に対しての反応(光合成など)と、気根が受ける光に対しての反応の違いなどがあれば知りたいです。
宜しくお願いします。
ぎぃ 様
日本植物生理学会 みんなのひろば「植物Q&A」に質問をおよせくださり有難うございます。今回は、ご自身で根の光合成の研究もなさっている大阪公立大学の小林康一先生に回答を依頼しました。
植物Q&Aは、みなさまのご質問に対する専門家の回答でなりたっていますが、参考文献などもきちんと書かれている回答も多いので、植物Q&Aの検索欄にキーワードを入力して利用していただくこともできます。間違いを見つけた場合には適宜訂正もして内容を更新しています。今回も、小林先生がきちんと文献をつけてくださいました。以下の文献のなかにはネットで誰にでも読めるものも含まれています。
【小林先生の回答】
まず、「植物の根が光を嫌うのか、光による影響を受けるのか」ということについて、植物の根が光に対して逃げる応答(負の光屈性)を示すことが1800年代後半に見出されており、チャールズ・ダーウィンの有名な著書「植物の運動力(The Power of Movements in Plants)」にも記述されています (1,2)。その後の研究により、多くの植物種の根が負の光屈性を示す一方で、それと同じくらい光屈性を示さない植物種もいることが明らかにされています(3,4)。光屈性については、登録番号0916や登録番号1991をご参照ください。また、シロイヌナズナにおける最近の研究から、根に光が当たると、負の光屈性が起こる以外に、根の全体としての成長が抑制されることや、ストレスの影響を受けやすくなること、栄養分の吸収が悪くなることなどが報告されています(5-7)。
次に、「健康な状態の観葉植物が根で光合成を行うことはあるのか」、というご質問について回答します。観葉植物の根でどの程度光合成が行われるのかについて調べた研究は見つかりませんでしたが、私自身がこれまで調べた経験から言いますと、多くの植物において(アサガオやタンポポなど)、根に光を当てて育てると光合成色素であるクロロフィルが根にある程度蓄積し、光合成の反応を示します。ただし、シロイヌナズナやクモランなどの一部の植物を除いては(8,9)、それらの研究結果は未発表である点にご留意ください。その結果を踏まえますと、観葉植物においても、根に光が当たり緑になれば、葉ほどではなくても光合成が行われると推測されます。
最後に、蔓性の植物の気根が光にどのような反応を示すのかについての情報は見つけられませんでしたが、マングローブを構成する植物(/Avicennia marina/など)の気根(呼吸根)については研究があり、呼吸根の表皮のすぐ内側には緑色の層があり、そこで光合成が行われることが報告されています(10,11)。また、呼吸根の光合成により生じた酸素は根での呼吸に使われることが示唆されています。ご存じのように、常に地上に露出している着生ランの根は光合成を行うことが知られていますので、それらの例を考えますと、これまで研究されていない種であっても、地上にあって緑色になっている根があれば、そこではわずかながらでも光合成が行われていると推測するのが妥当であると言えます。
(1)Darwin C (1880) The power of movement in plants. John Murray, London.
(2)Kutschera, U., Briggs, W.R. (2012) Root phototropism: from dogma to the mechanism of blue light perception. Planta 235, 443–452. https://doi.org/10.1007/s00425-012-1597-y
(3)Schaefer R (1911) Heliotropismus der Wurzeln. Buchdruckerei Gutenberg, Charlottenburg.
(4)Hubert B, Funke GL (1937) The phototropism of terrestrial roots. Biol Jaarboek 4, 286–315.
(5)Silva-Navas, J., Moreno-Risueno, M.A., Manzano, C., Pallero-Baena, M., Navarro-Neila, S., Téllez-Robledo, B. et al. (2015) D-Root: a system for cultivating plants with the roots in darkness or under different light conditions. Plant J., 84, 244–255.
https://doi.org/10.1111/tpj.12998
(6)Yokawa, K., Fasano, R., Kagenishi, T., Baluška, F. (2014) Light as stress factor to plant roots—Case of root halotropism. Front. Plant Sci., 5, 718.
https://doi.org/10.3389/fpls.2014.00718
(7)Lacek, J., García-González, J., Weckwerth, W., Retzer, K. (2021). Lessons learned from the studies of roots shaded from direct root illumination. Int. J. Mol. Sci. 22, 12784.
https://doi.org/10.3390/ijms222312784
(8)Kobayashi, K., Baba, S., Obayashi, T., Sato, M., Toyooka, K., Keranen, M., Aro, E.M., Fukaki, H., Ohta, H., Sugimoto, K., Masuda, T. (2012) Regulation of root greening by light and auxin/cytokinin signaling in Arabidopsis. Plant Cell 24, 1081–1095.
https://doi.org/10.1105/tpc.111.092254
(9)Suetsugu, K., Sugita, R., Yoshihara, A., Okada, H., Akita, K., Nagata, N., Tanoi, K., Kobayashi, K. (2023) Aerial roots of the leafless epiphytic orchid /Taeniophyllum/ are specialized for performing crassulacean acid metabolism photosynthesis. New Phytologist 238, 932-937.
https://doi.org/10.1111/nph.18812
(10)Aiga, I., Nakano, Y., Ohki, S., Kitaya, Y., Yabuki, K. (1995) Photosynthetic CO_2 fixation in pneumatophores of gray mangrove, /Avicennia marina/. Environ. Control Biol. 33, 97.
https://doi.org/10.2525/ecb1963.33.97 (1995).
(11)Kitaya, Y., Yabuki, K., Kiyota, M., Tani, A., Hirano, T. (2002) Aiga, I. Gas exchange and oxygen concentration in pneumatophores and prop roots of four mangrove species. Trees, 16, 155–158.
https://doi.org/10.1007/s00468-002-0167-5
小林 康一(大阪公立大学)
(小林先生の研究室HPは以下です。)
https://sites.google.com/view/kobayashi-lab/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
日本植物生理学会 みんなのひろば「植物Q&A」に質問をおよせくださり有難うございます。今回は、ご自身で根の光合成の研究もなさっている大阪公立大学の小林康一先生に回答を依頼しました。
植物Q&Aは、みなさまのご質問に対する専門家の回答でなりたっていますが、参考文献などもきちんと書かれている回答も多いので、植物Q&Aの検索欄にキーワードを入力して利用していただくこともできます。間違いを見つけた場合には適宜訂正もして内容を更新しています。今回も、小林先生がきちんと文献をつけてくださいました。以下の文献のなかにはネットで誰にでも読めるものも含まれています。
【小林先生の回答】
まず、「植物の根が光を嫌うのか、光による影響を受けるのか」ということについて、植物の根が光に対して逃げる応答(負の光屈性)を示すことが1800年代後半に見出されており、チャールズ・ダーウィンの有名な著書「植物の運動力(The Power of Movements in Plants)」にも記述されています (1,2)。その後の研究により、多くの植物種の根が負の光屈性を示す一方で、それと同じくらい光屈性を示さない植物種もいることが明らかにされています(3,4)。光屈性については、登録番号0916や登録番号1991をご参照ください。また、シロイヌナズナにおける最近の研究から、根に光が当たると、負の光屈性が起こる以外に、根の全体としての成長が抑制されることや、ストレスの影響を受けやすくなること、栄養分の吸収が悪くなることなどが報告されています(5-7)。
次に、「健康な状態の観葉植物が根で光合成を行うことはあるのか」、というご質問について回答します。観葉植物の根でどの程度光合成が行われるのかについて調べた研究は見つかりませんでしたが、私自身がこれまで調べた経験から言いますと、多くの植物において(アサガオやタンポポなど)、根に光を当てて育てると光合成色素であるクロロフィルが根にある程度蓄積し、光合成の反応を示します。ただし、シロイヌナズナやクモランなどの一部の植物を除いては(8,9)、それらの研究結果は未発表である点にご留意ください。その結果を踏まえますと、観葉植物においても、根に光が当たり緑になれば、葉ほどではなくても光合成が行われると推測されます。
最後に、蔓性の植物の気根が光にどのような反応を示すのかについての情報は見つけられませんでしたが、マングローブを構成する植物(/Avicennia marina/など)の気根(呼吸根)については研究があり、呼吸根の表皮のすぐ内側には緑色の層があり、そこで光合成が行われることが報告されています(10,11)。また、呼吸根の光合成により生じた酸素は根での呼吸に使われることが示唆されています。ご存じのように、常に地上に露出している着生ランの根は光合成を行うことが知られていますので、それらの例を考えますと、これまで研究されていない種であっても、地上にあって緑色になっている根があれば、そこではわずかながらでも光合成が行われていると推測するのが妥当であると言えます。
(1)Darwin C (1880) The power of movement in plants. John Murray, London.
(2)Kutschera, U., Briggs, W.R. (2012) Root phototropism: from dogma to the mechanism of blue light perception. Planta 235, 443–452. https://doi.org/10.1007/s00425-012-1597-y
(3)Schaefer R (1911) Heliotropismus der Wurzeln. Buchdruckerei Gutenberg, Charlottenburg.
(4)Hubert B, Funke GL (1937) The phototropism of terrestrial roots. Biol Jaarboek 4, 286–315.
(5)Silva-Navas, J., Moreno-Risueno, M.A., Manzano, C., Pallero-Baena, M., Navarro-Neila, S., Téllez-Robledo, B. et al. (2015) D-Root: a system for cultivating plants with the roots in darkness or under different light conditions. Plant J., 84, 244–255.
https://doi.org/10.1111/tpj.12998
(6)Yokawa, K., Fasano, R., Kagenishi, T., Baluška, F. (2014) Light as stress factor to plant roots—Case of root halotropism. Front. Plant Sci., 5, 718.
https://doi.org/10.3389/fpls.2014.00718
(7)Lacek, J., García-González, J., Weckwerth, W., Retzer, K. (2021). Lessons learned from the studies of roots shaded from direct root illumination. Int. J. Mol. Sci. 22, 12784.
https://doi.org/10.3390/ijms222312784
(8)Kobayashi, K., Baba, S., Obayashi, T., Sato, M., Toyooka, K., Keranen, M., Aro, E.M., Fukaki, H., Ohta, H., Sugimoto, K., Masuda, T. (2012) Regulation of root greening by light and auxin/cytokinin signaling in Arabidopsis. Plant Cell 24, 1081–1095.
https://doi.org/10.1105/tpc.111.092254
(9)Suetsugu, K., Sugita, R., Yoshihara, A., Okada, H., Akita, K., Nagata, N., Tanoi, K., Kobayashi, K. (2023) Aerial roots of the leafless epiphytic orchid /Taeniophyllum/ are specialized for performing crassulacean acid metabolism photosynthesis. New Phytologist 238, 932-937.
https://doi.org/10.1111/nph.18812
(10)Aiga, I., Nakano, Y., Ohki, S., Kitaya, Y., Yabuki, K. (1995) Photosynthetic CO_2 fixation in pneumatophores of gray mangrove, /Avicennia marina/. Environ. Control Biol. 33, 97.
https://doi.org/10.2525/ecb1963.33.97 (1995).
(11)Kitaya, Y., Yabuki, K., Kiyota, M., Tani, A., Hirano, T. (2002) Aiga, I. Gas exchange and oxygen concentration in pneumatophores and prop roots of four mangrove species. Trees, 16, 155–158.
https://doi.org/10.1007/s00468-002-0167-5
小林 康一(大阪公立大学)
(小林先生の研究室HPは以下です。)
https://sites.google.com/view/kobayashi-lab/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
JSPPサイエンスアドバイザー
寺島 一郎
回答日:2025-03-11
寺島 一郎
回答日:2025-03-11