質問者:
一般
チームヒマラヤ2
登録番号6098
登録日:2025-02-04
樹木観察が好きで色々な植物園や公園の散策を楽しんでいる者です。カリンの幹の不思議
チームヒマラヤ2様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
複数の樹がお互いに密着し合って生育すると、樹が大きくなるに従って幹あるいは枝が癒着することは珍しい現象ではなく、野外でも見られます。複数の樹木の幹が癒着したものは、合体樹(合体木)と呼ばれています(植物学用語ではありません)。日本では、神社仏閣の庭に古木・老木があることが多いですが、これらの中には合体樹がかなりあります。中には天然記念物に指定されているものもあります。
合体する樹種は同種だけでなく異種間でもあります。日本の名木といわれる古木・老木の合体樹を網羅して、写真も掲載している論文(*1)をWEB上で閲覧することができますので、ご覧になってください。
枝同士が癒着する場合は「連理の枝」という名前が付けられており、人為的にも鑑賞目的や実用的にも作出されています。果樹園で多数の果樹の枝をつなげたりしています。因みにご存知かもしれませんが、「連理の枝」とは、唐の詩人白居易の長文詩「長恨歌」の終わりに出てくる句、”天に在りては願はくは比翼の鳥となり、地に在りては願はくは連理の枝とならん” という夫婦/男女仲の良いことを意味する言葉です。
いずれにしろ、樹木の幹や枝同士が癒着することは比較的容易です。例えば、「接木」というのはそれを応用した栽培技術です。接木については本コーナーにも多くの関連質問がとりあげられていますが、登録番号3810を読んでみてください。
樹の幹・枝が癒着するということは、幹・枝の組織が一緒になることです。癒着し合った同士があたかも一本の樹の様になるためには栄養分や水を輸送する通道組織(維管束組:師部、木部)が繋がらないといけません。
複数の樹が密着して生育する場合、それぞれが独立した樹であれば、栄養や水分の取り合い、陽当たりなどの気象状況の違いなどが影響して、最終的にはどれかの成長がいちじるしく抑えられてしまうか、枯れてしまうことになるかと思います。ことに異種間の樹ではそうなる可能性は大きいのではないかと推察します。しかし、チームヒマラヤ2さんが観察されたカリンの場合はヒコバエということなので、そうだとすると、同じ一本の樹の基部から発芽した多数の芽がそのまま成長しているのでしょう。その場合は、たまたま地中から発芽・成長した枝と同等ではないかと思います。だとすると同じように成長が進んだ結果押し合い圧し合いの機械的圧力で接触面が傷つき、そこに癒傷組織(登録番号1694を読んでください)ができて、両者の組織の癒合が起きたのでしょう。前述の論文の写真の例をみると、その様に考えられる合体樹が多いです。
最初に癒着が始まった場所では徐々にいわゆる樹皮(登録番号2528, 4967を読んでください)が覆いかぶさってきて、最終的にはわからなくなります。従って合体樹も上部の新しく成長した部分は、あたかも一本の樹の様にみえます。しかし、樹幹を輪切りにしてみると、癒着部分からは新しく全体に繋がった年輪(年輪については登録番号4967をよんでください)が形成されています。樹木医の瀬尾一樹という方の「年輪を観察して、木の生き方を読み取ろう!」というネット上の記事の中に、合体樹の年輪の写真があります。この問題についての研究論文を探してみましたが、見つかりませんでした。ただ、英文ですが、樹木のさまざまな形態を解説した本(*2)がありました。写真はないですが、すべて図示してあります。その中に合体樹の癒着部分で、年輪が新たに外側に広がって形成されていく有様が図示されています。
ご質問への十分な回答になっているかどうか分かりませんが、ご不明な点がありましたら、さらにご質問ください。
*1 巨木、老樹における個体の合体および分解 小笠原隆二 紅葉樹研究 No.7:49−80(1993)
*2 C,Mattheck Trees The Mechanical Design Springer-Verlag, 1991 (Printed in USA)
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
複数の樹がお互いに密着し合って生育すると、樹が大きくなるに従って幹あるいは枝が癒着することは珍しい現象ではなく、野外でも見られます。複数の樹木の幹が癒着したものは、合体樹(合体木)と呼ばれています(植物学用語ではありません)。日本では、神社仏閣の庭に古木・老木があることが多いですが、これらの中には合体樹がかなりあります。中には天然記念物に指定されているものもあります。
合体する樹種は同種だけでなく異種間でもあります。日本の名木といわれる古木・老木の合体樹を網羅して、写真も掲載している論文(*1)をWEB上で閲覧することができますので、ご覧になってください。
枝同士が癒着する場合は「連理の枝」という名前が付けられており、人為的にも鑑賞目的や実用的にも作出されています。果樹園で多数の果樹の枝をつなげたりしています。因みにご存知かもしれませんが、「連理の枝」とは、唐の詩人白居易の長文詩「長恨歌」の終わりに出てくる句、”天に在りては願はくは比翼の鳥となり、地に在りては願はくは連理の枝とならん” という夫婦/男女仲の良いことを意味する言葉です。
いずれにしろ、樹木の幹や枝同士が癒着することは比較的容易です。例えば、「接木」というのはそれを応用した栽培技術です。接木については本コーナーにも多くの関連質問がとりあげられていますが、登録番号3810を読んでみてください。
樹の幹・枝が癒着するということは、幹・枝の組織が一緒になることです。癒着し合った同士があたかも一本の樹の様になるためには栄養分や水を輸送する通道組織(維管束組:師部、木部)が繋がらないといけません。
複数の樹が密着して生育する場合、それぞれが独立した樹であれば、栄養や水分の取り合い、陽当たりなどの気象状況の違いなどが影響して、最終的にはどれかの成長がいちじるしく抑えられてしまうか、枯れてしまうことになるかと思います。ことに異種間の樹ではそうなる可能性は大きいのではないかと推察します。しかし、チームヒマラヤ2さんが観察されたカリンの場合はヒコバエということなので、そうだとすると、同じ一本の樹の基部から発芽した多数の芽がそのまま成長しているのでしょう。その場合は、たまたま地中から発芽・成長した枝と同等ではないかと思います。だとすると同じように成長が進んだ結果押し合い圧し合いの機械的圧力で接触面が傷つき、そこに癒傷組織(登録番号1694を読んでください)ができて、両者の組織の癒合が起きたのでしょう。前述の論文の写真の例をみると、その様に考えられる合体樹が多いです。
最初に癒着が始まった場所では徐々にいわゆる樹皮(登録番号2528, 4967を読んでください)が覆いかぶさってきて、最終的にはわからなくなります。従って合体樹も上部の新しく成長した部分は、あたかも一本の樹の様にみえます。しかし、樹幹を輪切りにしてみると、癒着部分からは新しく全体に繋がった年輪(年輪については登録番号4967をよんでください)が形成されています。樹木医の瀬尾一樹という方の「年輪を観察して、木の生き方を読み取ろう!」というネット上の記事の中に、合体樹の年輪の写真があります。この問題についての研究論文を探してみましたが、見つかりませんでした。ただ、英文ですが、樹木のさまざまな形態を解説した本(*2)がありました。写真はないですが、すべて図示してあります。その中に合体樹の癒着部分で、年輪が新たに外側に広がって形成されていく有様が図示されています。
ご質問への十分な回答になっているかどうか分かりませんが、ご不明な点がありましたら、さらにご質問ください。
*1 巨木、老樹における個体の合体および分解 小笠原隆二 紅葉樹研究 No.7:49−80(1993)
*2 C,Mattheck Trees The Mechanical Design Springer-Verlag, 1991 (Printed in USA)
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2025-02-17