一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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光合成におけるATP利用について

質問者:   一般   ウッウ
登録番号6093   登録日:2025-02-03
初めての質問です。
植物が行う代謝(光合成と呼吸)についてですが、光合成のうち光化学系ではATPとNADPHを作り、カルビン回路にてグルコース合成をして呼吸してATP合成というのはわかるのですが、光化学系で一度作ったATPをグルコースに変換し、また呼吸でグルコースからATPを作るというのが二度手間に感じます。光化学系で作ったATPの化学エネルギーをそのまま利用せずなぜ有機物の化学エネルギーに変換する必要があるのですか?
ウッウさま

みんなのひろば、植物「Q&A」に質問をお寄せくださりありがとうございます。 回答が遅くなってすみません。

 光合成は昼間にだけ行われますが、夜すべての生理活動が停止するわけではなく、呼吸は昼も夜も絶えず行われています。呼吸で産生されたATP等のエネルギーは、さまざまな生体分子の合成や損傷した生体分子の分解等、多様な生理反応に使われます。光合成反応で産生されるエネルギー(ATPと還元力)を直接これらの反応に使ってしまえば、日の当たっている昼間しか生命維持のための反応が行えなくなります。また、単細胞の光合成生物では細胞分裂を行い増殖するため、植物では新たな器官(葉と茎、花、果実)を形成し成長するため、および、根を伸長させ養分を吸収するため、光合成で産生されるエネルギーと有機物が必要です。そのため、光合成生物は光合成産物を蓄積する仕組みを持っています。
  単細胞で光合成を行うシアノバクテリア(藍色細菌、藍藻)では、昼間は光合成産物をグリコーゲンあるいはデンプンとして細胞内に蓄積し、夜これらの蓄積物を分解し、生命活動に必要なエネルギーを得ています。グリコーゲンの分解に関わる遺伝子の発現が、体内時計で制御されていることがわかっています。植物の光合成産物は糖(スクロース)とデンプンです。糖は細胞内で消費されるか、他の器官に輸送されて使われるかデンプンとして蓄積されます。光合成が活発な葉の葉緑体にデンプンが蓄積することもあります。植物の場合は、光合成の場(葉緑体)と呼吸の場(解糖系は細胞質、電子伝達系とクエン酸回路はミトコンドリア)を分けることで、昼と夜の細胞内の生理反応を円滑に行えるようにしています(葉緑体内で産生されたATPの利用に関しては登録番号2667を参照して下さい)。
  なお、植物の葉の呼吸速度は光合成速度の約10分の1とされています。植物体レベルでは、作物などの一年生草本では総光合成量の30%以上を、熱帯の大木では70%以上を、樹木を含めた陸上植物全体では約半分を呼吸で消費しています。陸上生態系全体では、微生物の土壌呼吸が加わるので、固定された炭素のほとんど(98-99%)が呼吸されます。登録番号5337にあるように、年間で炭素が陸上生態系に加わる量は1~2 Pg C/年です。
宮尾 光恵(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-02-25